第七章:暗中飛躍-20

 


「キャインッ!!?」


「キャウンッッ!?」


「くぅぅぅん……」


「──っぐぐぐぅぅぅぅ……。あ゛ぁもうっ!!」


 剣を振り払い、刀身の血を落としたヘリアーテは三匹のハウンドウルフを斬り伏せた途端にそんな唸るような声を上げる。


「何なのよもうっ! 斬り倒す度に悲痛な声出すんじゃないわよっ!! 普通の犬斬ってるみたいで罪悪感ハンパないじゃないのよっ!!」


 一応、ハウンドウルフも犬は犬なんだがな。まあ魔物に変わりないし、こうして処理しなければ悲惨な状況になるのは必至だろう。


 と、言っても用意したのは私なんだがな。


 ──私達は私が解き放った大量の魔物が群がる四つのアジトにそれぞれ散らばり、盗賊の死体が食い荒らされないよう尽力している。


 元々居た生徒達や教師達には「血の匂いに惹き付けられた魔物達がコチラに向かっているから避難して欲しい」と告げ、一時間前に避難して貰っている。


 一応嘘は吐いていない。ただ「私が解き放った」という一部を話していないだけだからな。


 仮に何故魔物が急に? と聞かれたとしても相手が神出鬼没の魔物である以上、「私にもわからない」で無理矢理に通る。いやはや、魔物とはなんと便利な存在だろうな。


 因みに四つのアジトへの割り振りは──


 廃村アジトには私、シセラ、ヘリアーテ


 北の人身売買盗賊団のアジトにはヴァイス、ティール、ロセッティ


 南にあるアジトにはグラッド、ムスカ


 更に南にあるアジトにはロリーナ、ディズレー、ユウナ


 ──を担当させている。


 ティールとユウナにも一応「魔物相手なら多少はやり易いだろう?」と言って参加させている。


 まあ、ティールはどちらかと言えば魔物の木彫りを作って貰いたいが為に参加させ、ユウナは訓練で直接手を下していないようだったので強制参加させている。


 それとヴァイスだが──


『魔物退治なら僕にも役に立てる。参加させてくれ』


 と頑として避難しようとしなかったので止む無く参加させている。時が来たら強制的に帰還させるしかないだろうな。


「というかアンタっ! なんでわざわざ犬みたいなのを用意したのよっ!? どうせならもっと罪悪感無いヤツ用意しときなさいよっ!!」


 そう私から少し離れた場所で嘆きを上げるヘリアーテは、自身に襲い掛かってくるハウンドウルフに眉をひそめながら剣を振るう。


「仕方がないだろうっ。エルフ奴等が実験用に用意していたのがハウンドウルフだけだったのだからなっ」


 恐らく元々アールヴ国内で生息していた狼をベースに魔物化させたのだろう。私達人族に対する襲撃用か、はたまた増え過ぎた種を間引く目的だったのかは判らんがな。


 アールヴの大臣も知らんようだったし、機会があったら関係者──魔生物研究部門にでもみるのもアリか……。






 暫くそうして黙々とハウンドウルフを狩り続けている。そんな最中。


「キャウンッッ……」


「もう……もうっ! 何匹来んのよぉっ!!」


 不承不承と狩りを続けていたヘリアーテ。しかしそんな彼女の動きがいつもより鈍くなっているのに気が付く。


 確かに中休みがあったとはいえ連戦している事に変わりはない。体力的にも精神的にも疲労が蓄積し、動きが鈍くなるのは当然の話だろう。


 だが今の彼女の動きはそういうのとはどこか種類が違う……。


 ……もしや。


「ヘリアーテっ!」


「はぁっ!? 何よっ!?」


「その剣、使い辛いんじゃないか?」


「えっ!?」


 私に指摘されたヘリアーテはそれを聞くと露骨に図星を突かれたように吃驚びっくりし、顔を引き攣らせる。


「やはりか。さては君、この数週間でまた筋力が増して剣が軽過ぎるように感じ始めたんじゃないか?」


「ば、バカじゃないのっ!? そんな事あるわ、け──」


 ガキィィィィンッッ!!


 ヘリアーテが余所見をしながら剣を振るってしまった結果、あらぬ方向へと剣の軌道がズレ、地面へと思い切り叩き付けてしまい刀身を真っ二つに折ってしまう。


 愛馬である竣驪しゅんれいの全力の突進を受け止められる私を、《剛体》や《不動》を発動させた状態で投げ飛ばせてしまうヘリアーテの全力の叩き付け……。


「勤勉の勇者」であるモーガン手製の剣も流石に耐え切れなかったようだな。


「あ、ちょ、折れちゃった……」


 そう言いながら折れた剣と私を交互に見るヘリアーテ。こうなるともう言い訳は出来ない。


「わ、私だって驚いてんのよっ! そりゃあ前々から剣軽いな、とは思ってたけど、どちらかと言えば使い易かったんだからねっ!? ここ最近よ、軽過ぎてなんか使い辛くなったのは……」


「だが盗賊相手には難なく振るっていたじゃないか」


「あのくらいの奴等相手なら多少無理すればなんとかなってたのよっ! でも魔物相手だと人と勝手が違うから……分かるでしょっ!?」


「……成る程な」


 これはつまりアレか。私が彼女を稽古したり色々と経験させたりした影響が単純に筋力として現れてしまった、と……。


 ふむ。それは少し予想外だな……。


「って、魔物来てる来てるって!!」


 そうこうしている内にハウンドウルフがヘリアーテを狙い迫って来る。いくら何でも折れた剣ではまともな戦いもままならないだろう。ならば──


「取り敢えずコレを試してみなさいっ!」


「えっ!?」


 私はそう言ってヘリアーテを呼び、ポケットディメンションを開いて中から大剣を取り出して彼女へと放る。


「わ、ちょ、バカっ!!」


 悪態を吐くヘリアーテだが、彼女は重量にして約七十キロはあるその大剣を難無く片手で受け取ると、間近にまで迫ったハウンドウルフ二匹を勢いのままに同時に横薙ぎで叩き付ける。


「ギャンっ!?」


「キャインっ!?」


 苦悶の声を上げたハウンドウルフは骨が砕ける音を響かせながら凄まじい勢いで弾き飛ばされ、少し離れた場所に居た他のハウンドウルフ数匹をも薙ぎ倒す。


「ほうっ! 素晴らしいじゃないかヘリアーテっ!!」


「何が素晴らしいよっ! こんなもん急に投げ渡すんじゃないわよ危ないじゃないっ!!」


「お前なら問題無いと判断したまでだ。それに受け取るどころかその勢いを利用して攻撃に転じている時点であまり説得力がないぞ?」


「うっさいわねもうっ!!」


 そう言いながら渡した大剣をブンブン振り回して手答えを確かめるヘリアーテ。何やら小さく「使いやすいじゃないのよ……」と呟いているが、聞かなかった事にしてやろう。


 と、大剣で思い出した。私も一応持っているんだ、専用武器である大剣を。


「完成したばかりだから試したかったんだ。丁度良いな」


 私は《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》を発動し、そこからつい先日完成したばかりの私の新しい大剣の専用武器を取り出す。


「さあ、お披露目だ「重墜かさねおとし」」


 現れたるは鈍色の大剣。両刃の刀身は約百五十センチあり、分厚く広く、中央には渦を巻いたような刃紋が無数に走っており、切っ先は扇のように広がっており両側が鋭利に尖っている。


 鍔には魔石を嵌め込む為の大きな窪みがあり、その周りを重力を表現した渦を巻いたような装飾が施されている。


 そして柄頭には一つの灰色に輝く魔石が一つ嵌め込まれている。


 ノーマンに預けていた数ある武器の一つであり、帝国で購入した七防鉱が使われた大剣をベースに魔物の素材をふんだんに注ぎ込んだ逸品。


 魔力鉱ミスリルとヒルシュフェルスホルンの骨、シュピンネギフトファーデンの外骨格に加え、ノーマンから調達して貰った蛇の魔物である「グラビトンパイソン」の骨と力場発生器官、魔石が投入された重力属性の大剣。


 が、柄にある大きな窪みを見て分かる通りまだこの大剣は進化の余地を残している。


 間断あわいだちの時同様どうやら重力属性を使い熟す魔物が存在するらしく、モーガン曰く──


『自然物に擬態する亀で、出現時期がランダムなので何とも言えませんが周期的にそろそろ休眠期から目を覚ますみたいなんですよ』


 という事で、間断あわいだち同様に色々とタイミングを見計らい狩りに行くつもりでいる。まあ、短くても数年後になるだろうがな。


 そんな重墜かさねおとしの性能は……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アイテム名:重墜かさねおとし

 種別:ユニークアイテム

 分類:大剣

 スキル:《引力》《遠心》《力場》《魔力増幅》《魔力操作補助》《食魔の加護》

 希少価値:★★★★★★★

 概要:七防鉱という頑強な鉱石をベースに様々な魔物の素材を惜しげもなく投入された重力属性の大剣。


 使われた素材の一つである「グラビトンパイソン」は重力を操る珍しい魔物であり、体躯は一般的な蛇と遜色がないものの、その狩猟方法にて重力を使う特徴がある。


 内部に組み込まれたグラビトンパイソンの力場発生器官と重力属性の魔石の効果により使用者の魔力に応じて周囲の重力場を操作可能。


 大剣本体の重量は勿論、一撃の重さも送り込んだ魔力の大きさにより変化させる事が出来る。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 相も変わらず素晴らしい仕事をしてくれたノーマンに感謝しつつ。


 さて……。


「撫で切りといこうか」


 ______

 ____

 __


「……ねぇシセラ」


 ヘリアーテが大剣をまるで普通の直剣を振るうようにして操り、次々とハウンドウルフを屠っていく中、目端に映るクラウンの姿を見てシセラに話し掛ける。


「何ですかヘリアーテ。いくら貴女でも油断していると足元を掬われますよ?」


 そんなシセラは自身より一回り小柄なハウンドウルフの首を爪で掻き切りながら視線だけを動かしてそう返答する。


「余計なお世話よっ! それよりアレ……」


 彼女が指し示した方を仕方ないとばかりに見遣る。


 そこには血風が舞っていた。


 クラウンが振るう重墜かさねおとしから発せられる重力場の影響により彼の周囲のみ重力が乱れ、ハウンドウルフから噴き出した血が宙へと囚われているのだ。


 そんな囚われた鮮血がクラウンが繰る重墜かさねおとしで更に掻き混ぜられ飛散し、まるで血の風が渦巻いているような禍々しさを演出している。


 そして当のクラウン本人はそんな景色などお構いなしに迫り来るハウンドウルフ達を重墜かさねおとしで叩き斬り続けていた。


 驚くほどに軽々しく振り上げた重墜かさねおとしを、その振り上げた際に見た軽さからは想像出来ない速度と重量で振り下ろし、ハウンドウルフの胴体を難無く潰し斬る。


 しかしそんな同胞の末路に怯む事なく、次に迫るハウンドウルフ。クラウンはそんなハウンドウルフに対し横薙ぎに重墜かさねおとしを振るうとハウンドウルフ周辺の重力を掻っ攫い、無重力下に捕らえると下段から上段へと刃を振るう。


 無防備な胴体に食い込んだ重墜かさねおとしの刃は、そのままの軌道を維持したままハウンドウルフを巻き込むようにクラウンの背後の地面へと叩き付け、再びハウンドウルフの胴体を真っ二つに切り裂く。


 そうして晒したクラウンの背中に向かい、三匹のハウンドウルフが襲い来るが、振り上げた際に加重させていた重力に晒され、何も出来ずにそのまま地面へと縫い付けられてしまう。


 そんな身動きが取れないハウンドウルフ達に対し、クラウンはゆっくり振り返ると重墜かさねおとしを振り上げ、その三匹をいっぺんに断裂。


 再び噴き上がった鮮血がまたも宙に固定され、腥風せいふう漂う景色が彩られていく。


「アレ……何?」


重墜かさねおとしというクラウン様の新たな専用武器ですね」


「それは判ってるわよっ! 私が言ってんのはあの戦いぶりよっ! なんだか見てて気分悪くなってくるんだけどっ!?」


「あれは重力場が乱れている結果に過ぎません。クラウン様が意図して展開しているわけではありませんよ?」


「だとしても……うーん。もうっ! 後で本人に直接文句言ってやるっ!」


「はいはい。無駄話はそれくらいにして仕事をさっさと片付けましょう。貴女も早く休みたいでしょう?」


「判ってるわよっ!!」


 __

 ____

 ______


「最後の、一匹ぃっ!!」


 ヘリアーテが振るう大剣によって最後のハウンドウルフが両断され、地面へと転がる。


「はぁ……はぁ……」


「お疲れ様」


 そう私がヘリアーテに声を掛けると、視線だけを私に向け睨み付けながら地面へとゆっくり腰を下ろす。


「さっき連絡が入ってな。他のアジトも無事狩り終わったみたいだ。いやはや、本当にご苦労様」


「ふ、ざけんじゃ……ないわよバカタレ……」


「ふふふ。帰ったらとびきりのご馳走なんだ。そう睨むな」


「ふん……。美味しいもので……いつも誤魔化せると思ったら……大間違いなのよ……アホぉ」


「……蟹だ」


「は、はぁ……?」


「この前カーネリアで一緒に買い物回っただろう? その時に良いぃ〜蟹を見付けてな。思わず衝動買いしてしまったんだよ」


「カ、ニ……」


「バラサキカニ、と言ってな。爪と甲羅に薔薇の花のような模様が浮かぶ蟹で、今が丁度旬なんだよ」


「……」


「オスは身が締まっていて旨味が凝縮されている上、個体によっては蟹味噌も美味だ。メスも身は美味いが、こっちはどちらかと言えば内子がメインだな。濃厚でいて変な癖がなく、独特の風味は病み付きになるぞ?」


「そ、そう……」


「品目としてシンプルに鍋と焼きをメインにクリームコロッケとグラタン。それに蟹味噌と身を使ったパスタや甲羅焼き……。ふふふ、想像するだけで生唾ものだな?」


「う、うん」


「ああそれとリクエストがあれば可能な限り聞くぞ? 余程珍しいものでなければ用意してやろう。辛いものでも甘いものでも、ワガママを聞いてやる」


「……はあ。もう、分かったわよ。許したげる」


「それは良かった。……さてさて」


 ヘリアーテを懐柔出来たところで私の最後の仕事だ。


 各アジトに散らばる盗賊とハウンドウルフの死骸をスキルに昇華させる。少々大変な作業だが……ふふふ。その成果は素晴らしいものになるだろう。


「シセラ、手伝いなさい」


「はい。畏まりました」


「あ、私は?」


「流石に私もこれ以上働けとは言わん。気にせずゆっくり休んでいなさい」


「そう。ならそうさせてもらうわ」







 まずは廃村アジトの死体を《結晶習得》を使用してまとめてスキルに変換させた。


 人々から略奪の限りを尽くし、至福を肥やし、欲望の限りを余す事なく貪り尽くした悪虐非道の悪漢共。


 そんな奴等の汚れた死体を昇華した、その結果として……。


『確認しました。補助系エクストラスキル《簒奪》を獲得しました』


 《簒奪》。それは上位者から略奪する力。強欲たる私に、相応しいスキルと言えるだろう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《簒奪》

 系統:補助系

 種別:エクストラスキル

 概要:上位者からスキルを奪うスキル。所持者よりも実力が上の存在に対しある一定の傷を負わす事が出来た場合、対象の存在からランダムで一つだけスキルを奪う事が出来る。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 次に北にある人身売買を生業とした盗賊団のアジト。


 ティールとロセッティ、そしてヴァイスが居るこの地では、基本的にはロセッティとヴァイスが活躍していた。


 ロセッティの広範囲展開型の《氷結魔法》を基軸にハウンドウルフ達を翻弄。しかして狼の魔物であるハウンドウルフ達の嗅覚と聴覚にその効果は薄く、優位性を確保し切れなかった。


 ヴァイスも奮戦したものの、数多のハウンドウルフを相手にするには分が悪く、最初こそ苦戦をしいていた。


 が、ティールの発想によりハウンドウルフ達は間もなくして全滅した。


 やった事は単純。ヴァイスの《光魔法》による光のバリアで自身とロセッティ、ティールを包み込み、ロセッティの広範囲魔法氷霧を更なる上位の吹雪へと強化したのだ。


 結果、アジト内のハウンドウルフは数分と足らずに氷結。一匹たりとも逃す事なく、アジトを狼の氷像が乱立する一種の芸術広場と化していた。


 私が向かった時に見た光景ときたら……。一瞬だけ見惚れてしまったからな。


 で、私が色々とやる前に、邪魔なヴァイスを返そうとした、のだが……。


『処理なら僕も手伝うよ』


 などとのたまい出した。


 まあヴァイスの性格上そう言い出すのは分かっていた。故にあらかじめ用意していた奴をアッサリ返す魔法の言葉を伝える。


『お前にはまだやるべき事があるだろう? それを全うしろ』


 ポイントは具体的な事を言わない事。そして何かがあるのだと自信を持って発言する事。そうすれば相手は勝手に自分から〝やるべき事〟を考え、探し、納得する。


 使命感が強い者ほど、これが効く。


 それがヴァイスなら尚更だ。


 結果ヴァイスは──


『分かったよ。僕は僕に出来る事を……。ここは任せたよ』


 そうしてヴァイスは先に避難していた学生達の元へと送り届け、そこで漸く作業を始められた。


 人身を掌握し、売買し、その命を弄び至福を肥やしす冒涜者共。命と金の区別もつかぬ不明者の憐れな死体。


 その肉体から昇華したスキルは──


『確認しました。補助系エクストラスキル《掌握》を獲得しました』


 《掌握》。それは物事を手中に収め、支配する力。敗北者を繰る、支配者のスキル。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《掌握》

 系統:補助系

 種別:エクストラスキル

 概要:敗北者を支配するスキル。所持者に対し敗北を喫した存在の心に畏怖と畏敬を植え付け、支配する事が出来る。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 耳障りが良いスキルでは無いが、このスキルが今後の私の道を更なる高みへと押し上げてくれるだろう。






 そして残る二つのアジト。


 グラッド、ムスカが居る南にあるアジトとロリーナ、ディズレー、ユウナが居る最南にあるアジト。


 この二つは人身売買盗賊団アジトの時のような事態には陥っていなかった。


 グラッド、ムスカの相性は予想していた通り良く、私と「魂の誓約」を交わし大幅に強化されたグラッドの暗殺技術と、ムスカの高速飛行からなる上空からの奇襲がハウンドウルフ達を惑わし、じっくりと殲滅してのけたのだ。


 そんな南のアジト──違法転売を繰り返していた盗賊団──で得られたスキル──


『確認しました。補助系エクストラスキル《奸商》を獲得しました』


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《奸商》

 系統:補助系

 種別:エクストラスキル

 概要:不利な要求を呑ませるスキル。対象との何らかのやり取りをした際、対象に不信感を持たせる事無く不利な要求、条件を呑ませる事が出来る。尚、このスキルは使用した回数、経過時間によって成功率が下がる。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 将来ギルドを運営する際、小手先の技術では通じぬ相手にはうってつけのスキルだろう。中々に重宝しそうだ。


 最後にロリーナ、ディズレー、ユウナが居る最南にあるアジト。


 ここはロリーナとディズレーが色々と奮戦していたのだが、中盤で何故だかハウンドウルフが何もしていないのに倒れ始めたという、なんとも信じ難い状況だった。


 流石に原因が判らないと色々と怖いものがあったのでハウンドウルフが倒れた原因を簡単に調査したのだが……。


 原因はなんと中毒。


 実はこの盗賊団。王都をメインに様々な場所へ違法薬物である「吽全うんぜん」を売り捌いていたのだが、もれなく団員全員が麻薬中毒者。


 結果、毒素に侵されまくりの中毒者の肉体を貪ったハウンドウルフ達が中毒症状を発症し、死に至ったようだったのだ。


 こんな都合の良い事があるのか? と訝しんだ私だが、ユウナが何故だか淡く光る「賢者の極みピカトリクス」を抱き抱えながら露骨に私と目を合わせようとしなかったので、恐らく彼女が何かしたのだろう。


 後で問い質さねばな。


 そしてそんな麻薬密売盗賊団の侵された死体を昇華させて生まれたスキルは──


『確認しました。補助系エクストラスキル《依存》を獲得しました』


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《依存》

 系統:補助系

 種別:エクストラスキル

 概要:対象を依存させるスキル。対象に何らかの強力な影響を与え有効に働いた際、その影響に対して強い依存心を植え付ける事が出来る。尚、依存心は時間経過で徐々に薄れていく。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 このスキルもまた、今後ギルドを運営した際に活躍してくれるだろう。特に支配予定の下街の荒くれ共を従わせるには相応しい。






 こうして四つの盗賊団から生成した四つのエクストラスキルを手に入れ、同時に死体の処理も完了し、ついでに魔物化ポーションの実験も完了。


 学院生達にはリアルな命のやり取りを経験させられたし、ロリーナやヘリアーテ達にも部下の候補を見付けさせる事が出来た。


 私が計画した全てが完遂し、エルフとの戦争に向けた事前準備の約七割が滞りなく済み、ほんの少しだけだが胸を撫で下ろせた。


 だがまだだ。まだ手は抜かない。


 残りの三割。それを今回のように完璧に遂行し、来る戦争から生まれる甘露な蜜を余す事無く搾り取る……。そうして漸く、久々に一息吐けるだろう。


 さあ、仕事は終わった、さっさと帰って──


 と、違うな。私にはまだ仕事が残っている。


 ヘトヘトでヘロヘロな私の可愛い可愛い部下達に、感謝と尊敬を込めた労いをせねばな。盛大に美味いものや報酬をくれてやろう。


 ふふふふふふ。


 今から彼等の綻ぶ顔が、目に浮かぶ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る