第四章:泥だらけの前進-14
スワンプヘビーバシノマスは
普段は地中に身を潜めながら泥中に棲息している生物を食べて生きるとされ、魔物の中では比較的大人しい生態をしている。
ただし一度刺激してしまうと見境無く暴れ出し、その凄まじい強度を誇る外骨格であらゆる物を突進で薙ぎ倒し、鋭利な部分は容易に辺りを切り付けるらしい。
全長約六メートル。大きさ自体はそれ程ではないものの、六メートルにもなった節足動物の素早さと力強さは言わずもがなだ。
舐めて掛かればいくら入学生とはいえ危険極まりない相手であり、私ですら油断が出来ないであろう相手だ。
「そのスワンプヘビーバシノマスは、入学生のチームで討伐……ないし退治は可能なのですか?」
「そうだな……、昨日私に挑んで来た奴等が3チームで連携を取れるなら可能かもしれないな」
「それは……。かなり厳しいですね」
それはそうだろう。急場のチームで戦闘するだけでも難易度が高いんだ。それが三チームともなればその難しさは考えるまでも無い。
「ただ条件を満たせないチームは三チームじゃ効かないだろうから、そいつら全員で掛かれば或いは……」
「仮に討伐に成功したら、それに参加したチーム全員が合格……なのですか?」
「そうだ。でなければ魔物討伐が救済処置として機能しなくなる」
トドメを刺したチームだけが合格になってしまったら他チームとの共闘など叶わない。どころか率先して邪魔をするチームが現れて場は混乱を極めるだろう。新入生テストどころでは無くなる。
「以上が大まかな新入生テストの内容だ。細々した事は省いたがな」
例えば他新入生を殺してはならない、瀕死の重傷を与えてはならない、戦闘行為以外でのメダルの奪取及び遣り取りの禁止。そういった基本事項は省いた。
「それで、相談事というのは?」
……まあ、相談事はロリーナと朝食を一緒に摂るためにした方便だったわけだが……。まったくない訳ではない。
「単純な話だよ。私と君がチームになるとして、後もう一人をどうするかって話だ。それと君にどんな事が出来るのか把握もしておきたい」
そう口にすると、アーリシアの視線が私に一点集中し、チラッと横目で確認してみれば、その目からは期待と懇願が混じった感情が容易に読み取れた。
ふむ、この場に同席しているのに自分がチームに含まれていない時点で少しは察して欲しい所ではあるが……。
「悪いがアーリシア。私はお前を同じチームに入れるつもりは無い」
「えっ!? な、なんでですか!?」
「私が言うのも何だが、お前は私にベッタリ過ぎる。私個人としては、お前にはある程度自立して欲しいと考えている」
これではまるで私がアーリシアの父親みたいになってしまっているが、事実、アーリシアは私の行く先々に付いて来たがる。
まあ、それはそれで好都合ではあるのだ。「強欲の魔王」の敵対対象である「救恤の勇者」が好きで私の周りに居てくれるというのは監視や思考誘導の面からして都合が良い。
ただあんまりにもベッタリされると、そういった打算抜きの部分でこちらが参って辟易してしまう。それに今後ロリーナと仲良くなるに当たって、もう少し丁度良い距離感で居たいのだ。
「じ、自立……って、またまた大袈裟なぁ!」
「大袈裟なものか。現にお前は成人になった今でも私にくっ付いていようとしている。婚約者や恋人じゃあないんだ。少しは自分の時間を大切にしろ」
「うう……。そんなぁ……」
ふむ、まあ落ち込むか……。一方的に突き放してるようなものだしな。一応フォローも入れておこう。
「念の為に言っておくが、別にお前が嫌いで突き放しているわけではない。お前はもう少し、一人で過ごす事、まだ仲の良くない奴と過ごす事を覚えた方が良いという話だ。お前の成長の為にもな」
「本当……ですか?」
「本当だ。なんなら今回の新入生テストで私に目に物見せてみろ。お前の実力次第じゃ、何かプレゼントをしてやってもいい」
「ほ、本当ですか!?」
……少し甘やかし過ぎか? ……まあ、言ってしまったものは仕方がない。
「ああ。私に二言はない」
「そう、ですか……。な、なら!!」
「ん?」
「も、もし……。私のチームがクラウン様のチームよりメダルが多かったら!!」
「……多かったら?」
「わ、わた……、私、と……。こ……こ……」
なんだ、何を言うつもりだ?……まさか恋人になって欲しいなどと言うんじゃないだろうな!?
「こ……、こ……、交流をぉ……、深めて頂けないでしょうかぁ……」
「……何?」
最後かなり尻すぼみになっていったが……。私と交流を深める? なんだその漠然とした要求は。言いようによっては何にだって当て嵌まるぞ。
「駄目、ですかね?」
「駄目ではないが……。出来ればもっと具体的なものの方が分かり易くて対応し易い」
「え、ええと……、じゃあ!! お買い物!! お買い物を一緒にして下さい!!」
「……そんな事で良いのか?」
「え!? あ、はい……」
買い物くらいなら付き合ってやれるが……。ふむ……。もう少しサービスしてやるか。
「じゃあ、丸一日、お前のワガママに付き合ってやる。買い物でも食事でも娯楽でも、何でもだ」
「え、え!? えぇ!?」
「ただし常識の範囲内でだ。それを越えなければ一日だけお前のやりたい事に付き合う。どうだ?」
「やります!! 頑張ります!!」
「そうか、それは何よりだ!」
「それでは早速チームメンバーを見付けて誘いに行きます!! 朝食ご馳走様でした!!」
そう言うや否や、アーリシアは頭を下げて走り出す勢いで私の部屋を出て行った。
本当、アーリシアは目的さえあればああやって勢い着くんだがな。いかんせん自分から目的を定めないのが致命的だ。それを出来れば一人の環境で養って欲しいものだな。
「行ってしまわれましたね」
「ああ。少し心配だが、今は放っておこう。それより私達の話だ。もう一人のメンバーは後にするとして、一旦君の実力を見せてはくれないか?」
三年間ひたすらに仲を深める為だけに費やしたから彼女が一体どのレベル戦えるのかは実は知らなかったりする。
一応リリーから二属性は使えると聞いていたが、問題はそれをどこまでの精度で扱えるかだ。これを知っているかいないかでは共闘するのに大きく差が出るからな。
「そう、ですね。わかりました」
「では訓練場へ行こうか。今の時間なら何人か集まっているかもしれんから、ついでにそこでもう一人のメンバーを探そう」
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