第五章:魔法の輝き-1
私は今、自室の机にてとある本と睨めっこしている。この本「世界スキル大全」というなんとも収集欲を煽るような代物なのだが、過去に一度エクストラスキル《解析鑑定》について調べた際に読んだ事があった。
今にして思えば都合良くこんな本がこの屋敷にあったのは私の叔母にあたるメルラがスクロール屋を営んでいたのと関係があるのかも知れないと思い至る。
ではそんな本をひたすらに読み耽って何をやっているのかというと、当然新たなスキルの開拓である。姉さんの修行をサボっている訳ではなく、しかし別に暇潰しをしているわけではない。これはある目的の為の下準備だ。
あの後、私が動ける様になったのは翌日の事だった。まあ、動ける様にといってもまだ身体はガチガチで動かし辛く、とても本調子とは呼べない。
しかし昨日は散々だった。
結局姉さんは両親に私の容態を〝過大に〟伝え大騒ぎになった。母上は血相を変えて神官やら神父やらを呼び、父上はなんだか恐ろしい形相で自分の部下に何やら物騒な命令を下していた。姉さんは姉さんで父上の話を聞いたらしく「私も連れて行って下さい!!」などと志願していた。
ベッドで動けない私を尻目に事がどんどん大きくなって行く。これはマズイと本気でどう事態を収拾するか思案していた中、看病を命じられたメイド長のハンナが来なければどうなっていたか……。
ハンナには適当に「夜中にこっそり魔法の練習をしていたら魔力が切れて動けなくなった」と説明し、それを全員に説明して貰って漸く事態が収まった。
当然その後私は両親並びに姉さんにしこたま怒られた訳だが、ここまでの事態は赤ん坊のとき以来か……私もまだまだ未熟だな、うむ。これも教訓としておこう。
まあ、こんな状態じゃ姉さんの修行など到底こなせない、というか無理にでもやったらそれこそ身体を壊す。万全の状態になるまではあのバカ貴族の屋敷に侵入し、不正の証拠を手に入れる為の準備に専念しよう。
まずはそもそもスーベルクの屋敷が一体どこにあるのか?
証拠が隠された部屋はどこか? そして警備体制はどんなものか? 侵入経路と脱出経路はどうするか? つまるところ奴の情報、その収集だ。
正直な話、結構ハードルは高い。前世で情報屋を営んでいた私ではあるが、向こうでは便利な機械や相手の弱味や金、使える物がいくらでもあった。しかし今の私は中世並みの文化レベルの異世界に産まれた五歳の子供。便利な機械も相手の弱味を掴むコネも自由に使える金も無い。
じゃあそんな無力な子供である私がどうやって貴族の情報を手に入れるのか?
それは私が知る中でスーベルクの情報を一番握っている者から情報を貰うのが一番手っ取り早い。ならその人物とは?勿論父上だ。
あのスクロール屋でスーベルクを煽り倒していた父上を見るに、父上はスーベルクに対して確信を持って不正をしていると言って見せた。その点を鑑みれば父上がスーベルクを糾弾するべく奴の屋敷などの不正の証拠が眠る場所の情報を握っている可能性が高い。
後はそんな父上から上手いこと情報を引き出す方法だが、これはなんとかなるかもしれない。実は先程、件の父上に書斎に来るよう言われているのだ。まあ、恐らく先日の魔力欠乏事件について怒られるのだろうが、そこでちょっと探りを入れるつもりだ。
そして次の問題は侵入だ。奴が覚えているかは知らないが私は一度スクロール屋で顔を合わせている。顔が割れた私がその貴族の屋敷に侵入となると色々障害が生じる訳だが……。
実の所、使える武器が二つある。
一つは言わずもがなスキルの存在。隠密に向いたスキルを二つ手に入れる事が出来てはいるが、この二つだけでは心許ない。追加で一つか二つ、欲を言えば三つ程隠密に適したスキルが欲しい。
二つ目は私が子供であるという点。これの何が武器なのかというと、単純に小回りが利く。身体が小さい分移動速度は遅くなってしまうが、物陰に隠れたり狭い場所を通る時なんかには重宝する。それにいざ不正の証拠が盗まれたと騒ぎになった時、子供である私に疑いの目が向く可能性が低い。
この二点において、私は侵入するのに案外向いていたりするのだ。
さあて、確認事項は以上。次にやるべきはいよいよ本格的な侵入準備だ。と、今まさに世界スキル大全を読みながらどんなスキルが最適なのかと頭を悩ませていたわけなのだ。
隠密に適したスキルをいくつか見繕う必要があるのだが、これは……うぅむ、やっぱり手っ取り早いのはスクロールか? だがなぁ、スクロールを買う為の金が無い。いくら私が領主の息子とはいえ今の私は〝お小遣い制〟だ。そんなお小遣いをはたいてスクロールを買うとしたら物によっては一枚買えるかどうか……。はっきり言って心許ない。
お小遣いをせびる、という選択肢もあるが生憎私は誕生日を迎えたばかり。いくら今まで品行方正に生きて来たとは言えそんなワガママが通じるとは思えない。
ならどうするか?
…………そう、メルラに頼るしか無いのだ。
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