第六章:貴族潰し-12
倫理観……。それに照らし合わせて言うならば、これは紛う事なき大罪の一つだろう。
相手がいくら盗賊とはいえ、私が今しようとしているのは殺人に類するものである。間違いなく罪だ。
以前私がスキルに変えたハーボンは、私、ひいては私達に危害をもたらそうとして屋敷に侵入した。故にあの時の行為には最低限の正当性、大義名分があっただろう。
過剰防衛ではあっただろうがな。
だが今回はどうだろう?
いくら彼等が少女を誘拐未遂したとはいえ、死ななければならない程だろうか? そこまでの大罪だろうか?
答えは単純。
知った事ではない。
自覚出来るほどに傲慢な物言いではあるが、彼等が私の目の前で少女を誘拐未遂した時点で、彼等は私の餌食に認定されたのだ。
私に〝理由〟を与えた時点で、彼等の人生は終了した。ただそれだけである。
そこに善悪や美醜、罪の大きさなど関係無い。
「それにしても、正義の味方……ねぇ……」
彼女が放った一言。私が信じていない言葉の一つ。そして私からもっとも遠い言葉。
「私は悪人だよ。根っからの、自覚している程度には、極悪人だ」
故に私は自重しない。やれる事を全てやる。例えそれが悪行だろうと、私は欲望の限りを尽くす。それは曲げないし、それが私だ。
だから盗賊共よ、君達にとって非常に残念な事なのだが、私は君達を、遠慮なく頂こうと思う。
取り敢えずは魔力回復ポーションをもう一本一気に飲み干す。これで私の魔力は満タンまで充填されただろう。これで後は、
「三人に選択肢をやる。私にスキルを譲渡するか、苦しんで死ぬか、二択だ。麻痺しているとはいえ瞬きぐらいは出来るだろう? 一回の瞬きで一つ目、ニ回連続の瞬きで二つ目の選択肢だ。さあ、選べ」
以前ハーボンにした選択肢と同じだ。ただ今回はロープなどの縛る物を持っていないので麻痺した状態での質疑応答だが、まあ、大丈夫だろう。
そう考えての提案だったが、三人は三人共当然の様に三回連続で瞬きをする。つまりはノーだ。まあ、これは想定内。そりゃ不意打ちでやられたのだ、本人達にとっては到底納得出来ない事なのだろう。だが、それでは困るのだ。
「わかった。なら私が今からこの中の一人にとある行いをする。それを君達に見せ、その後にまた同じ質問をするからまた答えろ。いいな?」
質問している形だが答えは聞いていない。私は彼等の反応を確認せずに一人の男に視線を移す。
それは短剣の男。この中で一番ガタイが良く、一番戦闘に特化している男だ。
そして私は躊躇なくスキルを発動させる。
スキル《結晶習得》発動。
スキルを発動すると同時に、短剣の男の横たわる地面に魔法陣が展開される。その四方には小さなクリスタルが浮かび、淡く輝きを放っている。
私が所持しているスキル習得系スキルの中で最も魔力消費が激しい《結晶習得》だが、その魔力消費量もスキル《演算処理効率化》によって無駄な魔力を消費せずに発動出来る。しかも魔法習得の訓練のお陰か、私の総魔力量も若干だが増えていた事もあって一回使ったくらいでは倒れずに済む様になっていた。
だがそれでも魔力消費が激しい事には変わりはない。使えてもこの一回が限度だろう。故になるべく効果的に、効率的に使わねばならない。その為に私はこの短剣の男を《結晶習得》の生贄に選んだのだ。
理由は簡単、コイツが他の二人に比べて所持スキルの数が少ないのとそのスキルの有用性に起因しているからだ。《結晶習得》は対象の生きた肉体と魂を生贄にランダムでスキルを一つから三つ習得出来るスキル。他の二人にこのスキルを使ってしまった場合、二人の所持しているスキルを無駄にする数が多くなってしまうのだ。
それに比べ短剣の男が所持しているスキルの数は四つ。この中では一番所持しているスキルの数が少なく、《結晶習得》を使用しても一番無駄が少ない。更に私がこの後に二人にする提案次第ではこれが一番多くスキルを習得する事が可能。実に効率的だ。
と、そうこう言っている間に結晶化が始まった。相変わらず発動に時間が掛かるのが難点だが、こうして天声に周囲を警戒させておけば取り敢えずは安心である。
魔法陣の四方のクリスタルが中央の短剣の男を一つのクリスタルとして取り込み、その大きさを徐々に収縮させていく。収縮する度に短剣の男の身体は無理矢理に折り畳まれ、クリスタル内では鮮血が吹き荒れる。クリスタル内の短剣の男ら麻痺してまともに口もきけない身であるにも関わらず、その様相は絶叫している様に見える。
そうして収縮が終わり、鮮血で真っ赤に染まったクリスタルが激しい光を放ち、その中から二つの結晶が私の前に現れる。二つ共形状は正十二面体であり、それぞれが赤錆色と鈍色に輝いている。そんな二つの結晶は私の中に吸い込まれ、力を授かった様に力が湧く。
『確認しました。技術系スキル《短剣術・初》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《体術・初》を獲得しました』
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