第三章:傑作の一振り-29

 結局、ジャックを背負ったマルガレンと共に宿に戻り、一先ずはベッドで寝かせた。


 いつ起きるか分からんから、起きた時の為に消化に優しく且つ栄養価の高い粥を宿の厨房を頼んで貸してもらい、作ってポケットディメンションにしまっておく。


 最初は宿の料理人に「自分達が作るから!」と止められたが、この宿の料理は街中の料理に比べて何故かレベルが落ちる。


 この街の最高級宿の筈なのに何故街中の食事処の方が美味いのかは意味がわからないが、まあ、客は正直な様で、余程プライドが捻れた者以外は皆が皆外食してしまう。


 故にこの宿の料理人には任せられない。私が手ずから作った方が十倍は美味い。これは傲慢では無く純然たる事実だ。


 粥を作り終えた後、良いタイミングでアーリシア、クイネ、カーラットが買い物を終え荷物を抱えて戻って来たのでジャックの件を三人にも伝えた。


 宿泊が伸びた事に喜ぶ二人に対し、カーラットは少し苦々しい表情を見せる。理由を聞いてみると、


「いえ、実は買い物先でとある話を聞きまして……。昨晩この街の冒険者ギルドに所属していた老齢の男性がお亡くなりになったらしいのです。死因は病死で、以前から患っていた病によるものであるのは判明しているのですが……」


「……判明しているが、なんだ?」


「病で苦しんで亡くなった割りには、その表情は大変安らかだったそうです。まるで全てを解放された様な晴れやかさだったと」


「それのどこにそんな苦々しい顔をする要因があるんだ?」


「いえ……なんだか違和感があると思いまして……。亡くなった冒険者の関係者も、死ぬにしても生前の彼の様子からしたら、違和感がある、と……。ですので万が一を考え、街を離れるのはなるべく早い方が宜しい……かと」


「成る程。だがあの揺れの激しい馬車に病人を乗せて長時間運ぶのは無理がある。万が一を考えるならそっちを優先しろ。良いな?」


「はい、かしこまりました」


 ……まったく。優秀なのも考えものだな。


 証拠は隠蔽しているし、病死であるなら細かい調査はされないだろう。「生前の様子にしては安らかだった」なんて漠然とした理由で調査がされる程、調査ギルドも暇ではない筈だ。


 しかし、亡くなったのか、あの老人……。


 ……まあ、安らかだったらいいさ。


 その後、暫くして夕飯時。私達が先に夕食を済ませた後、ジャックは漸く目を覚まし、自分が置かれている状況に首を捻った。


 状況説明を終えた後、ジャックはすぐ様ベッドから飛び出して私に土下座しかねない勢いだったのでそれを阻止し、ポケットディメンションから粥を取り出して食べさせる。


 取り敢えず問題無く食べ始めたのを見計らい、私は一足先に自室に戻ると伝えてジャック達の部屋を後にする。


 自室に戻り、最初にやる事は決まっている。


 私はポケットディメンションから燈狼を取り出し、試しにほんの少しだけ鞘から刀身を抜いてみる。すると僅かにしか見せていない刀身から莫大な熱が放たれ、私は咄嗟に刀身を鞘に戻す。


 ふむ、これはこういった公共の場で抜くのはマズイな。屋外なら多少はマシになるだろうが──まあ、抜かないに越した事はない。それより──


 私は燈狼に《品質鑑定》と《物品鑑定》、《解析鑑定》を並列発動させる。


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 アイテム名:炎剣・燈狼とうろう


 種別:スキルアイテム


 分類:剣


 スキル:補助系スキル《脱魂》、《劫掠》、《魔炎》


 希少価値:★★★★☆


 概要:スキル《脱魂》、《劫掠》、《魔炎》を覚醒させたクラウンの専用武器。ドワーフの名工ノーマン・コーヒーワによって鍛えられた彼の最高傑作。炎属性が付与されている。

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 うむ。色々出て来たが、私が気になっているのはやはりスキルだ。


 燈狼が私の専用武器となった事でスキルが覚醒したと天声はアナウンスしていたが……。まずはその権能からだな。


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 スキル名:《脱魂》

 系統:補助系

 種別:スキル

 概要:他者の魂を抜き取るスキル。魂を有する対象を殺傷した場合、魂を強制的に徴収する事が出来る。ただし、徴収した魂の保有数は使用者の肉体限界に依存する。

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 スキル名:《劫掠》

 系統:補助系

 種別:スキル

 概要:他者から奪うスキル。武器などの攻撃により他者を傷付けた場合、体力、魔力、記憶、経験、スキルの内どれか一つを奪い取る事が出来る。ただし体力、魔力、記憶、経験、スキルの順に劫掠する難度が上がる。また、発動は他者につき一度のみである。

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 ふむ……成る程。《魔炎》はシセラが持っていて権能は知っているからいいとして、この二つのスキル、中々に有用だな。両方共私の能力を上手い具合に補助してくれそうである。


 ただ炎属性の剣であるのにこんなスキルを覚醒させるとは……。私の《強欲》か、魂に関連付けられた結果なのだろうか……。


 まあ、こうしてスキルが覚醒してくれたのだ、疑問は多少残るが、文句は無い。


 そうやって色々確認作業をしていると、


『クラウン様』


 と、なんだか久々に聞いた気がする声が頭に響き、私の胸中から赤黒い光が飛び出して床に落ち、その姿を猫へと変えていく。


「なんだシセラ。漸く機嫌が直ったか?」


「何をおっしゃいます。私は別に機嫌を損ねてなどいません」


「本当か? 私はてっきりトーチキングリザード討伐で留守番をさせられたのが気に食わなかったんだと思っていたが?」


「そのような事……。ありません……」


 シセラは露骨に私から目線を逸らし、長い尻尾を割と力強く左右に振る。


 分かり易いな……。だがシセラ自身がそう言っているんだ。変に突っ込まずに話題を変えるとしよう。というか、


「それでシセラ。私に何か話があるんじゃないか?」


「ああ、そうでした。お腹が空いたので何かご飯を……」


 ……わざわざ何かと思えば。


「お前、飯を食う必要、無いんじゃないのか?」


「はい。ですが精霊時代には経験出来なかった〝味〟という物を一度体感してしまったせいか、必要の無い筈の〝空腹感〟に時たま襲われるのです」


「なんだそれは……。まあいい。今は粥しか無いから取り敢えずそれを食え」


 私はポケットディメンションからジャック用に作り、多少余ってしまった粥を取り出し、適当な平皿に持ってやり差し出す。


「ありがとうございます」


 シセラは礼を口にした後、早速粥に口を付ける。


 ポケットディメンションに入れておいたから熱々のままの筈だが、シセラはどうやら猫の外見の割に猫舌ではないらしい。……至極どうでもいいな……。


 こうしてこの日一日がゆったり終わっていった。


 その後約二日を費やし、ジャックが馬車での旅に支障が出ない程に回復したのを確認し、早速カーネリアへの帰路へと着く事となった。


 帰り際、街に一度全員で出て行き旅路に必要な食料やお土産なんかを買い込む。


 アーリシアとクイネはこの滞在期間の殆どを買い物に費やした為か、流石にもう買いたい物もなく暇そうにしていた。


 重たい荷物を全てポケットディメンションにぶち込み終え、宿に預けていた馬車に乗り込み走らせる。


 なんだかんだと長い期間このパージンの街に滞在していた。これだけの時間家族と顔を合わせていないと、これから顔を合わせるのが不思議と楽しみにもなって来る。


 さて、帰ったらまたいつもの日々だ。


 魔法学校で魔法を勉強し、空いた時間に色々な修行や実験。やる事は沢山ある。


 三年後にはローゼン魔法学校を卒業。私が十五になり成人になった時、遂に王都にある魔法魔術学院に入学である。


 師匠の指導の下で学ぶ魔法で私は更に沢山のスキルを獲得出来る。中位魔法や上位魔法。はたまたまだ私が触れていないエクストラスキルの魔法。ふむ、想像しただけで楽しみが口元から零れてしまいそうだ。


「クラウン様? 随分嬉しそうですが、何か嬉しい事でもありましたか?」


 おっと、少し気を緩め過ぎたか……。


「いや。帰ってからの事を考えていた」


「ふふっ、ホームシックってやつですか?」


「そういうのとは違う。ただこれから魔法魔術学院に通うにあたって、色々と事前に勉強をしておきたくてな。それを考えていた」


「お勉強が楽しみだなんて、クラウン様は本当に真面目──え? 魔法魔術学院?」


「ん? どうした?」


「いえあの、つかの事お聞きしますが……。魔法魔術学院に入学……と、おっしゃいましたか?」


「そうだが……。ん? アーリシアは知らなかったか? 私が三年後に魔法魔術学院に入学する、と」


「え!? し、知りませんよ!! どういう事ですか!? 何故……いつからそんな話に!!」


「……あー、お前この旅に付いて来る為に修行していたから私が入学査定を受けたのすら知らなかったのか」


「え、え!? じゃ、じゃあ、私、これからどうやってクラウン様に会えば……」


「どうやっても何も、私が魔法魔術学院に入学したら会えないだろ。全寮制で部外者は立ち入り禁止。外出も城下町くらいだからな。まあ、まず会わないだろう」


「え、えぇぇぇぇぇぇっ!! そんなぁぁぁ!!!」


 馬車の中、アーリシアの似つかわしくない叫びが響いた。

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