序章:望むは果てまで届く諜報の目-6
「えっ!? 気付いてたんですかっ!?」
王都セルブ。その約三分の一を占める一区画。通称「ギルド市場」を、私とティール、ユウナが歩く。
この何とも言えないメンツで目指すのは、この王都に存在する冒険者ギルド「赤狼の咆哮」。ギルド全てを含めても、中々の大きさを誇るという老舗らしい。
「気付いてたんなら声掛けて下さいよぉーっ!」
「お前が私を見るなり露骨にスキル使って身を隠すからだ。気を遣って声を掛けなかった私に、何の落ち度がある?」
まったくもって心外な話だ。
勝手に警戒された挙句なんで声を掛けないんだと文句を言われるとはな。
「う、うぅ……。ごめんなさい……」
ユウナはそう言いながら被っていたフードの端を掴み顔が見えなくなる程に目深くする。
ユウナは今、制服の上からフードを被っている状態であり、その顔からは髪と掛けている眼鏡しか見えない。
「……ハーフエルフも大変だな」
「えっ!? この人ハーフエルフなのかっ!?」
私の呟きに、隣を歩くティールが引き攣った顔でユウナに怪訝な目線を向ける。
そう言えばこの二人は初対面か……。にしても……。
「過剰反応し過ぎだろ。たかがハーフエルフってだけで」
「いや……でもお前……」
「お前は過去にハーフエルフに何かされたのか?それなら納得してやるが」
「え。いや……無いけど……」
「……はあ」
私も別に、ハーフエルフが迫害される理由や意味を知らないわけではない。
だがそういった風評や醜い風習を耳にしただけでまるで親の仇の様な接し方をする輩は好かん。
その人間性や心情を
「ティール。次私の耳にハーフエルフを蔑ろにする言葉を聞かせてみろ。お前をエルフの国に放り込むぞ」
「なんだよそれ怖っ!! ……あぁ、いやまあ、分かったよ。でもなんでそこまで……」
「単純に耳障りだからだ。聞いていて虫唾が走る」
「ん〜……分かった。努力する」
そんな努力する必要がある事なのか甚だ疑問に思うが……。
「す、すみません……。私が……、」
「気にするな。お前に非など微塵もない」
「ありがとう……ございます……」
まったく。面倒な事だな……。こういうやりとり自体が不毛で嫌いなんだがな……。
「……あの」
……。
「今度はなんだ?」
「あ、いえっ! ……なんか、前より優しいなぁ〜、なんてぇ……」
ん? 前より? 前よりって言うと……。初対面の時か。あぁ……、あの時は……。
「あの時は
「えっ……。あ、そう言えば……」
そう呟いてユウナが私の新品の左腕を見る。
「……生えたんですか……」
生えたってなんだ生えたって。
「蜥蜴の尻尾じゃあるましいし。そんな簡単に生えるか」
「え……じゃあ……。義手?」
「いや。キッチリ私の身体の一部だ。……運良く片腕すら治せる手段を友人が持って来てくれてな」
そう言って私は左腕を軽く
本来の私の左腕は淡く赤い光を常に帯びているトライバルタトゥーの入った派手な物だが、今はカモフラージュしている。
スキルの《変色》を使い私の肌の色に色を変えている。だが何故か目立つ要因のこのタトゥーだけは消えてくれなかった為、取り外し可能なアームカバー的な物を自前で拵えて装着している状態だ。
「腕生やせる手段って……」
「そこは……まあ、聞くな。マズイ話では無いが、聞かないでおいて損はない」
セフィロトの枝端を私用に使ったなど、余り外聞は良く無いしな。
「まあ兎に角だ。あの時は機嫌が悪かったという話だ。……ああ、安心しろ。お前との約束は忘れていないし、願いが決まったんなら約束通り誓約書くらい書いてやるぞ」
「あ、いえっ……。まだ、決まっていないので……」
ふむ……。アレから結構時間は経っていた筈なんだがな。余程決めかねる程願いが多いのか、余程無茶な願いなのか……。ん?
ふと正面を見ると、建物に阻まれていた一際目立つ大きな建造物が見えて来た。
「ほら見ろ。あの建物が目的の場所だ」
ギルド市場のメンストリート。その突き当たりに堂々と構える幅広の建造物。
左右対称に二つの同じ建物が左右で繋がっている形状で丁度真ん中から屋根の色が変わっており。右側が赤、左側が青と明確に分けられている。
そして赤い屋根の下に掲げられているのが「赤狼の咆哮」。青い屋根の下に掲げられているのが「青獅子の慟哭」とあり、この建物が目的の場所だと一目瞭然である。
「うわぁ……。中々にデカないな」
「国内に点在している冒険者ギルドの総本山だからな。相応にデカイさ」
「あの……。右側が目的地なのは分かりますけど……。左側の青い方も同じギルドなんですか?」
「いや。左側の「青獅子の慟哭」は……魔物討伐ギルドだな。ポスターに小さく書いてある」
掲示板から剥がして来たギルド員募集のポスターには冒険者ギルドの様々な情報が細かく書かれているが、隣である魔物討伐ギルドの情報は必要最低限しか記載されていない。
「ふーん……。で、なんで二つのギルドがくっついてんだ?」
「それは冒険者ギルドと魔物討伐ギルドは 昔から互いに持ちつ持たれつでやって来たギルドだからだ」
冒険者ギルドは、未踏破地域や危険地帯、比較的魔物が出没し易い地域に出向く際は魔物討伐ギルドを何名か雇うのが基本となっている。
彼等ははあくまでも探索や地図の更新。新種の動植物の発見と研究、遺跡の調査等のプロフェッショナルであり。決して戦えない訳では無いが、探索等をしながらではかなり危険だし効率が悪い。
ならばそんな戦闘全般を任せられる者を連れて行けばいいというわけで、冒険者ギルドは探索の際、魔物討伐ギルドを何名か雇う。
魔物討伐ギルドも護衛として雇われている以上相応の報酬は貰える上、魔物と出会い、討伐が成功した際にはその素材は全て魔物討伐ギルドの報酬として加算される決まりになっている為、魔物討伐ギルド側も損はしない。
お互いがお互いを支え合うバランスの取れた体制なのは間違いない。というか──
「聞く所によれば、元々は一つのギルドだったらしいけどな」
「え、じゃあ、なんでまたこんな分裂してんだ?」
「単純にギルドとしての規模がデカくなり過ぎたって話らしい。ギルドのお偉い方が把握し切れなくなって、今みたいに二つのギルドに明確に分けた……。と、ポスターに書いてある」
「そんな小さいポスターにどれだけ情報量詰まってんだよ……。最早勧誘ポスターじゃなくて立派な資料だろ……」
「そんな所も冒険者ギルドらしいっちゃらしいじゃないか」
と、そんは雑談をしながら歩いていると、丁度冒険者ギルド「赤狼の咆哮」の扉の前に到着する。
流石国内の冒険者ギルドの総本山なだけあって門構えが立派だ。場所が場所ならそのまま要塞として機能しそうだな。
「行くぞ」
「お、おう」
ティールの返事とユウナの頷きで、私達は冒険者ギルド「赤狼の咆哮」の扉を潜った。
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