第六章:殺すという事-30
アヴァリの棍「聖棍・シェロブ」と、クラウンの細剣「
金属の細剣と木製の棍同士の衝突なのにも関わらず、鳴り響く音はまるで金属同士がぶつかったように甲高く空気を震わせ、鍔迫り合う両者からは火花すら散っていた。
「『ほう……ならばっ』」
アヴァリは手首を捻ると
強烈な打撃がクラウンの肩口にめり込み激しい音を響かすが、打たれたクラウンの表情は涼しく、また打った側のアヴァリの表情は曇る。
「『惜しい』」
そう呟いたクラウンは
「『ふんっ!』」
弾かれた反動を逆に利用し、アヴァリは再びシェロブを反転させながら身体を捻り、体重を乗せた一撃を振り下ろした。
クラウンはその振り下ろしを
そしてシェロブに
するとアヴァリはわざと身体を後ろに倒し、シェロブの先端を地面に接触させると、そのままシェロブの反対側の先端を掴みシェロブを軸にして身体を持ち上げ
地面に突き立てたシェロブを支えに宙で逆さになったアヴァリはその場で身体を捻り上げると、シェロブを振り抜き、落下の威力と体重が乗った上段の振り下ろしをクラウンに叩き込もうとする。
クラウンはそんな叩き付けに対し、
「くっ……」
骨が軋み、バキバキと嫌な音を立てるのを耳にしながら、クラウンは歯を食いしばりその一撃を身体で受け切る。
が、そこでアヴァリからの攻撃は止みはしない。
地面に着地したアヴァリはシェロブを引き戻すと、手の中でシェロブを滑らせ持ち手を代えながら身体を捻り、薙ぐようにしてシェロブを振り抜き追撃を放つ。
それを横目で認識したクラウンはその場で身体を
そして今度はその翻した勢いを利用し、クラウンは宙空で
横薙ぎに振り抜いたばかりで
すると長棍の形を取っていたシェロブは元の六つの短棍へと戻りバラバラになってしまう。
が、短棍同士はある一定の間隔を空けた状態で離れ切る事は無く、まるで見えない紐で繋がっているような状態となり、長棍時に比べて柔軟性が一気に増した。
アヴァリはそんな
自身の身体に巻き付けるように多節棍と化したシェロブを振り回し、《
しかしそれでも全てを弾き切る事は出来ず、いくつか身体に切り傷を付けながらも致命傷だけを避け、全ての突きを凌ぎ切った。
《
が、アヴァリはこれを許さず、シェロブの六つに分かれていた短棍を二つずつ繋げ直し新たに三節棍へと変形させながらクラウンの顔面目掛けて勢いよく振り抜いた。
「チッ」
クラウンは迫り来る一撃に対し舌打ちをすると、顔面にそれが当たる直前に《空間魔法》によるテレポーテーションを使い、自身が最初に立っていた場まで転移する。
「『……チッ』」
確実に入ったと確信していたアヴァリは唐突に姿を消し、本来ならば有り得ない場所にまで後退していたクラウンにお返しとばかりに舌打ちをする。
「『ふぅ……。本当は《空間魔法》は余り使いたくは無いんだがね。背に腹はかえられん』」
息を軽く整えながらアヴァリを見遣り追撃を警戒しながらも、クラウンは彼女が手に持つシェロブに目をやり興味深そうに笑う。
「『しかし……ふふふ、いやぁ、驚いた驚いた。まさかその棍がそんな使い方が出来るなど思ってもみなかったよ。それに棍同士が見えない糸で繋がっている。これは……。成る程、《磁気魔法》を使っているのかっ! いやぁ、素晴らしいっ!!』」
軽い調子で笑って見せるクラウンに対し、アヴァリは至極不機嫌そうに三節棍となったシェロブを構え直す。
「『貴様……いつまでふざけている。それにワタシ相手に手を抜くというのか?』」
「『手を抜く? それは違うさ。私はただ
「『ほざけっ!! 貴様なんぞに我が技法、マネ出来るものかっ!!』」
「『さあ? 分からんぞ? ……とはいえ、だ』」
クラウンは
「『
瞬間、
「『行くぞ』」
そうクラウンが小さく呟いた刹那。彼はテレポーテーションでアヴァリの眼前まで一気に転移すると、
一瞬で間合いを詰められ僅かに動揺したアヴァリだったが直ぐに気を取り直し、クラウンによる突きに応戦する為、シェロブの先端を突き出す。
しかし、
「『ぐあっ……!? くっ……』」
身体を駆け巡る電撃に一瞬だけ気を失いそうになるが、これにアヴァリはなんとか持ち堪えシェロブを引き戻すと今度は彼女の方からクラウンと距離を取ろうと後ろへ大きく飛び退く。
雷細剣「
文字通り雷電属性を持つ細剣であり、クラウンがノーマンに頼んで作って貰った幾つかの武器の一つ。
王国より北東に位置しエルフ族領内でもある密林にクラウン自身が出向き、棲息する「カーラントトロピックスアント」という蟻の魔物と、その魔物と縄張り争いが絶えない「ボルテージトロピックスワスプ」という蜂の魔物の二体の魔物を仕留め、その素材が盛り込まれている。
元々クラウンが持ち込んだパス合金製の細剣に、シュトロームシュッペカルプェンの発電器官を搭載。そこへ更に蟻と蜂の魔物による強靭強固な外骨格と雷電属性の魔石が加わり、完成されたこの細剣が放てる電力は容易に対象の全身を電撃という刃で切り刻む事が出来る。
そして発現したスキルもまた、それら雷電属性をサポート出来るようなモノが揃っており、相応の対処を
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アイテム名:
種別:ユニークアイテム
分類:細剣
スキル:《雷撃》《感電》《帯電》《魔力増幅》《魔力操作補助》《食魔の加護》
希少価値:★★★★★★★
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そして、飛び退いてなんとか
「『ぐっ……痺れが、取れな……』」
スキル《帯電》の権能は電気に対する帯電性を高めるものであり、通常なら地面等を通して逃げて行ってしまう電気がこの権能によって対象に留まり続け、動けはするものの常に全身をその電撃が苛む事になる。
「『残念ながら私の細剣術ではお前の棍術には足元にも及ばない。それは先程の攻防で嫌という程理解した。故に貴様には強制的にハンデを背負って貰う事にしたよ』」
「『まさか……その為にわざと直線的な突きを……』」
「『受け易かったろう? 綺麗に引っ掛かってくれて助かった』」
「『くっ……なんて卑劣な……』」
「『卑劣で結構。これは戦争だ。容赦した方の負けなんだ。第一──』」
クラウンは
「『貴様等エルフに、卑劣だなんだと言われる筋合いは無い』」
電撃を纏った横薙ぎの刃がアヴァリに振るわれると、彼女は奥歯を噛み締めながら三節棍シェロブを展開してその一撃を受け止める。
しかし全身を流れる電撃のせいで身体に思うように力が入らず、クラウンからの一撃を受け切れずに刃が肩口に切り込まれ鮮血を飛び散らせる。
「『くっ……。ああぁぁっ!!』」
アヴァリは肩に食い込む刃を多節棍へと変形させたシェロブで絡め取り、自身に向かって引き込むとクラウンの顔面目掛けて拳を突き出す。
するとクラウンはあっさり
そして自身の身体をアヴァリの身体に潜り込ませるようにすると一気に身体を持ち上げ、勢いに乗せて彼女を思い切り背負い投げた。
これに対しアヴァリは身体を即座に捻り、地面に手を突いて受け身を取ろうとするが、全身を駆け巡る電撃による痛みが微細な身体のコントロールを狂わせてしまい、そのまま身体を地面に叩き付けてしまう。
「『がはっ……!』」
「『体が上手く動かないのはもどかしいよな?』」
シェロブに巻き付かれていた
これにアヴァリはなんとか反応し、地面を転がるようにしてその攻撃範囲内から逃れると、シェロブを長棍形態にし、それを支えにして立ち上がりクラウンに構える。
「『ふんっ! これだけの小細工をしてワタシに擦り傷しか作れないとはな……。見てくれや手段だけで大した事はないっ!』」
「『それで煽っているつもりか? そっちこそ、技は冴えている割に少しのアクシデントで立ち回りが覚束ない様子だが?』」
「『
アヴァリは叫ぶとクラウンとの距離を《縮地法》で一気に詰め、シェロブの先端を真っ直ぐクラウンの眉間に向けると、捻りを加えながらの連続突き《
それに対しクラウンは
(流石に帯電させた電気が弱まっているな……。ならば……)
クラウンはアヴァリから放たれた《
「『ほらほらどうした軟弱者がぁっ!!』」
避けるでも防ぐでもないクラウンに対し、彼女の脳裏に何か嫌な予感が浮上する。だが。
(このまま一気に片を付けるっ! 下手に日和見してまた小細工をされん内にっ!!)
そう考え至ったアヴァリはそこから長棍形態を三節棍形態に変形させ、ガラ空きのクラウンの背中や足、腕、後頭部へ次々と技を決めていく。
三節棍を左右に回転させながら連続打撃を繰り出す《
三節棍の端を持ち、自身の身体を捻りながら連続で大きく振り被り遠心力を利用した
三節棍から多節棍へと変形させながら上下左右あらゆる方向にシェロブを振り回して連撃を与え続ける《
そして多節棍を長棍へ戻し、左右へ大きく振り回しながら打撃を連続で与え、最後に全体重を掛けて振り下ろす《
それら幾つかの技を繋げ、途切れる事なく間髪入れずに繰り返しクラウンの背面から叩き込んでいくアヴァリ。
だがそれでも、クラウンは反撃せず耐え続ける。
彼が
「『ふんっ! 何を企んでいようが無駄だっ!! このまま叩き殺すっ!!』」
そしてトドメとばかりに長棍形態のシェロブを地面に突き立て身体を宙に持ち上げそのまま跳び上がると身体を翻し、自身の身体ごと長棍を高速回転させながら叩き付ける《
「『そういう技を、待っていた』」
アヴァリの《
「『《雷放紫陣》っ!!』」
瞬間、
「『がはぁぁっっ!?』」
その紫電に接触した瞬間、アヴァリの身体は先程までの動きを完全に無視して硬直し、同時に耐え難い激痛が全身を走るとそのまま地面に落下する。
そんなアヴァリを見たクラウンは
「……これで死なんのか。二百ミリアンペアは優に超えていた筈だぞ?」
アヴァリは何の身構えも無いままに直撃を食らってしまったにも関わらず絶命しておらず、痙攣はしているものの既に立ち上がろうとすらしていた。
「どんな体内構造していたら耐えられるんだ……。もしや私のように《電撃耐性》持ちか?」
クラウンは今回、アヴァリに対して《解析鑑定》を発動していない。
これは慢心からくる怠慢ではなく、単にエルフの実力者というものを肌で感じてみたかったという効率より小さな浪漫を優先した結果だったのだが……。
「ふむ。少々遊び過ぎたな。ここからは本気だ」
そう呟いたクラウンは未だ立ち上がれずにいるアヴァリに対し《解析鑑定》を発動。彼女の能力を
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人物名:アヴァリ・ティスマン
種族:エルフ
年齢:三百二十一歳
状態:感電、
役職:森精皇国アールヴ・トールキン森精軍第一軍軍団長
所持スキル
魔法系:《地魔法》《風魔法》《磁気魔法》
技術系:《剣術・初》《短剣術・初》《槍術・初》《棍術・初》《棍術・熟》《棍術・極》《棍術・派生》《多節棍術・初》《多節棍術・熟》《多節棍術・極》《多節棍術・派生》《旋棍術・初》《旋棍術・熟》《棒術・初》《棒術・熟》《棒術・極》《棒術・派生》《弓術・初》《杖術・初》《杖術・熟》《体術・初》《体術・熟》《白兵戦術・初》《白兵戦術・熟》《栽培術・初》《栽培術・熟》《登攀術・初》《登攀術・熟》《木管楽器術・初》《金管楽器術・初》《擦弦楽器術・初》《擦弦楽器術・熟》《
補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《体力補正・III》《体力補正・IⅤ》《魔力補正・I》《魔力補正・II》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《筋力補正・III》《筋力補正・IⅤ》《防御補正・I》《防御補正・II》《防御補正・III》《防御補正・IⅤ》《抵抗補正・I》《抵抗補正・II》《抵抗補正・III》《敏捷補正・I》《敏捷補正・II》《集中補正・I》《集中補正・II》《集中補正・III》《集中補正・IⅤ》《打撃強化》《刺突強化》《衝撃強化》《破壊強化》《筋力強化》《握力強化》《ピンチ力強化》《脚力強化》《集中力強化》《持久力強化》《瞬発力強化》《柔軟性強化》《遠近感強化》《視覚強化》《運動神経強化》《聴覚強化》《跳躍強化》《反射神経強化》《肺活量強化》《動体視力強化》《体幹強化》《三半規管強化》《平衡感覚強化》《洞察力強化》《判断力強化》《身体持久力強化》《筋肉適応力強化》《動作間能力強化》《連動性強化》《俊敏性強化》《均衡性強化》《重心把握力強化》《正確性強化》《肺強化》《心臓強化》《闘争心強化》《統率力強化》《音感強化》《視野角拡大》《思考加速》《魔力精密操作》《気配感知》《動体感知》《危機感知》《直感》《遠視》《遠聴》《夜目》《絶対音感》《挑発》《教育》《指導》《鼓舞》《司令塔》《威圧》《粉骨》《電撃耐性・小》《猛毒耐性・小》《麻痺耐性・小》《痛覚耐性・小》《疲労耐性・小》《睡眠耐性・小》《気絶耐性・小》《気絶耐性・中》《恐慌耐性・小》《斬撃耐性・小》《打撃耐性・小》《打撃耐性・中》《衝撃耐性・小》《環境補正・森林》《環境補正・樹上》《地魔法適性》《風魔法適性》《磁気魔法適性》
概要:森精皇国アールヴの抱える精鋭部隊「トールキン森精軍」の第一軍団長を務める女性エルフ。エルフとして生を受けたものの、弓や剣の扱いが上手くいかず落ちこぼれとして周りに軽蔑されていたが、そんな彼女を見かねた老齢のエルフが彼女に師匠として棍術を叩き込み、今では国内有数の実力者となった。
音楽と園芸を趣味としており、時折近所の子供達を自慢の庭に集めて小さな演奏会を開く事が唯一の楽しみになっている。
自身の専用武器「聖棍・シェロブ」はそんな師匠が亡くなった際に霊樹トールキンが師匠の魂を枝に取り込んで生まれた「霊魂枝」から制作した物。
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(ふむ。やはりかなりのスキルを有しているな。これだけで相当な実力者である事がありありと理解出来──旋棍?)
クラウン何かに気が付くと次に彼女が手に持つシェロブに目をやり、同じように《解析鑑定》を発動する。
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アイテム名:聖棍・シェロブ
種別:リビングアイテム
分類:棍・三節棍・多節棍・旋棍
所持者:アヴァリ・ティスマン
スキル:《磁性》《磁極》《加撃増大》《邪悪特攻》《霊力強化》《霊魂技術付与》《霊魂経験付与》《力》
希少価値:★★★★★★★★
概要:霊樹トールキンがヴァリノールの魂を自身の枝に宿らせて出来た「霊魂枝」によって作られた棍、三節棍、多節棍、旋棍の四形態に変形させる事が出来るアヴァリの専用武器。
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「旋棍……だと?」
クラウンが眉を
「かはっ……!?」
「『はぁ……はぁ……。ゆだ、ん、したなぁぁ……』」
間近から聞こえるアヴァリの声にクラウンが、視線を落とすと、そこにはシェロブを旋棍の形に変形させクラウンの腹部に一撃を叩き込む彼女の姿があった。
「『お前……』」
「『さあ……第二、ラウンドだ……クソ野郎』」
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