第三章:欲望の赴くまま-11
このスクロールの山から? 好きなのを一枚? ほうほう……っ。
それはなんとも胸躍るプレゼントじゃないかっ!!
「よ、宜しいのですか?」
「当然よぉー♪ 誕生日プレゼントだものぉー♪」
そうかそうか。ならば、私は遠慮しない。
私は《解析鑑定》を発動させる。そして目の前にある〝全てのスクロール〟を解析す──っ痛!?
急な頭痛。それも今まで感じた事のないレベルの強烈なモノ。コレは憶測だが、脳に情報をいっぺんに流し過ぎたのが原因なのだろう。人間の処理能力を上回ってしまったわけだ。
あ゛ぁ……クソ、油断した。便利なモノも使いこなせなければ意味がない。何か処理能力を向上させるスキルでもあれば便利なのだが……。まあ、今は置いておこう。取り敢えずはスクロールの名前だけ分かるように表示は……、よし、なんとか出来るようだな。
そうして今度は全ての情報ではなく、スクロールに封じられたスキルの名前のみを視界に表示させてみる。
うっ……これでも少し痛いな……。だが耐えられない程ではない。少し気合いを入れよう。
改めて私はスクロールの山を眺める。当然だがどれもこれも私が持っていないスキルばかり。嗚呼、なんだか興奮で震えて来る。
全てのスキルを集める。
それを達成するのが私の人生の目標だ。少しずつ、持っていないスキルの穴を埋めていき、全てが埋まるのを夢見る。この目の前のスクロールに内包されたスキルもいつしか私の物になる。想像するだけで魂が震えるようだ……。
……おっと、少し呆然としていた。取り敢えずは一つ、この中から選ばなければ。それもなるべく現状の私に必要なスキル。何かないか?
そうして再びスクロールを見回す。何か、何か有用なスキルは……ん?
私は一つのスクロールの山に目が止まる。十以上あるスクロールの山の一つになんだか違和感があるのだ。
これは……山の奥に、箱?
それはスクロールを丸めたら収まりそうな箱というよりももっと小さく、丁度指輪等を入れるような小箱だ。その箱が邪魔で中身が何かは分からないが、反応している以上あの中にもスキルに関連した何かがあるのだろう。
「メルラ伯母さん」
「〝伯母さん〟はいらないわよぉー? それで、なぁにぃぃ?」
「あ、はい……。それであのスクロールの山、あの山の奥に箱、ありません?」
「え?……えぇ……な、なんの事かしらねぇ……」
なんだその取って付けた様な反応は。絶対何かあるだろ。この箱が今の私に必要かは分からないが、見つけてしまったものは仕方がない。
「メルラさん。取り敢えず見せるだけ見せて下さい。私が欲しいスキルかはまだ分からないですし」
「そうですぞ義姉さん。そもそもこの山から好きなのを一つと言ったのは義姉さんですよね?」
「う、ぅぅ……わかったわよぉ……」
メルラはそう言っておずおずと私が示したスクロールの山に向かう。そして乱雑にスクロールを掻き分け、私が見付けた箱を取り出し差し出す。
私はその箱を受け取ると、フタの金具を外してフタを開ける。一つの指輪が収められていた。
「これは……」
驚く事にその指輪は先程の《解析鑑定》程ではないがかなり凝った装飾が施されており、普通の指輪では無いのが見て取れた。
私はすかさず《解析鑑定》を発動させ、その指輪の正体を明らかにする。
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アイテム名:足跡の指輪(壊)
種別:破損アイテム
スキル:破損している為表示不可
希少価値:不明
概要:破損した足跡の指輪。修復可能。
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……なんだ?このゴミは。
「メルラさん。これ、壊れてますね」
「え、ええ。そうねー……」
「……」
私はメルラの目をジッと見る。するとすかさず彼女は私から目を逸らし、小声で何度も「壊れてるー。壊れてるからなんでもないのよー」と棒読みな言葉を呟いた。
この反応……。絶対何かあるな?
最初こそゴミと判断したが、よくよく考えてみればおかしな点が幾つかある。
こんなしっかりした箱に収められていたり、わざわざスクロールの山の中に仕舞い込んでいたり、メルラが見せたがらなかったり……。色々と怪しい曰く品だ。
それに今はこうして《解析鑑定》を使ってもまともな情報が出ないが、いつしか熟練度が貯まった時に更なる情報開示があるかもしれない。メルラが隠したがるぐらいだ。きっと直せれば良い物なのだろう。
本音を言えばまだまだスクロールが欲しい。《解析鑑定》でザッと見ただけでも食指が動く程には欲望が疼くが、それとは別に妙にこの指輪に好奇心が吸い寄せられる。
……私は前世の頃から決めている事があるんだ。
それはある一定ライン以上に興味が──好奇心が疼いたなら迷わない。結果はどうあれ真っ直ぐ征くと。
故に──
「メルラさん、私これが欲しいです」
「えっ!? ……あぁ、そう、そうなのね。……えっ!? 本当にっ!?」
心底驚いた様子のメルラが不安と困惑が複雑に混ざった面持ちでこちらを見ている気がするが、そんなものは知らん。
「駄目……なんですか……?」
少しあざとく不安気な顔をして見せる。するとメルラの表情は困惑が深まり、次には頭を抱え始めた。
「い、良いの本当に……。〝見た〟だろうから分かると思うけどぉ……。それ、壊れてるわよ?」
「存じていますよ。しかし修復出来れば良いんですよね?」
「そ、そうね。うん……」
「なら問題ありません」
「そ、そう……。それが……欲しいのね? それがなんなのか分かった上で言っているのね?後悔しないわよねっ!?」
なんだが徐々に剣幕が増していくメルラの言葉に、若干だが違和感と不安を覚えたが、私は基本的に一度決めた事は相応の理由が無ければ変えない。故にこれは決定事項だ。変更は無い。
「はい。これが欲しいです」
そうキッパリ言い張る私。正直これが何なのか一切分からないが、私の欲望が根拠無く「欲しい」と叫んでいるんだから仕方が無い。
私の返事にメルラは項垂れながら私の肩に右手を置いて左手親指を立てて私に突き出す。その顔は落胆を精一杯の威勢で塗り潰した不自然な笑顔であったが、私はそんな笑顔に、同じように満面の笑みでもって返した。
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