第三章:欲望の赴くまま-10

 スクロールから全ての文字列と〝証〟が消失する。それは即ち、スキルの習得成功を意味していた。


 私は白紙になったスクロールを呆然と眺めながら次に自分の両手を眺める。手汗でびっしょり濡れた両手は自分が予想以上に緊張していたのだと自覚させられ、そこからの開放感が胸に去来する。


「やった……やったぞっ! クラウンがやったっ!!」


「凄いわぁっ!! 解析鑑定を習得出来たの初めて見たわよぉーーっ!!」


 盛大に盛り上がる二人は自分の事のようにガッツポーズまで決め、なんなら二人して手を取り合って騒いでいる。


 これだけ盛り上がっているという事は私は間違いなく《解析鑑定》を習得出来た様である。いやはや重畳重畳。


 では早速、習得したての《解析鑑定》を使って自分を解析してみるか。《解析鑑定》発動。


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 人物名:クラウン・チェーシャル・キャッツ

 種族:人間

 年齢:五歳

 状態:健康

 役職:カーネリア領領主嫡男

 所持スキル:

 魔法系

 無し

 技術系

 スキル《麻痺刺突パラライトラスト

 補助系

 エクストラスキル《解析鑑定》、《天声の導き》

 ユニークスキル《強欲》【詳細】


 概要:貿易都市カーネリアの領主の嫡男として産まれた男児。転生神の計らいにより自我と記憶を持った状態でこの世に生を受ける。生まれ持って七つの大罪スキル《強欲》を持つ者。

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 おおっ……これは凄いっ!! まさに私が待ちに待っていたスキルっ!! 所持スキルから概要まで事細かに脳内に表示されるっ!!


 この所持スキルにある【詳細】というのは察するに、恐らくユニークスキルとして内包しているスキルを表示してくれるのだろう。余り名前が並ぶのも不恰好ではあるし、この仕様は有難い。


 だが、この概要。ちょっとつまびらかにし過ぎじゃないか?私が転生者である経緯や《天声の導き》、《強欲》を持っている事まで明らかになっている。


 これはつまり他の《解析鑑定》を持った者に出会ったら私の素性が丸分かりになるという事だ。これはちょっと頂けない。一難去ってまた一難とはこの事だな……。また解決せねばならない問題が増えてしまった。


 ……まあ、ともあれ《解析鑑定》なんて希少なスキルを持っている者などそうそういる訳ではないだろう。早く解決するに越した事はないが、今焦ったとして解決はしない。解決出来る機会が来るまでは保留だな。


 さて、自分に対する確認は取れた。次に簡単な実験だ。父上とメルラ、どちらかに《解析鑑定》をしてみるか。


 父上は……まあ、知っている事が多いし、身内に使うのは覗き見のようで好かん。余り旨味もないしな。であるならメルラに使ってみるか。


 そう判断し、未だに二人で私のスキル習得に喜んでいる隙を突いてメルラに向かって《解析鑑定》を発動してみる。すると──


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 人物名:メラスフェルラ・マグニフィカ

 種族:人間

 年齢:██歳、妨害されました。

 状態:健康

 役職:スクロール屋店主

 所持スキル:

 魔法系

 ███妨害されました。

 技術系

 ███妨害されました。

 補助系

 ███妨害されました。

 概要:███妨害されました。

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 ……うっわぁ、なんにもわからない。


 いやはや、どうやら私は彼女を完全に舐めていたみたいだ。多分だが、何かしらの情報を秘匿出来るスキルを持っているのだろう。じゃなければ〝妨害〟とは出ないのではないだろうか?


 と、そんな事を考えていると、嬉しそうにしている傍らでメルラがこちらに鋭い視線を向けているのに気付いた。その視線を感じた瞬間、背筋にゾクりとした悪寒が走る。


「駄目よぉー? 乙女の秘密を勝手に覗いたら」


「は、はい……」


 ……どうやら今の私ではメルラには敵わないらしい。本能的な箇所でそれを察する事が出来る。はあ……思っていたよりかとんでもない人物と出会ってしまったらしい。


「ところで義姉さん。習得に成功したら料金は要らないとの事でしたが……」


「えっ? あ、あー言ったわねそんな事ぉ。安心しなさい、約束通りタダでいいわ。と、いうかぁぁ──」


 そう言いながら私ににじり寄るメルラ。そのまま足がもつれ思わず床に座り込んでしまった私に顔を近付けて来る。なんだ?私に何かする気なのか?


 そんなメルラに警戒していると、メルラはニッコリと笑い、私の頭に手を置いて思い切り髪をワッシャワッシャ掻き乱す。


「ちょ、な、何するんですかっ!?」


「ふっふっふぅー♪今日誕生日なんでしょぉぉー? なら私も誕生日プレゼントあげなくちゃねぇー」


 ……何?誕生日プレゼント?


「え?ですがそれはスクロールをタダにしてもらいましたし……」


「それは習得する様子を撮影した時の条件っ!! 私からの誕生日プレゼントはまた別よぉー♪」


「えっ、しかし先程はプレゼントだと……」


「それは貴方をからかっただーけ♪」


「貴女という人は……」


「ふっふーん。これで甥っ子に会わせなかった溜飲も下がったわね♪」


 そう言って一頻ひとしきり堪能したメルラは立ち上がって店内にあるスクロールの山に向かい、両手でそれを指し示す。


「このスクロールの山の中から一つだけ、好きな物をプレゼントするわぁ♪」


 メルラはニッコリと笑いながら、そんな事を言って見せた。


 ……ほぉう。

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