第六章:貴族潰し-19
マズイ……。見つかった。見つかってしまったが……。
目の前の子供の姿が月明かりに照らされて露わになる。こちらを見てビクビクと肩を震わせているのだが、何故か逃げるでもなく私を凝視している。
第一何故私の姿がわかるんだ? スキルを三つ重複発動させているんだぞ? そこに居るプロの警備兵なら兎も角、なんでこんな子が……。
訝しんだ私はその子供に対して《解析鑑定》を発動させる。
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人物名:マルガレン・セラムニー
種族:人間
年齢:三歳
状態:健康
役職:子爵嫡男
所持スキル
魔法系:なし
技術系:なし
補助系:《真実の晴眼》
概要:ティリーザラ王国に住まう子爵、スーベルク・セラムニーの嫡男。
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成る程、やはりスキル持ちか。私が言うのも何だが、この年齢でスキルを持っているというのは珍しい。恐らく何かしらの才能を持っているんだろうが……。私の姿が見えているのも恐らくはこのスキルの恩恵。
というかコイツが件のスーベルクの一人息子か。父親に似ず、子供ながらに中々理知的な雰囲気を醸し出している。それで、コイツはなんで未だに私を凝視しているんだ。
「…………何か用か?」
「ひっ、…………。え、だ、誰、ですか?」
ああ、そういえば聞かれていたなそんな事、さて、なんて答えようか……。
「お、お父様を……やっつけに来たんですか?」
なんだと? やっつける?
「どういう意味だ?」
「え、えっと、お父様、悪いこといっぱいしてる……。ボク、わかる、知ってる……。だから……お父様……やっつけ……」
…………スキルでスーベルクの悪事を暴いたのか……。父親が悪い事をしている。子供としてはどうすればいいかわからないのだろう。ならば、
「やっつけて欲しいのか?」
「えっ!? え、ええと……。悪いことしたら、反、省?しなきゃいけないって……。お母様、言って……」
お母様?スーベルクの妻か?確か病死していて今は……。コイツはそれを律儀に……。
「そうか。ならやっつけないとな。お父さんは悪い事沢山しているからな」
「──っ!?、やっぱり……。ねぇ」
「ん? なんだ?」
「ぼ、ボクもお手伝いしたいですっ!!」
「……なんだと?」
こいつは予想外だ。てっきり私は「お父様はボクが守る!!」くらいは言ってくるかと想像していたのだが、協力を申し出て来るとは……。とはいえ、コイツが何の役に立つかだが……。
「オマエは何が出来るんだ?」
「え、えっと……。う、ウソがわかります!」
ふむ、嘘が分かるか……。違う場面ならもっと使いようはあったが、今はそれどころでは……。待てよ?
「ちょっとこっちに来い」
私はそれだけ言って再び廊下の角を覗き込む。そこには相変わらず暗闇の中で微動だにしない警備兵が二人佇んでいる。
スーベルクの息子マルガレンも私を真似するように角の先にいる警備兵を見やる。
「あそこに二人立っているのが見えるか?」
「は、はい……」
「あの二人をどこか別の場所に連れてってくれないか? 出来るだけ遠くに」
「あの、人たち、ですか?」
「そうだ。それだけでいい。出来るか?」
「やっ、やって、みます!」
そう意気込むマルガレンは廊下の先に身を乗り出し、警備兵二人に近寄る。警備兵は一瞬近寄るマルガレンに警戒するも、直ぐにマルガレンであると気が付いて驚いた様に声を上げる。
「マルガレン坊ちゃん! こんな夜更けにどうなさったのですか!?」
剣を携えた警備兵が膝を折ってマルガレンと同じ目線になる様にしゃがみ込んでそう尋ねる。
「え、えっとね、お、大きな音で、起きて、お部屋を出たら、まっくらで、ボク、こわくて……」
「そうですか、それは私の同僚達が失礼しました……。一人でお部屋に戻れますか?」
「ムリ! ……暗いのコワイ……さっきね、向こうの方で黒いなにかが、走って……」
「な、なんですと!? 本当ですか?」
「う、うん……」
「おい、聞いたか?」
「ああ、それなら俺が坊ちゃんを部屋に送ろう。お前はその黒い何か……。多分侵入者だろう。そいつを任せる」
「了解した。じゃあ坊ちゃん、コイツが坊ちゃんのお部屋まで付いて行きますんで、大丈夫ですか?」
「うん……」
そうして扉を離れる警備兵二人とマルガレン。私はその三人が暗闇の向こうに消えたのを見計らい、廊下の角を飛び出して一気に扉の前に走る。
よくやったぞマルガレン! これで後は……。
私は扉の鍵を《鍵開け》を使って開け、音を立てずにゆっくり閉め直して再び鍵を掛ける。
さあて、作戦第二段階、開始だ。
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