第六章:貴族潰し-20

 私は月明かりしか差し込まないスーベルクの書斎を見回す。そして飾り棚に置かれた装飾が無駄に施された実用的でない燭台を見付ける。


 燭台を手に取り《炎魔法》を使って明かりを灯す。なんとなく飾りではなく本来の使用用途で灯された燭台が意気揚々と燃えている気がするが、今はそんな妄想をしている場合ではない。


 私はその明かりを頼りに部屋を探る。金庫と一口に言っても、四角い金属の塊がドカンと置いてある事はほとんどない。あれば楽なのだが、大抵の金庫を持った権力者はそんな単純な置き方はしない。


 金庫とは得てして無骨なもので、特に周りの目を気にする、見栄を張る様な者はそんな無骨な金庫を直置きするのを嫌ったりする。この燭台とてそうだが、一つ一つに趣向を凝らし、無駄にゴテゴテ装飾された物品で身を固め、「私程の権力者ならばこの位は趣向を凝らす」とアピールしている。


 ましてやスーベルク程の自己顕示欲の塊ならばその傾向は顕著だ。そして予想通り、簡単に部屋を探ってみて金庫の類を発見するには至らなかった。金庫がこの部屋にあるという情報が確かならば、金庫はつまり隠されているという事になる。


 そして金庫そのものを隠すならば、その場所など限られる。例えば絵画の裏なんかは鉄板だ。部屋の景観を崩さず寧ろ装飾としてはこの上ない物品。そして何より隠し易い。


 私はスーベルクの書斎にも飾られている絵画の何枚かを壁から外し、その裏を覗き込む。しかしそこにあるのは壁紙だけであり、あるとすれば絵画の影響で壁に染み付いた日焼け跡くらいだ。何枚かある内、その全てがそんな感じだった。


 ここでないとなると後は……。


 私は次に書斎に備え付けられた複数ある飾り棚、本棚に目を向ける。


 これも定番、棚の裏に隠されている、というヤツである。本棚の本や飾り棚の装飾が実は本物ではなくその棚をカラクリで動かすスイッチになっていて金庫が現れる、といった物だ。


 実にロマンに溢れ、非現実的な仕掛けの様にも思われるが、私が前世で似た様な情報収集をしている際、なんだかんだと割と本気でそんな仕掛けがあった時が何回かあった。なので一応その確認の為に飾り棚と本棚を色々弄ってみたのだが、やはり何も発見出来なかった。


 ふむ、となると、次は……。


 次に目を向けたのは書斎机。私の中で大本命と決め付けていた場所。私は十中八九、そこに証拠が眠る金庫が隠されていると踏んでいるのだ。


 理由は簡単。なるべく側に置いておきたいからだ。


 金庫には本来、二通りの用途として使う。一つは現金、宝石なんかの金品を保管する用途。二つに自身やその他不特定多数にとって重要な書類や物品を保管する用途。この二つ。


 今回の場合は当然二つ目、重要な書類や物品を隠す用途として使われている筈だ。そしてそんな金庫はなるべく身近に置き、確認が容易い場所にと思うもの。その方が精神衛生上安心だからだ。


 私はそう予想し、書斎机に歩み寄り、机を探る。そして探っていく中、普通の書斎机とは違う違和感を覚えた。鍵の掛った引き出しを《鍵開け》で開けて気付いたのだが、引き出しの奥行きの割に棚口の奥行きが広いのだ。


 他の引き出しも同様の奥行きであり、つまりこれはこの机の引き出しの奥には相応の空間が存在しているという事。こうなればもう、決まった様なものである。


 私は机の引き出しを全て外し、その奥を覗き込む。そこにはこの暗がりの中燭台の灯りに照らされる黒光りした金属の塊。ダイヤルと鍵穴と取っ手の付いた、私が知る紛れもない金庫がそこには置かれていた。

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