幕間:神々は溜め息を吐く

『……行ったな』


 今、漸く一つの魂を送り届けた。その安心感からか、分神達はそれを見届けると溜め息混じりに一斉にその場にヘタリ込む。


れで一安心、ですね』


『まあ、そうだな。此れで他の主神様方にはなんとか誤魔化しが効くというもの……。我等が主神様に責は向かぬだろう』


 分神達の心配。それは今回の〝魂取り違え事件〟の責任が自分達の主神に向く事であった。


 世界創生以来の致命的なミスは神々にとって重大な失態。その事が他神に知れれば、最悪転生神自身が、〝造り直される〟可能性すらあったのだ。


『しかし、なんだったんだあの魂。あっちの世界の魂にしては波長が特殊過ぎる。下手をすれば新人でなくても間違いが起きていたやもしれない』


『それにあの魂、何やら企んでいた様子。悪行……ではなさそうだったが、善行でもあるまいな』


『ああ、記憶と自我をって奴ですか? 確かに可笑しな要求です。不安やリスクを承知の上でみたいでしたし。一体何を考えて……』


 まるで口火を切ったかの様に分神達の愚痴は止まらない。こんな事態は二度とゴメンだとばかりにその喧騒は増していく。


 だがしかし。そんな中一柱、転生神のみが手を顎に添えて静かに考えに耽っていた。


 不安は去った。隠蔽工作も上々の仕上がり。これで他神に知られる心配はない。それなのに転生神の中には、得体の知れない違和感が微かに残っていた。


彼奴あやつの魂……。あの魂に私が与えたスキル以外に〝もう一つの何か〟が宿った。恐らく彼奴の波長の歪みがその〝何か〟を惹き付けた原因だったのであろう。それもあの気配は奴の……。だがおかしい。あのスキルが存在しない原初の世界で輪廻転生していた魂が何故あの様な……)


 転生神は何かを思うと自身の前に小型のスクリーンを幾つか展開し、それらを流し見してから直ぐに閉じる。


(やはりスキル一覧に〝あのスキル〟は載せていない。であれば何故……。そもそも奴の魂は我が手を加えた段階で限界だった筈……。あれ以上何かが宿る余地などありはしない。……或いは〝奴〟の──)


 そんな物思いに耽る転生神に、一番近くに控えていた分神が気付く。分神が転生神の顔を伺う様に覗き込むと、その視線に気付き転生神が顔を上げる。


『何か、気になる事でも?』


『いや何……。我の考え過ぎやも知れぬが、まあ良い。今は事後処理を済まさねば。勘の良い神に気付かれぬ様に事を急げ』


『畏まりました』


 それを聞いた分神達は一斉にその場から風に吹かれた様に霞んで消える。その場に残ったのは転生神のみ。転生神はそのまま玉座に深々と座り直し、背もたれに体を預ける。


 『また会おう』


 別れ際に放ったあの魂の言葉が頭から離れない。


(世迷言……と、切り捨てるには些か意味深よな……)


 そして深い、深い溜め息を一つ吐き、転生神は天を仰いだ。


『此処での再会でない事は、確かであろうな』


 転生神は一柱ひとり、初めて口を交わした人間に思いを馳せた。

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