第二章:歩み出す転生児-1
眩しい……。目がチカチカする。
新たに意識が覚醒して暫く、私はまだ現状を把握出来ないでいる。まさか序盤でこうも苦戦するとは予想外だ。
恐らく私は今人間の赤ん坊の状態だ。そう〝人間〟の赤ん坊。
身体に感じる違和感は無くはないが、今の所人間だった頃の感覚に近いように感じる。
耳の形や位置が違ったり肌の感じや尻尾があったりなどの特徴的な違和感は……取り敢えず無い。そこは助かった。
そもそもの話、人間に転生出来るかどうか、それも分からなかった訳だが、そこは運良くクリア出来たらしい。
で、人間の赤ん坊である現状、直ぐに確認出来た事がある。
まず身体が殆ど動かない。いや、動かない事はないのだが、可動域が狭い、という具合なのだ。首も当然座っていないのか、動かすのがシンドイ。正真正銘、赤ん坊であるのは間違いない。
そして次に、寝かされている場所が柔らかく、暖かいという点。気温も高過ぎず低過ぎず、匂いなんかもなんだか無添加素材を使ってそうな爽やかな香りがする。
どうやら運良く、私はそれなりの家庭に産まれる事に成功したらしい。前にも言ったがこれが汚らしい路地裏やら、どっかの薬品臭い場所だった可能性だってあったのだ。それを思うとそれだけで内心でガッツポーズをしたい気分だ。思わず声だって上げて──
「あ、ああうぅ……っ!?」
……声を出して少し驚いた。自分の声があんまりにも赤ん坊らしい可愛い声だったものだから、なんだかかなり恥ずかしい。
ああ、成る程。これは想像していたより何倍もシンドイかもしれない。赤ん坊であるならやって当然な行いの数々を、既に成熟している精神で全て乗り越えなければならないのだ。
覚悟を、決めねば……。
そんな覚悟を決め直し、出来得る限りの情報収集をしながら更に数分、漸く目が光に慣れてきた。眩しかった景色はその姿を徐々に浮かび上がらせ、次第にはっきりと分かるようになる。
白い天井。優しい風になびくカーテン。寝かされているベッドの傍にある色鮮やかな花が活けられた花瓶と赤ん坊に使う品質の良さそうなベビー用品。そしてそれらベビー用品を整理整頓している若い女性が一人。
母親か?とも思ったが、どうやら違うようだ。服装が
「ううぅ、ああぁい……」
……また思わず声を上げてしまった。
本能なのか? これは……。
別に本格的な本物のメイドを見て嬉しくなった訳ではない。
〝メイドが居る〟という事はだ。
つまりこの私が居る家がそれなりに裕福な家であるという事だ。裕福な家庭であるならば、それだけ良い教育が受けられ、それだけ知識や経験を増やせるという事だ。
ああ、なんと運が良い事だろう。思わず可愛らしい声だって上げてしまうというもの。
まあ、精神的には結構辛いが……。
と、メイドがこちらに気が付いた。
先程上げてしまった声にメイドが反応したようだ。メイドは慈愛に満ちた眼差しをこちらに向けると、優しく私を抱き上げる。
うお、なんだか不思議な感覚だ。他人に抱き上げられるなど、それこそ記憶に無い程昔に経験して以来だろう。暫くはこれにも慣れなくてはならないのか……。
それより今は私を抱き上げたメイドだ。このメイド、かなりの美人だ。私の元居た世界で当て嵌めるなら、モデル雑誌の表紙を飾ってもなんら不思議で無いレベル。気を抜いたら一目惚れしそうだ。
そんなメイドは優しい眼差しのまま身体を左右にゆっくり揺らし、私に声を掛ける。
「○☆%*○%♪$*?」
……そりゃあ、そうか。やはりそこまで甘くない。国どころかそれこそ世界そのものが違うのだ。言語なんて、そりゃあ通じない。
前途多難だな……。
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