第二章:嬉々として連戦-22
「シセラっ!!」
クラウンがそう叫ぶとその胸中から赤黒い光が飛び出し、そのままいつもの愛らしい猫の姿ではなく獰猛な肉食獣の形態にそのまま変化し、クラウンの大斧を防いだ木の根に飛び乗る。
そしてそれを踏み台にするようにしてエロズィオンエールバウム飛び掛かり《魔炎》による闇属性を付与された《
しかしその外皮は元になったのがリグナムバイタなだけあり相当な硬さを誇るらしく。シセラの連撃は微かな傷を付けるばかりだった。
決定打を与えられなかったシセラは苦虫を噛み潰したような表情をすると、背後に居たクラウンが隣に転移して来て再びその大斧を振り下ろす。
大斧は先程シセラが付けた傷の上をなぞる様に更に深く走り傷を大きくする。
クラウンは更にそこから連撃を叩き込もうと身体を捻るが、そこにエロズィオンエールバウムの根が槍が如く背後から迫り、その切っ先が体に触れる直前にクラウンとシセラは転移で一旦エロズィオンエールバウムから距離を取る。
「チッ。反応が遅れた。危なかったな」
転移自体は間に合ったものの、その切っ先は僅かにクラウンを擦り、破れた服を見て舌打ちをする。
「クラウン様、今のは?」
「アイツ……。攻撃一つ一つにも秘匿系スキルを使っていた。そのせいで避けるのに神経をいつもより割かなけりゃならない」
クラウンの感知系スキルすら掻い潜る程のエロズィオンエールバウムの秘匿系スキルは最早自衛の為のスキルではなく確実に相手を仕留める為の一撃へと変貌していた。
流石に全く見えなくなる、という事は無いものの、感知してから避けるのにそれなりに神経を注がなければならない。
加えて──
「──っ!!」
クラウンはまたもシセラを引っ掴んで別の場所に転移すると、先程まで居た場所の左右の地面から再び鋭利な切っ先の根がクラウン達を串刺しにせんと突き出ていた。
「な、何故あの場まで木の根がっ!? いくら大木でもあの距離は射程外の筈……」
「よく見てみろ。さっきよりも根が細いだろ?」
そう言われシセラが目を凝らすと、確かに先程攻防を繰り広げた木の根よりも細い事が確認出来た。
「アレは本体の木の根じゃなく、侵食され支配下に置かれた周りの木の物だ。本体から操っているせいか精度自体は悪いが、数で攻められたら一たまりもないぞ」
エロズィオンエールバウムの侵食により支配下に置かれた他の木々は
そのせいか一撃一撃の精度は低く、また本体のように秘匿系スキルが使える訳ではない為、避ける事は難しくはない。
だがそれでも数が増えれば、最早エロズィオンエールバウム本体どころでは無くなってしまう。
「では……」
「安心しろ。手数なら私達だって負けてはいない」
そう言うクラウン達に再び迫る木の根。それはまるで牙を剥いた大蛇のようにうねりながら凄まじい勢いで真っ直ぐクラウン達を襲う。
「クラウン様っ!!」
「……」
そしてその切っ先がクラウンに触れる直前、それを妨げるように地面から岩の壁が伸び、迫り来る木の根を弾く。
「流石に棒立ちは無いんじゃないですかねっ!?」
「信用している。と、解釈してくれ」
「ああもうっ!!」
ユウナの不満気な声が響く中、次に岩の壁の向こう側……先程までクラウンとシセラが居た場所に幾つもの水刃が舞い、侵食された木の根を刻みながらエロズィオンエールバウムに突っ込んで行く。
水刃はそのままエロズィオンエールバウムに着弾すると、僅かにだけ傷を増やし、クラウンとシセラで付けた傷を更に深く抉る。
「……」
そんな水刃を生み出したロリーナはその結果に歯噛みしながら眉を
「十分だ。シセラ行くぞ」
「はいっ!」
その掛け声と共にクラウンはシセラと共に再びテレポーテーションで転移し、エロズィオンエールバウムの目の前に現れると、まずはシセラがその全身に《魔炎》により闇属性を付与した火炎を纏い、全身を使って回転しながらエロズィオンエールバウムに突っ込む。
クラウンはその間に担いだ大斧を構え直し、そこに魔力を流し込んでいく。今回もまた二種類の魔法……《水魔法》と《地魔法》を融け合わせていき、即席の《氷雪魔法》を大斧に宿らせる。
そしてシセラの一撃がエロズィオンエールバウムを襲い、纏う魔炎によって傷口を抉ったタイミングでクラウンは跳躍。左右から迫る幾本かの木の根をスレスレで躱し、時にはユウナによる《地魔法》で守ってもらいながら最後に襲い来る木の根を足場に更に跳躍し、《氷雪魔法》が宿った大斧を一気に振り下ろす。
深くなっている傷に追い討ちを掛けるように粉雪の軌跡を描きながら振り下ろされた大斧が更なる傷を付けると、傷だらけになった一帯の外皮が一瞬の内に凍結し始め、エロズィオンエールバウムの身体に広がっていく。
それを見届けたクラウンはそのまま追撃はせずすぐさま後方のロリーナ達が居る隔離空間内へ転移し、《召喚》でシセラを呼び戻すと大斧を地面に突き立て《炎魔法》で火球を手の平に作り出す。
「クラウンさん、それは……」
「ああ、心配するな。直ぐ治る」
ロリーナだけでなくその場にいるティールやユウナが困惑の表情を露わにしている理由。それはクラウンの両手から手首に掛けてが青白く変色し、霜が降りて冷気を放っていたから。
適性無しでの強力な魔法には大きな代償が纏わり付く。先のシュトロームシュッペカルプェン戦での
そんな氷漬け直前の両腕を《炎魔法》の火球で温め溶かしながら《超速再生》で駄目になった細胞を急速に再生させていく。
「これでもまだマシな方だ。鯉の魔物から《寒冷耐性》を獲得していなかったら危なかったかもな」
「な、なんでそんなリスクがある攻撃なんかをわざわざ……。木なんだからさっきみたいに《炎魔法》使えば済む話だろ?」
「馬鹿言え。素材として見るからに優秀な奴の身体を燃やして炭にするわけないだろう」
「でもお前開幕の
「アレは奴の姿を拝む為の脅しだ。もう使わんよ。それとリスクが高い《氷雪魔法》を使ったのだって理由がある」
「理由……ですか?」
「ああ。奴を見てみろ」
クラウンにそう言われ三人がエロズィオンエールバウムに視線を向けると、そこには深くなった傷口が完全に凍り付いている状態であった。
エロズィオンエールバウムはそんな凍り付いた傷口をなんとかしようと木の根を駆使して取り除こうとしているが、相手が氷である為か中々上手くいかない。
「え……何してんだ? アレ……」
「氷を? わざわざ傷口塞がってるのに……」
「もっとよく見ろ。傷口の深い場所だ」
そう言われ目を凝らして見れば、深い傷の中に何やら薄緑色の木目の隙間から滲み出ている物を発見出来た。
「アレは……」
「さっき話したろ? 奴の樹脂だ。毒性の高いな」
「じゅ、樹脂?」
「ああ。普通なら高温に曝されて初めて滲み出すもんだが、奴はそこら辺自由らしい」
「成る程。だからリスクを承知で《氷雪魔法》を……」
「アレを飛ばされると色々と厄介だ。なるべく封殺しながら
クラウンは漸く溶けきった両手の平を握っては開きと数回繰り返して具合を確かめ、問題無いと判断すると改めて大斧の柄を掴みそのまま肩に担ぐ。
「援護を頼む。行くぞシセラ。ここから一気に追い込む」
「はいっ!!」
クラウンとシセラは三度その場から駆け出すと例の如く左右から無数の木の根が伸び、その鋭利な切っ先でクラウン達に襲い掛かる。
しかしそれをクラウンとシセラは身を翻しながら華麗に避けきり続け、時には担いでいた大斧を振り回して木の根を両断し、時にはその爪と牙で牽制し、時には木の根を足場に大きく跳躍して躱しながら一切止まる事なく突き進む。
そしてエロズィオンエールバウムの根本まで辿り着いたタイミングで二つの魔法がその大樹を蹂躙した。
刃の如き斬撃を巻き起こした陣風はその生い茂った豊かな葉を根こそぎ刈り取り、硬いエロズィオンエールバウムの中でも貧弱な枝達を
地面からいくつも隆起した頑強な
そんな二つの魔法による支援の中、シセラはその全身に魔力を溜めていき、全身の力を自身の強靭な牙に集中させると、一気に先程氷漬けにされている深い傷に飛び掛かり、黒炎を纏いながらその牙を突き立てる。
「《
シセラによる超高温の牙による一撃が氷漬けになっていた傷口を融かしがら深く抉り、闇属性の黒炎による負荷攻撃によりその強度を脆弱化させ、巨大な弱点へと変えていく。
そこを狙い澄ましたクラウンは跳躍して大斧を振り被ると、大斧に前回とは比較にならない程の魔力量で《氷雪魔法》を宿らせ鋭利な氷で形成された巨大な刃を纏わせる。
そしてスキル《峻厳》を発動させその身に強大な筋力を体現すると、単純ながら、けれどもだからこそ大きな力を発揮する技を繰り出す。
「《兜割り》っ!!」
限界まで強化されたクラウンによる氷結の兜割りはそのまま冷気を軌跡に残して振り下ろされ、幾度にも及んだ集中攻撃により出来た大きな傷口目掛け真っ直ぐエロズィオンエールバウムを斬り付ける。
その一撃は凄まじい切れ味で深くなっていた傷に追い討ちを掛けながら深く深く食い込んでいき、更に氷結による効果で傷が深くなる度に氷漬けにしていき、内部までその冷気を浸透させる。
冷気による浸透でその金属を思わせるような頑強さの本体は徐々に脆性を増していき、氷結の刃を押し付けるクラウンはその刃を力の限り食い込ませる。
すると次の瞬間、クラウンの頭の中に天声のアナウンスが唐突に響く。
『条件を満たしました。技術系スキル《
それを聞いたクラウンは口元を大きく吊り上げると、一度大斧を振り切り、そして更に上空に転移すると再び大斧を振り被る。
「これで終わりだっ」
そして自由落下を始めるクラウンは振り被った大斧に全神経を集中、目線をエロズィオンエールバウムに定めると、その凍結の刃を振り下ろす。
「《
刃は吸い込まれるかのようにエロズィオンエールバウムに走り、巨大な凍結の斬撃がその巨体を一閃。氷の花を咲かせるようにエロズィオンエールバウムに衝撃と氷が広がっていき、ビキビキと音を立てながらその全身が凍り付いていく。
全体が完全に凍結したエロズィオンエールバウム。その根本にクラウンは着地すると、振り返ってから一つ溜め息を吐く。
「はあ……。秋口には、ちょっと寒いかもな」
そう呟いて代償として凍り付いた拳でエロズィオンエールバウムを軽く小突くと、今まで付けてきた傷口から亀裂が走り、それが全体に広がるとエロズィオンエールバウムは轟音を立てながら真っ二つになって地面に崩れた。
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