第七章:事後処理-18
「ど、どういうことだよ!?」
「どういうことって……」
そう言われると説明し辛いな。というか説明する必要あるか? 今までわざわざ探りを入れて来るような奴が居なかったからスキル《隠匿》を使って以来意識して隠そうとはして来なかったが、両親や姉さんにすら言っていない事をコイツに説明する義理は無い。
よし、適当に誤魔化そう。
「私はさっきも言った通り姉さんから訓練を受けている。私の身体が動いて大丈夫な状態ならばほぼ毎日、毎朝毎夕みっちりとな」
「毎日、毎朝毎夕……」
「そうだ。それに姉さんはああ見えて訓練はかなり厳しい。自覚があるのか無いのか知らないが、人の限界一歩手前くらいまで追い込んでくる。並みの忍耐力じゃ付いていけないぞ?」
「お、おう」
うん、少し引いたか?まあいい、これくらいでなきゃ引き下がらないかも知れないからな。それと懸念があるとすれば──
「それと、勘違いしているかも知れないが私達はこの王都に住んでる訳じゃない」
「え!? そ、そうなのか?」
「やはり勘違いしていたか。私達はここから南東にある国境沿いの貿易都市カーネリアの領主の子だ。だからお前が姉さんから師事を受けるには、私達がコッチに来るか、お前が私達の元まで来るかしかない」
「そんな……。じゃあどうしたら……」
「そこまでは知らん。自分で考えろ」
厳しい言い方だが現実問題多少無理をしなければ解決しないだろう。一体コイツの何がそうさせるのかは知らないが、後はコイツ次第だ。私はそれを手伝ってやる義理はないし、メリットもない。旨味のない話に一々構ってやるほどお人好しじゃない。
そう考える私とは裏腹に、当のエイスは頭を抱えながらも必死に方法はないかと模索している様子で夕陽に照らされる中庭をウロウロし始める。
ん? というか、今何時だ?
そう思い私は教会内にある時計を急いで確認する。すると時刻は既に夕刻直前にまで迫り、最早これから買い物をする時間帯ではなくなってしまっていた。前世とは違い、活気溢れる王都であろうと夕刻を迎えれば閉まる店も多い。すなわち今日の買い物は諦めざるおえないだろう。
その旨をただただ待ち惚けを食らう事になった姉さんに伝えると、残念そうに「そうか……」とだけ口にして溜息を吐いた。
「今の内に宿に帰らないと暗くなってしまいます。今日は取り敢えずお暇しましょう」
「そう、だな。買い物ならまた明日すればいいしな。今日の所は帰るとしよう」
私は「そうですね」とだけ返し、未だに涙ぐむジャックを慰めるドロシーにその旨を伝える。するとドロシーは「お見送りするから少しだけ待っていて下さい」と言い子供達三人を連れて教会内に戻って行く。
マルガレンも私達のお見送りをしてくれるらしく、ドロシーが戻って来るまでの間、私と姉さん、マルガレンの三人で適当に雑談をして時間を潰す。
暫くしてドロシーが戻って来ると、その手には布で作られた包みが抱えられている。
「今日は重ね重ねウチの子達がご迷惑をお掛けしました。つまらないものですが、どうぞ」
そうして受け取った包みを抱え、私達は教会入り口へ移動する。
「今日は本当に色々と申し訳ありません……」
「いいんですよ。まあ、退屈はしなかったですし、マルガレンにちょっとした威厳も示せましたし」
「…………本当に貴方は大人顔負けな姿勢をなさるのですね。貴方程とはいかずとも、少しでも近付けるよう子供達に見習わせなくてはなりませんね」
「……まあ、行き過ぎにはならないようにしましょうね?」
行き過ぎた教育は子供を歪ませるからなぁ……。まあ、私も今は子供だが。
「それでは、また明日寄らせていただきます。マルガレン、また明日な」
「はい! あ、明日、待ってます!」
笑顔を見せるマルガレンに私も笑って返す。これくらいはやり返してやるさ。
そういえば、結局あの神官服の女の子……アーリシアだったか? 教会では見かけなかったな。ドロシーに話も聞きそびれたし……まあ、また明日聞きに来れば問題ないか……。帰りにまた広場で布教活動していなきゃいいんだが……。
そんな考えを浮かべながら私は片手を軽く上げて返事をし、教会の扉に手を掛け……、ようとして空振りする。
理由は単純で、誰かが教会の扉を外から開けたからに他ならない。まあ、教会なんだし、誰かが祈りを捧げに来たのだろうと、軽く考えていた。しかし──
「聞いて下さいシスタードロシー……。今日で帰らねばならないのにやはりあの男の子は見つかりませんでした……。シスターは何か心当たりが──」
目が合う。綺麗な碧色の大きな瞳。太陽のように輝く夕陽に照らされた金髪。純白にアクセントの効いたピンクの装飾があしらわれた神官服。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁっ!!」
…………やらかした。本当、勘弁して欲しい…………。
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