第七章:事後処理-19

 カーネリアは一人、自宅である屋敷にて細工作業をしていた。


 それはカーネリアの趣味であり、これまで数多くの装飾品を手作りしている。ジェイドが身に付ける装飾品も、その全てがカーネリアによるお手製。


 そのクオリティはかなり高水準。それを生業に生きている職人の目から見てもその出来栄えは眼を見張るものがある。


 そして彼女は今いる専用の作業台がある部屋で美しい宝石と睨めっこしながら唸りを上げていた。


「うーん、どうしましょう……」


 すると作業部屋の扉がノックされる。カーネリアは簡単に返事をすると中に入って来たのは一人のメイド──メイド長ハンナ。その手には銀のトレイに乗せられたティーポットとティーカップ等が抱えられており、メイドはそれを少し離れた低い台に乗せ、紅茶を淹れ始める。


「うーん、参ったわねぇ……」


「どうかなさったのですか?」


 紅茶を淹れ終わりカーネリアの元まで運んで来たハンナがカーネリアの呟きに反応する。カーネリアはそれに応えるように先程から睨めっこしていた宝石を彼女に見せる。


「それは……。坊ちゃんが奥様に下さった宝石ですよね?」


「ええ、そうなのよ」


 カーネリアはそう嬉しそうに答える。


 それはクラウンがスーベルクの屋敷から持ち出した複雑なグラデーションの掛かった石「精霊の涙」。クラウンが王都出発前にカーネリアへ渡しておいた物だ。


「坊ちゃんも粋な事をなさいますね。こんな宝石を奥様にプレゼントなさるなんて」


「うーん、少し違うわね」


「違う、とは?」


「この宝石はね、お腹にいる子へのプレゼントなんですって。お守りにして下さいって」


「なるほど……。尚更粋な事を……。でもこの宝石、凄いですね。見る角度と光の加減で見る見る色が変わります」


「そうなのよぉ……。だから困っているのよぉ……」


 カーネリアはそう言うと作業台に顔を突っ伏してまた唸り始める。


「い、一体何をそんなにお悩みに?」


「それがねぇ、この宝石、さっきも言っていた様に見る角度と光の加減、更には温度なんかでもグラデーションが変わるのだけど、それを活かせる装飾が思い付かないのよぉ……。こんなに難しい宝石初めてよぉ……」


「そ、そうなのですか……」


 ハンナは流石に細工に対しての知識が乏しい自分が口を出すのはおこがましいとただ相槌を打つ。ただ一つ、ハンナには気になる事があり、気を紛らわすという意味でその話題に変える。


「と、ところでこの宝石、随分と不思議なオーラを纏っていますね……」


「オーラ? …………ああ、貴女確か《品質鑑定》のスキルを持っているのだったわね。《品質鑑定》ってそんな物が見えるようなスキルなの?」


「あ、いえ、普通は判りませんが、奥様に拾って下さる前に生業にしていた職の関係で《品質鑑定》をかなり酷使していまして、熟練度がかなり上がっているんです。そのせいか、今では意識するだけでその品質がオーラで判るようになりまして」


「そうなの、凄いわね。それでコレの何が不思議なの?」


「え、えーっと、なんというか、脈動? している様な感じ……ですかね?」


「脈動? 生きているというの? この宝石」


 そう言ってカーネリアは宝石を部屋の明かりへかざして見る。宝石はたったそれだけでグラデーションが十重二十重と変化し、落ち着きがない。


「確かに、生きている様にも見えなくは無いけど……」


「お役に立てず、申し訳ございません……」


「あ、良いのよ、気にしないで。そう、生きている…………。うん、なんだかいけそうな気がしてきたわ!」


 そう言いカーネリアは複数ある引き出しを次々に開け、感性に任せて装飾の部品を取り出しては作業台に広げる。


「この子には元気な姿で産まれて来て欲しいもの、きっとクラウンもそれが分かっていてコレをお守りにってくれたんだわ。なら後は……」


 カーネリアはそのままの勢いで細工作業を進めて行く。こうなってしまってはカーネリアは止まらない。集中力が焼き切れるか、睡魔に負けない限りはこのままだ。


 ハンナもそんな彼女の様子に苦笑いをこぼしつつ、作業部屋にある待機用の椅子に腰掛け、カーネリアにもしもの事がないかを見守る。


 この時二人、そしてクラウンは知らない。後々この宝石がもたらす、奇跡の数々を。

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