第七章:事後処理-17

 …………突然何を言い出すのかと思えば……。私が強い理由? そんなもの決まっているだろう。


「……私はそこに居る姉さんから厳しい訓練を受けている。姉さんは贔屓目無しに剣術に関しては天才だ。そんな姉さんに、私は師事してもらっている」


「……そんなに、強いのか?」


 なんなんだ一体。さっきの態度と裏腹に今はその目をキラキラと輝かせて質問して来る。


「強いぞ。私が手も足も出ない。手加減されてな」


「そ、そうか……。そうか……」


 エイスはそれを聞くと私に背を向けて歩き出し、少し離れた所で立ち止まって空を見上げる。


「あぁー、クイネ、止めよう、オレ達じゃ勝てない」


 そんなエイスの言葉に当のクイネは表情を険しいモノに変え、ズカズカと足音でも聞こえるんじゃないかという程強く地面を踏みしめながらエイスに詰め寄る。


「アンタ何勝手に決めてんのよ!! アタシまだ戦ってないのよ!?」


「だから今から止めるんだよ!! コイツが手も足も出ない相手にオマエが敵うわけないだろ!!」


「そんなのわかんないじゃない!!」


「わかるよバカ!! 頭悪いオレでもわかる!! 今のオレ達じゃ勝てない!! 絶対勝てない!!」


「ば、バカって何よバカって!?」


 …………うむ、これは長引きそうだな。だがエイスの奴が思いの外冷静なのはやっぱり意外だな。戦う事に関しては多少才能があったりするのか?


 取り敢えずもう終わりそうならさっさと帰りたいのだが──待てよ?


「おい。取り敢えずお前が降参でいいんだな? 私がこの円の外から出た途端に勝利宣言とかするつもりじゃないよな?」


「え!? あ、あぁ、うん。オレの、負けでいいよ」


 歯切れが悪い。さてはコイツあわよくばそれを実行する腹積もりでいたな? 変に頭が回る。念の為確認しておいて幸いだった。


 私がそれを確認するとゆっくり円外に出て真っ直ぐ姉さんの元へ向かう。姉さんはそんな私を笑顔で出迎えてくれる。いや、笑顔というより、ニヤケ顔か?


「見事だったぞクラウン!! 流石は私の弟だ!!」


「アレくらい出来なきゃ姉さんの顔に泥を塗ってしまいますよ」


「そうかそうか!! これなら私がもう一人を相手する必要も無かったな!!」


 そうやって豪快に笑う姉さん。まったく、姉さんが戦わなくて良かった。でなければあのクイネとかいう女の子、下手したらトラウマでも植え付けられたかも知れないしな。


 そんな事を考えていると、話が終わったのかエイスとクイネが私達の元へ歩み寄ってくる。エイスは何故だか少しスッキリした顔をしているが、クイネは不満タラタラと言った具合に口を尖らせている。


「今回は私達、というか私の勝ちだ。異論はないな?」


「ああ、それでいい。それでいいんだけど……」


「なんだ? まだゴネるのか? 勘弁して欲しいんだが……」


「ち、違う! ……その、お、お願いがあるんだ!!」


 お願いと来たか。マルガレンの事なら断るのだが……。どうも話の脈絡的に違うようだな。


「なんだ?」


「オレを、あの人の弟子にしてくれ!!」


 …………弟子? あの人って、姉さんの事、だよな? どういった風の吹き回しなんだよ。まあ、私と同じくらい強くなれると考えたのなら分からんでもないが、私は例外だからなぁ……。そもそも、


「それを私に頼んでどうする?頼むなら姉さんにだろ?」


「え? あ、あぁ、いや、そうなんだけど……。年上のお姉さんと、どうやって話したらいいか、分からないから……」


 ああ、成る程。美少女な姉さんに声を掛け辛いんだな? まあ、分からんでもない。頼んでやってもいいが……、


「仮に姉さんに鍛えてもらったとしても、私みたいに強くなれる訳じゃないぞ? 私はまあ、例外な部分が多いからな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る