第七章:事後処理-16
次に戦うのは勿論エイス。三人の中で恐らく一番私の事が気に食わないと思っている悪ガキ風の男の子。
そうは言っても実年齢的には私よりは年上らしく、事あるごとに生意気だのと口走る。まあ、それはいいとして──
私は先程戦ったジャックに視線を移す。そこには俯きながら咽び泣く姿があり、ドロシーに背中をさすって貰いながら慰められている。
これじゃまるで私がイジメたみたいだな……。アレでも最速最低限の行動を取ったつもりだったのだが、アレは悔し泣きだったりするのか?
「おい!! またよそ見か!!」
木剣を構えるエイスが私にそう叫ぶ。
さて、このエイス、構えは割とまともだ。恐らく普段から木剣を使って鍛えるなりしているのだろう。しかも自己流とかではなく、誰かに指導されているかもしれない。それ程に基本がなった堂に入った構えだ。
これならば、使っても問題ないか?
実は少し、実験したいスキルが二つある。これは私が王都へ移動中の馬車内で獲得したもので、あの盗賊二人の魂をスキル《魂魄昇華》でスキルに還元していたモノ。それが馬車内で漸くスキル化に成功したのだ。
その内の一つをまずは開幕でお見舞いしてみよう。
「悪いな。少し真面目にやろうか」
そう言い、私は補助系スキル《威圧》を発動、エイスに浴びせてみる。
「──っ!!!?」
エイスは私の《威圧》を浴びた途端、その表情を強張らせ、目に見えて汗が大量に噴き出している。目の焦点は少しブレ、構えも少し及び腰になる。
ふむ、あの反応を見るに、ちゃんとビビってくれたみたいだな。まあ、流石に逃げ出したりはしないようだが、戦意は削れたろう。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「う、うぅるせぇ!! や、やるぞ……。やるぞ!!」
お、やるか。ならもう一個、やりながら試そうか。幸い怪我させるようなスキルじゃないしな。
私は木剣を構え、エイスが切り掛かってくるのを待つ。足元の円が狭い以上、私からこの距離は詰められない。故にこうして待つしか無いのだ。
するとエイスは意を決したかのように私に向かって走り出す。その速さは先程のジャックとは比ぶべくもない程で、あっという間に私との距離を詰める。
そして木剣を袈裟懸けにする様に振り下ろす。私はそれを木剣の側面で受け流し、体勢の崩れたエイスに木剣を振り下ろす。木剣はあっさりエイスの肩を捉え、その衝撃でエイスは地面に転がる。
まずは一回。
「ホラどうした? もう一回だ、立て」
私は転がるエイスにそう浴びせ掛け、発破を掛ける。それを受けたエイスは打たれた肩を手で庇いながら立ち上がり、悔しそうな顔で私を睨むと、少し距離を置いて構え直す。
「来い」
その言葉と共に、エイスは再び私に向かって走り出す。だがエイスも馬鹿ではなかった様で今度は木剣を極力下に構え、代わりに左肩を突き出して突進して来る。
そう、そもそもこの試合、剣を使って勝つ以外にも方法がある。私を円外に放り出してしまえばいいのだ。エイスはそれだけで私に勝つことが出来る。
私に科せられたハンデを利用した勝利に冷静に頭を切り替えたのは素直に賞賛する。邪魔なプライドを状況に応じて捨てられるのは中々出来る事じゃない。少しコイツに対する評価を改める必要がありそうだな。
ふむ、だがだからといって負けてやるつもりはない。そこまで私は優しくない。
私は突進して来るエイスに対し剣を逆手に持ち、真正面からエイスを受け止める。普通であれば年上の突進を食らえば瞬く間にぶっ飛ばされてしまうが、ここですかさず、もう一つのスキルを発動する。
技術系スキル《
エイスはその事実に目を丸くして驚くも、更に追加で踏ん張ってそのまま私を円外に押し出そうとする。
最早剣の試合ではなく相撲の様になってきているが、これは相撲ではない。故に──
私は未だ押し出そうとして来るエイスの腹に慎重に手加減しながら逆手に持った木剣の柄頭を食らわす。するとエイスは堪らず口から空気を漏らしながら私から離れてうずくまる。
「惜しかったな」
そう言って私は放り投げた木剣を拾い上げ、軽く投げてエイスの身体に当てる。
私の勝利条件が降参と剣で三回当てるのみ故にルール上はこうしなければ勝てない。恨まんでくれ。
「ホラ、もう一回だ」
うずくまるエイスに対して私が容赦せずそう言うと、エイスはそのまま仰向けになり、地面に拳を叩き付ける。
「あ゛ぁぁぁぁっ!! クソっ!! 勝てねーよチクショぉぉぉ!!」
そうして叫んで寝ながら地団駄を踏むエイス。
なんだなんだ急に。どれだけ泣き叫ぼうが私は勝ちを譲る気なんてサラサラない。大人気ない事かとも思うが、そもそも私はまだ五歳の子供、大人ではない。
「見苦しいぞ。一体何をやって……」
「オマエ!!」
今度はそう口にするとエイスは起き上がり私に詰め寄る。
まったく、一体なんなんだ……。
「なんだ?」
「オマエ、なんでそんなに強いんだ?」
「…………は?」
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