第七章:事後処理-15

 こうして始まってしまった木剣の試合。場所は教会の中庭に作られた簡単な運動場。使う武器は勿論木剣。まあ、これでも使い方次第では十分に危ないが、そもそも私と姉さんは寸止めする約束になっている。


 しかしこの木剣、妙に使い込まれている。刃の部分は無数に傷があり凹みや欠けたりしているし、持ち手も汗や血が滲んでいるのか少しだけ変色している。


 ここまで使い込むのは割と並みのことではない。もしかしたら目の前に居るあの三人は私達が思っている以上に凄腕の可能性がある。余裕を持って挑むつもりだが、油断は禁物だな。


 試合形式はシンプル。相手の剣を落とすか三回身体に当てるか降参させたら勝ち。ハンデとして私と姉さんは寸止め、そして足元に簡単に引かれた円の外に出てたら負け、剣以外の攻撃禁止。まあ、概ねこんな形。


 最初この多重ハンデにエイスがナメてると不満をこぼしたが、そうでもしなければ試合にならないのでスルー。


 対戦相手は私がエイスと気弱そうな男の子──ジャック。姉さんが気の強そうな女の子──クイネである。正直姉さんが相手なら三人束でも勝ち目はないが、男は男と女は女と戦うという形式にいつの間にか決まっていた。


 そんな対戦表にドロシーは心配そうにあたふたと戸惑い、マルガレンも落ち着きなく私と対戦相手を交互に見ている。姉さんは姉さんで軽く準備運動を始めていてヤル気マンマンだ。…………ホントに手加減する気あるのだろうか?


「おい!! ボーッとすんな!! 始めるぞ!!」


 おっと、色々と考え込んでしまったな。油断はしないと言ったばかりでこれではしょうがない。だがなぁ……。


 そう思い私は目の前に居る対戦相手を見て肩の力が抜ける思いに駆られる。


 腰は引け、姿勢は悪く、肩の位置は下がり、剣の握りが逆で、歩幅は滅茶苦茶。それに加えて一切目線が合わない。


 どうやら最初の対戦相手、ジャックはその気弱そうな印象そのままの奴らしい。人は見かけによらぬもの、とはよく言うが、これは流石に無いだろう。取り敢えず一つ提案してみる。


「棄権したいなら構わないぞ? 別に恥ずかしい事じゃない。寧ろ賢明な判断として感心する」


「か、感心……。い、いや! ダメだ! 騙されないぞ! ボクはオマエを倒してマルガレンから尊敬されるんだ!!」


 ふむ、ちょっと惜しかったな、流されそうになっていたが駄目か。それにしても尊敬ねぇ……。


 私は中庭のベンチに座り試合の様子を見ているマルガレンに視線を向ける。


 マルガレンは何度か言っている通り、私の様にズルをしている訳でもないのに年齢の割に頭が良く回る。スーベルクの屋敷では上手く機転を利かしたし、先程の面会でもマルガレンは私があの時の侵入者であると理解した上でその話を出さなかった。きっと話してはいけない内容なのだと察しているのだろう。


 そんな年齢不相応の頭を持ったマルガレンに尊敬されるなんてのは、割と大変だと思うんだがなぁ……。ましてやこんな及び腰の奴が尊敬されるなんてのは難しいだろうなぁ……。


「よそ見すんな!! ああぁぁもぉぉ!! 試合開始!! やっちまえジャック!!」


 エイスが唐突に試合開始を宣言し、それに合わせて及び腰のジャックが私に向かって斬り掛かって来る。


 まったく忙しない。


 私は振り下ろされるジャックの木剣を横薙ぎに弾く。するとジャックの木剣は簡単にその手から離れ、宙を舞って地面に落ちる。


 そもそもの話、握りが逆になっている時点で力などまともに入らない。ましてや私と同年代の素人の非力な力でなど話にならない。


「へ? ……へ?」


「いくらなんでも素人過ぎる。はい、次」

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