第六章:貴族潰し-9
別にヤケクソだとか開き直りだとか思考停止だとか、そんなマイナスな考えでそうしようと思ったわけではない。
どうせならこの状況を利用しようと考えたのだ。今のままでは時間を無駄に浪費するだけ。無駄が嫌いな私としては正直それが我慢ならない。ならいっそこの状況を有意義なモノにしようというわけだ。ではどう利用するか?
そう、彼女をこの窮地から助け出す、というものだ。
一見ただの無償の善意に聞こえるが、私はこれにいくつかの利点を見出している。
一つは勿論スキル習得である。現状私はこの後に控える屋敷侵入に向けたスキルをいくつか習得している。
だがだからといって慢心してはいけないと私は考えている。当たり前であるが私は現状五歳児……スキル《敏捷補正・I》を所持しているとはいえその身体能力は依然低いままだ。
万が一の時、私は簡単に組み伏せられ、窮地に陥るだろう。故に出来る限りその万が一に備え、様々なスキルを習得して対策を取りたい。特にコイツらの《○○術》や《○○補正》は単純で汎用性が高いスキル、是非欲しい所だ。
二つ目に彼女に恩を売れるという点。どういうわけだか私と彼女には浅からぬ因縁めいた何かを感じる。故に私は彼女に対して徹底して逃げていたし、彼女もまたそんな私を必死に追いかけて来た。
実の所、この状況に陥った時私の頭によぎったのは彼女を見捨てるというものだった。トラブルに巻き込まれるのは勘弁願いたいし、何より私にはこの後予定がある。余計な事はしたくなかったのだが、考え直した。
どうせ因縁があるのなら、彼女を見捨てるのではなく、助け出して恩を売る。すると今後また会うであろうタイミングで私が一つ優位に立てるという算段だ。ただこれは彼女の性格にもよる。まあ、恩知らずでないのを祈るばかりだ。
三つ目に私の練習だ。いくらスキルを習得して揃えた所で使い熟せなければ意味がない。当初はぶっつけ本番でなんとかするか、合間を見て簡単に確かめるかしようと考えてはいたのだが、これは怪我の功名というヤツだろう。相手は三人、細かい実力まではまだ私の《解析鑑定》の熟練度じゃ見れないし、少し厳しいかもしれないが、まあ、なんとか頑張ろう。
ふふふ。そう考えると何故だろうか。不思議とコイツ等が収集物として愛おしく見えて来る。自然とニヤけてしまうよ。
……さて、ではそろそろ乱入するか。まあ、当たり前だが正々堂々なんて生温いマネはしない。こっちはこっちでしっかり準備を整えてから、一気呵成に畳み掛ける。初手で優位に立てなければ流石にやられるのはこっちだ。汚いだの姑息だの言っている状況ではないのだ。
ああ、後彼女の動きにも気を配らねばな。
味方ではなく、敵になるかも判然としない彼女からいきなり背中を刺される可能性は高くはないだろうが、一応警戒しておこう。無害だとしても戦闘に巻き込むのは本意ではないしな。目端にでも抑えておかねば。
万が一襲って来たら……。臨機応変に対応するしかないか。よし……。
そうして私は腰にぶら下げている魔力回復ポーションを一本取り出し、一気に飲み干す。赤い液体が胃に到達した頃、すぐさま全身に力が湧いてくるのを感じ、高揚感が増す。
さあ、ではこの飲み干した後の小瓶、コイツをどうするかというと──
私は小瓶を全力で三人組がいる方へ投擲する。投げられた小瓶はそのまま三人組の上空へ飛び、丁度彼等の上で路地の壁にぶつかり、割れる。
「な、なんだ!?」
手斧を持った男がいち早く反応するがもう遅い。彼等の上空で割れた小瓶は細かいガラスの破片となり降り注ぐ。三人組は三人共そんな破片を避けず、思わず顔を手で守るように構え、自らの視界を遮ってしまう。 もはや彼等の注意はガラスにしか向いていない。
その一瞬の隙が、彼等の命運を大きく左右するとも知らずに……。
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