第六章:殺すという事-26

 

「わたしの家──ドロマウス家は王都で職業斡旋を生業としている家で、家系を紐解けばコランダーム家に合流する、所謂いわゆる分家にある家柄です」


 コランダーム家はティリーザラ王国で〝経済〟を司る大貴族。コランダーム家だけに言える事ではないが、いくら大貴族といえど経済という大枠全てを管理するのは困難を極め、とても一つの家系では賄えない。


 その為コランダーム家は経済という枠組みを細分化し、それらを意図的に作り出した血を分けた分家達に任せ、本家であるコランダーム家が分家達を管理する事で経済を纏め上げている。


 ドロマウス家もそんな分家の一つであり、その中でも失業者等に新たな仕事を斡旋する斡旋業を担う家系である。


「コランダーム公爵家管理の元、わたし達ドロマウス家は止むに止まれぬ事情で失業してしまった民達や就職先を探す若者達の相談に乗り、個々の経歴や能力を見て最適な職場へ斡旋する……。大変ですけど、国に誇れる仕事だと、わたしは思っています」


 元々ティリーザラ王国の失業率はそこまで高くなく、連作障害によって不作になってしまった農業従事者や、流行病で畜産動物を処分せざるを得なくなった畜産業従事者等の自然的な要因によって職を追われた者達が中心であり、多忙ではなかったものの、王国には欠かせない仕事である。


「……ですが今から大体十年くらい前から、ちょっとずつ、おかしくなり始めたんです」


「十年前? それは……」


「はい。クラウンさんから聞いた、王国に潜入していたエルフ達による経済の妨害工作が本格始動した時期です。……それにより、我が家は多忙を極めました」


 潜入エルフ達は王国内に人族に化け潜入後、様々なギルドや貴族家に馴染み、悟られぬよう時間を掛けゆっくりと王国の経済にダメージを与えていた。その効果が如実に現れ始めたのが今から約十年前の事である。


「例年に比べ失業者の数は三倍……多い時では五倍の平民達が職を失い、我が家に助けを求めました。勿論、我が家──父や母、従業員達はそんな彼等に全力で応え、一人一人に合った職を斡旋していたんです。……ですが、限界は直ぐに訪れました」


「……受け入れ先が無くなったんだな。失業者が増えた結果、今までのような経歴や能力を見て職を当てがう余裕がなくなり、最低条件でしか職場に失業者を紹介するしかなくなった。だが、向こうはそれを受け入れない」


「向こうだって善意だけでは生きてはいけません。ただでさえ経営が悪化している中で自ら進んで未経験な新参者を受け入れる余力は彼等にはありませんでした。……結果、失業者は減るどころか増えるばかりで……」


(……そう言えば死神に扮してスキルを夜な夜な回収していた三年前、様々な奴からスキルを回収していたが、失業者や孤児が多かったな……。アレはそれの名残か)


「私達は追い込まれました……。助けている筈の失業者達にはいわれない罵声を浴びせられ……」




『お前等がしっかりしないからオレ達がいつまでも職にありつけないんだっ!!』


『私達には子供も居るのよ知ってるでしょっ!? アンタ等がちゃんとしてくれないと私達は子供を手放さざるを得なくなるのよっ!!』




「受け入れ先の人達には何も分かってないって怒鳴られ……」




『こっちにそんな余裕ありませんよ分からないんですかっ!?』


『使えない奴ばかり寄越さないでくれます? 適当な仕事されると困るんですよねー』




「私腹ばかり肥やしてる他貴族達は見下すばかり……」




『大変そうですねぇドロマウス侯? 身分ばかり高くて能力が無いんじゃ苦労するでしょう?』


『こちらとしても協力は惜しみませんよ? ただ見返りは──ってすみません! そんな余裕ありませんよねぇ?』




「わたしは側から両親を見ているしかありませんでした……。二人が日に日に増えてくそんな声に押し潰されそうになってるのに、わたしは何も出来なかった……」


「コランダーム公は? そんな事態になっているのに放っておく人ではないだろう」


「勿論、動いてくれました。我が家の傘下ギルドに人員を割いてくれたり、受け入れ先を増やしてくれたり……。あの方も他の分家の立て直しに忙しいはずなのに……凄い方です」


 そう言って小さく笑ったロセッティだったが、直後に顔色が曇り始め、下唇を噛みながら目を伏せる。


「……ですがそれから数日後です。わたしの……わた、しの、両親が……死にました……」


「……」


「飲み物に、毒を盛られたんです……。隣にはご丁寧に偽物の遺書までおいて……」


「自殺の偽装……。潜入エルフの仕業か」


「クラウンさんからその話を聞いて、わたしもそう考えました。でも、わたしは初めから自殺なんかじゃないって、思っていたんです」


「偽物、とお前は考えていたんだな」


「当たり前ですっ! ……両親は確かに精神的に消耗していました。ですがわたしに言ってくれたんですっ! ……「あなたが仕事出来るようになるまで頑張る」って……」


 ロセッティは顔を上げる。その目には涙が滲んでいたが、目そのものには固い意志のような強い感情がハッキリと見て取れる。


「それで? 犯人探しはしなかったのか?」


「自殺、として処理されてしまいました。それもアッサリと……。多分潜入エルフに協力していた貴族達が根回ししたんです。あのまま粘られると、困るから……」


「……成る程。よく、家が取り潰しにならなかったものだな」


「お爺ちゃんが引き継いだんです。元々元気な内に両親に立場を譲りましたから、仕事はなんとか……。ただ、いつまでもお爺ちゃんに任せるわけにはいかない……」


「それで学院に? だが第一次は受けなかったんだな」


「本当なら来年受ける予定だったんです。コランダーム公のお陰で失業率は少しずつマシになっていましたが、まだまだ予断を許さなかったので、もう少し安定したらって私自身が……。その間に家業の勉強を……。でも、半年して状況が変わりました」


「……第二次入学査定か」


「お爺ちゃんに言われたんです。「これはお前に降り掛かったチャンスだ」って。少し不謹慎だとは思ったんですけど、お爺ちゃんも頑固なので……」


「……入学に、随分消極的な言い方をするな」


「わたしは家督を早く継ぎたかったんです。……箔が付くという理由だけで魔法の学校に行っている場合じゃない、って思ってました」


「過去形、なんだな」


「エルフと戦争があるって知った今、家督を継いでいる場合じゃありませんから……」


「……それで?」


「はい?」


「長々と昔話をしたんだ。それが根幹にあるんだろう? 憎悪でコイツ等を殺した理由」


「……はい」


 ロセッティは振り返り、改めて自身が手を下した五人の氷像を目の当たりにし、悲痛な面持ちで俯くと、重い口を開いた。


「……ここに居る──立ったまま凍っているエルフ四人は、アールヴの中でもそれなりの権力者の息子、だそうです」


 その彼女の言葉に、クラウンは少し驚いたように目を見開いた。


「お前……エルフ語分かるのか?」


「一応……。斡旋業の性質上、稀にハーフエルフの方も斡旋するんです。まあ、本当に稀で、念の為の勉強だったんですが……」


「……会話を聞いたのか」


「……今日ほど、勉強した事を後悔した日はありません。……彼等は、嘲笑ったんです。人族が……両親が苦しんだ日々を──」






 最初の一人にトドメを刺し、ロセッティはクラウンにてがわれた区画である応接間の扉を開けた。


 中には五人のエルフの少年が居り、無駄に身形みなりの良い一人のエルフがソファにゆったりと座り、その周りに取り巻きのようなそれなりな身形のエルフが三人。


 更に身形の良いエルフの正面に不相応な豪奢な剣を携えた一般的な鎧を身に付けたエルフが座っている。


 彼等は正面扉が吹き飛んだ際の爆発音の直後に入室して来たロセッティを訝しみ、全員がその場から立ち上がって彼女に構える。


「『おい何者だっ!? さっきの爆発も貴様かっ!?』」


 取り巻きの一人がそう叫びながら剣を鞘から抜き取ると、一人を除いた三人が同じように鞘から剣を抜く。


 しかし彼等の正面に居た豪奢な剣のエルフだけが慌てたように身を乗り出した。


「『ちょ、ちょっとファルマリさんっ! 何も状況が把握出来てないのにいきなり剣なんて……』」


「『黙れレンっ!! 俺様に意見するのかっ!?』」


「『意見じゃなくて提案ですってっ! 一人でこの部屋に現れたんですよっ!? って事はそれなりの実力者の可能性も──』」


「『ええい黙れ黙れ下民がっ!! 提案というならば却下だっ!! 第一コイツは見るからに人族だろうっ!? 戦わずして何とするっ!?』」


「『そ、そうですけど……。ね、ねぇ君? 取り敢えず事情話してくれないかな? 話し合えれば解決する事もあるでしょ?』」


「『わたし、は……。戦わない、で、大丈夫なら……』」


 エルフの少年であるレンからの甘言に、ロセッティの心は揺れてしまい、甘えてしまう。


 先に殺めたエルフだけで、既にロセッティは一杯一杯だった。気持ちを整理し切れず、いつまでも最期の姿が脳裏に焼き付いて離れない。


 クラウンに諭され頭では理解しているが、気持ちが着いて来ないのだ。とてもじゃないが後五人も殺めるなど、考えたくもなかったのだ。


 故にレンの言葉に、耳を傾けてしまった。


(この人、こんな時でも冷静だな……。こんな人なら、もしかしたら殺さなくて済むかも……)


 そんな甘ったるい考えで自分を納得させ、ヘリアーテ達に殺されているであろうエルフ達が彼の仲間であるという事実から目を背け気付かないフリをする。


 都合の良い思想を無理矢理こじつけ覚悟を決める事から逃げられる。


 そう思って少し出来た心の余裕は、ファルマリと呼ばれた身形の良いエルフの衣服に着いているとある紋章の存在に気付かせた。


 最悪の未来を引き寄せる、紋章の存在を。


「その、紋章……」


「『んん? 何か言ったか? 下等な人族風情が』」


「『……紋、章……』」


「『は?』」


「『その、紋章。見た事、ある……。何?』」


「『聴き取り辛いな……。というかこの紋章を? 人族が? ……ああ、成る程っ!』」


 ファルマリは嫌らしい笑みを浮かべると、レンの制止を振り切りながら挑発するように彼女に近付く。


「『俺様の親戚になぁ、人族の国で工作員に選ばれたエリートが居るんだよ? 知ってるか?』」


「『工作、員……』」


 そこでロセッティは思い出す。


 両親が亡くなる数日前、家に贈り物が届けられた。


 中には二組のティーカップが収められていて、手紙も一緒に同封されていた。


 内容は両親に対し日頃の感謝を伝えるもので、子供もその内お世話になるかも、という旨が書かれており、精神が消耗していた両親はその手紙を心から喜び、ティーカップを使っていた。


 そのティーカップに、同じ紋章があったのだ。


「『そうそうっ! 任務内容は秘匿されてるから詳しくは知らないが、パパに聞いたんだ。人族の国の経済を引っ掻き回してる、ってさぁあ』」


「『──っ!?』」


「『いやぁ、聞いた時には誇らしかったし爽快だったねっ!! 下等で薄汚れた猿共が困窮に喘いでるのを想像すると胸がすく思いだよっ!!』」


「……お、前が……」


「『ああん?』」


「お前達がァ……わたしの両親をッッッ!!」


 脳が沸騰し、視界がブレる。


 激情に身体が突き動かされるままに杖を正面に構え、ありったけの魔力を沸き上がる怒りのまま込め、上空に巨大な氷柱を形成した。


「『なっ!? この魔法の規模は……っ!?』」


「『ああもう言わんこっちゃないっ!! 早く逃げましょうっ!!』」


 レンがファルマリのすぐ側まで駆け寄り共に逃げるようにと彼の手を掴むが、ファルマリはその手を忌々しげに睨み付け振り払ってしまう。


「『指図するなと言っただろ下民がっ!! 人族如きを前に逃げるなど何たる恥かっ!!』」


「『そうは言いますけどファルマリさんっ! あの魔法はヤバいですって分かるでしょうっ!? あんなの連発されたら俺達なんて──』」


「『黙れ黙れっ!! 俺様はアヴァリ軍団長から直々に師事を仰いでるんだぞっ!! 俺様がこんな奴に──』」


「さっきからごちゃごちゃウルサイッッ!! お前達なんか……お前なんか死んじゃえッッ!!」


 魔力をありったけ込めた氷柱はファルマリ目掛け一直線に放たれる。その速さは彼女達の距離をあっという間に埋めてしまい、最早避ける術は無い。だが──


「『……えっ?』」


 ファルマリ目掛け放たれた氷柱は、彼によって無理矢理引き寄せられたレンの胸に突き刺さり、貫く。


「『ごふァッ!? ……なん……ファルマ、リ……さん?』」


 吐血し、ファルマリに困惑しながら振り返ったレンだったが、当の盾にしたファルマリは下卑た笑いを浮かべると、彼の背中から僅かに飛び出した氷柱の先端を見て口笛を鳴らす。


「『ひゅ〜、危ない危ない……。安物の鎧でも身体が中にあると中々の盾になるなぁ。まあ、ギリギリだったから盾としては不合格、か』」


 そう言い捨てるとレンをまるで道具のように投げ棄て、ロセッティに視線を戻す。


「み、味方を……仲間を、なんで……」


「『ああん? 人族語を話すな耳が腐る……』」


「『なんで、仲間を、盾に……』」


「『仲間? はんっ! こんな下民が仲間なわけないだろうがっ!!』」


「『え?』」


「『コイツはなぁ? 俺様に取り入ろうとしたんだよ? 媚びへつらってゴマ擦ってなぁあ。なんでも? 母親に楽な生活させてやりたいんだってな、殊勝な話だよ涙が出るっ!』」


「『そこまで、知ってて……アナタはっ!!』」


「『んん? 何だその顔は? この下民を殺したのは貴様だろ?』」


「『──っ!? わたし、が……?』」


 投げ棄てられたレンに視線を向けたロセッティは、改めて自分のした事に目を見開く。


 胸には自分が放った氷柱が刺さり、床に敷かれたカーペットにおびただしい量の血が染み込んで広がっていく。


 その目からは既に光が失われており、ただ譫言うわごとだけが漏れ出ていた。


「『エ、ゼル……。ゼル、リム……。ご、めん……。何も……出来な……。母さ……ごめ……』」


「ああぁ……ああぁぁ……」


 自分に……人族である自分に話し合いをしようと持ち掛けてくれた彼を、殺してしまった。


 しかも激情に駆られ、冷静さを欠いた結果招いてしまった犠牲ともいえる彼の死は、自らの意思、覚悟で奪った命よりも遥かに彼女に重くのしかかる。


「『怒りで冷静さを失い無闇に魔法など使うからこうなる。浅慮で短慮で実に下品な人族のする事は理解出来ん』」


「……」


「『お? 戦意喪失か? チャンスだぞお前達っ! この人族を捕まえろっ!』」


「『捕まえる? 殺さないのですか?』」


「『穢らわしい人族だが女だ。性処理の道具ぐらいには使えるだろう?』」


「『おお成る程っ! さすがファルマリ様っ!』」


「『ここにいる同族を襲うのは流石に気が引けるからなぁ、コイツなら心置きなく使い捨てられる。一応言っておくが最初は俺様だからな? いやはや溜まっていたから丁度良──』」


「…………知らない」


「『ああん?』」


「わたしは知らない。わからない。わかりたくない」


「『……何言っているんだ気持ち悪い』」


「しらない。しらない。しらない。しらない。しらない。しらない。しらない……」


「『ブツブツブツブツと煩わしい……。おい、黙らせろ』」


「『はいっ!』」


 取り巻きの一人が拳を握りながらゆっくりロセッティに歩み寄る。


 そして目の前まで来ると口元を吊り上げて拳を振り上げ、何の躊躇もなく振り下ろす。


 しかし、その拳はロセッティの顔面に刺さる直前で何かにヒビが入ったようなピキッ、という音を鳴らし、それと同時に拳から腕にかけ強烈な鋭い痛みが走った。


 取り巻きはその痛みに思わず振り下ろした腕を空振りさせてしまい、そのまま腕を庇うようにしながらフラフラとファルマリの元に後退する。


「『お、おいっ! 何をやっているっ!?』」


「『ふぁ、ファルマリさま……。うぅ、腕が……俺の腕がッッ!!』」


 差し出された腕を見て、ファルマリは目を見開く。


 それは真っ白に染まって霜が降り、巨大な亀裂が痛々しく走った氷結した腕。血は出ておらず、亀裂の断面からは芯まで凍り付いているのが見て取れた。


「『なっ……!? こ、これを……振り下ろした一瞬でっ!?』」


「『ファルマリ様ぁ、や、ヤバいですってコイツっ!!』」


「『あ、ああ……。人族風情に撤退は恥だが、一度態勢を立て直し──っ!?』」


 流石に身の危険を感じたファルマリが逃げ出そうとした瞬間、自分の足が床から離れず全く動かない事に気が付く。


 何事かと足元に視線を移すと、そこには床が真っ白に凍り付き、自身の足を巻き込んでいた絶望的な光景が広がっていた。


「『あ、ああ足がっ!?』」


「『お、俺もですファルマリ様っ!! う、動けないっ!!』」


「『ふぁ、ファルマリ様ぁ……っ!!』」


「『う、狼狽うろたえるなっ!! 魔法を使って砕くなり溶かすなりするんだっ!!』」


 叫んだファルマリは足元に向けて《地魔法》による岩石を生み出しぶつける。


 しかし足元の氷はヒビは入りこそすれ砕かれる事はなく、出来たヒビも一瞬で塞がれてしまう。


 それどころか足元の氷結は足からどんどん身体を登っていき、足先に至っては既に感覚が消えていた。


「『ファルマリ様ぁぁッッ!!』」


「『く、クソッ!! お、おい女っ!! 今すぐこの氷を解けっ!!』」


「しらないしらないしらないしらないしらない──」


「『お、おいッ! 女ぁッ! 止めろッ!!』」


 氷は下半身を覆い尽くし、上半身へ魔の手を伸ばす。確実に近付いて来る死に、氷結とはまた違う原因から来る寒気が背筋を走った。


「『や、やめ……ッ! ……し、死んでしまうッ!』」


「わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない」


「『頼、む……。助……け……』」


 上半身を覆い、両腕を覆い、氷は首元にまで差し掛かる。


「『許、し……』」




「……………………………………………………ゆ る す わ け な い じ ゃ な い」




 その瞬間、彼女から猛烈な吹雪が吹き始め部屋全体に荒れ狂う。


 たちまち応接間は白銀の地獄に覆われ始め、全てを純白に染め上げる。


 ファルマリ達は勿論、床に倒れ伏すレンの死体や彼等が座っていたソファ。様々な調度品や置かれていた観葉植物に至るまで無差別に凍り付いていく。


 そんな中、一人変化の無いロセッティはその場に座り込むと床を見詰め微動だにしなくなる。


「わたしは……うらみで……。……ちがう……。かくご……。そう。かくごがたりなかっただけ……。いうとおりにできなかっただけ……」


 自分の招いた結果を、他の言い訳で塗り潰す。


 どれだけ破綻していようと、どれだけ矛盾していようと、どれだけ無理矢理だろうと関係ない。


 ただ現実逃避だけに脳を使い、後は何も関与しない。


「わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。しらない。しらない。しらない。しらない。しらない──」


 だから呟く。それだけを……。

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