第六章:泣き叫ぶ暴食、嗤う強欲-4
エクストラスキル《超速再生》。
読んで字の如く、自身の負った傷害を超速で再生させ、一撃で命を失わない限りは致命傷すら完治させる権能のスキル。
このスキルがある以上、例え先程の様な魔法を連発したとしても仕留め切れなければああして再生してしまう。
かつて幾度か戦場にて出現した「暴食の魔王」を打ち倒さんとした者達もこのスキルに圧倒され
そんなデタラメなスキルを、クラウン達はこれから攻略していかなくてはいけないが、クラウン達にとってこれは想定の範囲内である。
クラウンは目の前で再生されて行く肉塊を見やり、己の覚悟を改めて認識する為に、以前座標を確認しに来た際に見た魔王のステータスを今一度見るべく《解析鑑定》を発動させる。
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個体名:グレーテル・クートゥル・ラヴクラフト
種族:魔族
状態:魔王の呪い、狂暴化、飢餓
所持スキル
魔法系:《炎魔法》《水魔法》《風魔法》《地魔法》《光魔法》《溶岩魔法》《霧魔法》《幻影魔法》《重力魔法》
技術系:《剣術・初》《剣術・熟》《ナイフ術・初》《短剣術・初》《短剣術・熟》《細剣術・初》《大剣術・初》《大剣術・熟》《槍術・初》《槍術・熟》《棒術・初》《棒術・熟》《手斧術・初》《大斧術・初》《大槌術・初》《大槌術・熟》《鉄球術・初》《棍術・初》《弓術・初》《弓術・熟》《杖術・初》《杖術・熟》《鞭術・初》《体術・初》《体術・熟》《小盾術・初》《小盾術・熟》《大盾術・初》《大盾術・熟》《投擲術・初》《調理術・初》《細工術・初》《釣術・初》《登攀術・初》《騎乗術・初》《
補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《魔力補正・I》《魔力補正・II》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《防御補正・I》《防御補正・II》《抵抗補正・I》《抵抗補正・II》《敏捷補正・I》《敏捷補正・II》《集中補正・I》《集中補正・II》《命中補正・I》《命中補正・II》《器用補正・I》《器用補正・II》《幸運補正・I》《幸運補正・II》《斬撃強化》《打撃強化》《刺突強化》《貫通強化》《衝撃強化》《破壊強化》《射撃強化》《剣速強化》《咬合力強化》《視力強化》《聴覚強化》《嗅覚強化》《味覚強化》《味覚超強化》《跳躍強化》《声帯強化》《反射神経強化》《肺活量強化》《動体視力強化》《体幹強化》《免疫力強化》《消化力強化》《吸収力強化》《自然回復力強化》《新陳代謝強化》《視野角拡大》《可視領域拡大》《胃腸拡大》《寿命拡大》《思考加速》《高速演算》《演算処理効率化》《魔力精密操作》《超速再生》《気配感知》《魔力感知》《動体感知》《空間感知》《精神感知》《罠感知》《遠視》《直感》《挑発》《鼓舞》《威圧》《覇気》《剛体》《業火》《激流》《疾風》《嶄巌》《焼失》《炎熱耐性・小》《猛毒耐性・小》《猛毒耐性・中》《腐食耐性・小》《腐食耐性・中》《痛覚耐性・小》《痛覚耐性・中》《疲労耐性・小》《疲労耐性・中》《気絶耐性・小》《気絶耐性・中》《斬撃耐性・小》《刺突耐性・小》《貫通耐性・小》《品質鑑定》《物品鑑定》《炎魔法適性》《水魔法適性》《風魔法適性》《地魔法適性》《光魔法適性》《溶岩魔法適性》《霧魔法適性》《幻影魔法適性》《重力魔法適性》《暴食》〈詳細……〉……《捕食習得》《飽食》《悪食》《超吸収》《還元》
概要:元魔族大国ラヴクラフトの四代目国王。今その身体は「魔王の呪い」に蝕まれ異形と化している。
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そのスキル量、そして羅列された強力なスキル群に、クラウンの心臓は大きく跳ねる。
これが自分と同じ魔王なのかという現実に実感が湧かず、これからこんなモノを相手に討伐するのだと考えると途方も無く感じている中、それでもクラウンの胸に、頭に去来するのは、それらを塗り潰して余り有る程の〝欲望〟だった。
散見されるスクロール屋でも見た事もない複数のスキル達。見ただけで有用であるのが分かるエクストラスキル達。そして大本命ユニークスキル《暴食》。
クラウンにとって、それはどんな宝石や金銀財宝よりも煌びやかで眩く、どんな高級食材や絶品料理より匂い立ち、彼の心を焦がす。
「ふふっ。ふふふふふふっ」
自然と口角は吊り上がり、目は細くなり、吐息が漏れる。
「ぼ、坊ちゃん?」
クラウンの前を陣取りカイトシールドを構えるマルガレンが苦笑いを浮かべながら小声でクラウンに問い掛ける。
「なあ、マルガレン。楽しみだなぁ……。アレが……あのスキル達が私の物になるんだ……。嗚呼……良いなぁ……堪らないなぁ……。ふふふふふふっ……」
「……な、成る程。負ける算段は一切していないのは分かりました……。ですが今一度気持ちを鎮めて下さい。周りに気付かれますよ?」
「おっとそうだな。いかんいかん……」
クラウンは深呼吸をし、気持ちを鎮めていく。しかしそのニヤけた顔はどうにもならないようで、それを見たマルガレンは呆れた様に小さく笑う。
「さて、そんな事よりだ。もう直ぐ奴は動けるまでに回復するだろう。そこからが本番だ」
魔王の《超速再生》を突破するには、その権能の穴を突くしかない。
エクストラスキルを発動するには何かしらの代償を必ず払っている。それはこのスキルに限らない話だが、大抵は魔力を消費しているし、エクストラスキル程の強力なモノであれば相応に消費をする。無限には回復しない。
要するに《超速再生》を突破する方法は……。
「奴の魔力が尽きるまで力を使わせて殴りまくる。奴の動きは見かけよりかなり早い。今の内に動きを封じるぞ」
魔王の肉塊が肉片を集め、先程の醜悪極まる姿に戻りつつある中、クラウンの合図により皆が一斉に動き出す。
まずはキグナスが再生中の魔王に近付き、その自慢の大金槌を地面に振るう。
「《
大金槌は地面を強烈に打ち付け、生じた亀裂は魔王の足元へ辿り陥没させると岩が複数隆起する。
隆起した岩はそのまま魔王を押さえ込む様に固定し、動きを封じる。
キグナスが魔王を拘束し終えるとすぐさまその場を退避。次にキャピタレウスが詠唱を開始する。
「集積せよ冷気。
《氷雪魔法》を詠唱を終えるとキャピタレウスの杖から一つの雪の結晶が飛び出し、それが風に舞う様に飛び出すと拘束された魔王に着弾。
刹那、氷獄が生まれる。
氷結する鈍い音を響かせ沼の濁った水すら巻き込み、絶対零度の氷塊は魔王の身体を飲み込み一瞬にて周辺の気温すら下げる。
「ぬぅ……流石に全身は氷漬け出来ぬか……口惜しい」
流石のキャピタレウスでも魔王の全体は氷らせは出来なかったが、それでも集まり掛けていた肉片達は氷に阻まれ足止めを食い、露出している背中部分は出来つつあった触手が気味悪く蠢くだけである。
動きは封じた。後は果敢に攻め込むだけ……とは、いかない。
何故ならこの程度の所業、昔の戦場でも既に試されている。
あらゆる手段で拘束し、全兵力を以て鎮圧しに掛かったが、それでも彼等は戦場で散り、魔王の餌に成り果てた。その原因、それは……。
「チッ……あれだけ細切れにしたのにまだ〝それ〟を使えるか……」
キャピタレウスの魔法で凍らせきれ無かった背中部分。そこから飛び出していた触手達が次々に引っ込み、代わりにチューブ状の突起物が背中中にビッシリ出現する。
「ひぃっ……」
アーリシアが思わず悲鳴を上げる程の見る者が見れば怖気に襲われる事必至な気分が悪くなる無数の突起物。その穴達から、粘液に塗れた鋭いギザ歯が並んだ牙が生える。
「姉さんっ!!」
「ああっ!! まかせろっ!!」
「俺達には何も無しかチクショウっ!!」
クラウンの言葉にガーベラ、キグナス、ハーティー、ラービッツが身構える。
ガーベラを先頭に放射状に並んだ四人。そんな四人に対し、魔王の背中が小刻みに震える。
その瞬間、突起物から飛び出していた無数の牙が、一斉に射出される。
射出された鋭い牙は弧を描きながらガーベラ達に目掛けてまるで雨の様に降り注がんとする。
このままアレを放置しては全員がズタズタに引き裂かれ、沼地に赤い池が新たに出来上がる。昔の戦場で拘束までは成功した者達はコレにやられたのだ。
しかし、そんな斬撃の雨に、ガーベラが躍り出る。
ガーベラは表情に笑みを湛えながら、着弾寸前の牙をその腰に帯剣された剣を勢いよく引き抜き──
──ズァァァンっ!!
という凄まじい音を鳴らしながら一気に薙ぎ払う。
それは一瞬だけだが、さながら巨大な傘が出現したのかと幻視してしまう程の綺麗な弧を描き、束の間の晴れ間を生み出す。
「ふはははははっ!! そんなものか魔王っ!!」
ガーベラは高らかに笑いながらその後も豪雨の様に降り続ける牙群を薙ぎ払い続ける。
左右前後と凄まじいスピードでステップを踏む様に移動を繰り返し、己が守る範囲すら踏み越えてはたき落し、最早キグナスやハーティー、ラービッツが自衛する必要が無くなる程だ。
そしてその速さは時間が経つ毎に落ちるどころか徐々に増していき、その姿を目で追う事は最早困難。残像すら見える勢いである。
直径十センチにも及ぶ牙の雨は、ガーベラの持つ「竜剣・ジャバウォック」により丁寧に一つずつ切り裂かれ、砕かれ、弾かれ、無残なカケラは時折粉状にすら舞い上がり、竜剣の刃から放たれる赤い輝きに反射してキラキラと輝く。
回り、反り、跳ね、まるで歌う様に、踊る様に沼地で牙を弾き続ける深紅の長髪を棚引かせるガーベラはまさに、戦場にて踊り狂う紅蓮の炎の様だった。
そんなガーベラを驚愕するように目を見開いて見守る一同の中、クラウンは一人、薄く笑う。
「ふふっ……。「紅蓮の剣姫」か……成る程。名前負けどころかまだまだ過小評価じゃないか」
「……坊ちゃん?」
「アレに……私は本当に届くのだろうか……」
「……」
クラウンの羨望と憧憬の混じった物憂げな表情に、マルガレンの言葉は詰まる。
自分の主人が目指す先に居る直近の人物であるガーベラはあんなにも超人的で遠い。
それを目指すのは、きっと果てしない。自分が想像出来ぬほどに。
故にマルガレンは何も言えない。それを励ませる程に、マルガレンはまだ大人ではないのだ。
暫くしてガーベラが躍り続けていると、先程まで雨の様に降り注いでいた牙の雨はその勢いを弱めていき、徐々に
こうなればガーベラにもかなり余裕が出て来る。
丁寧に砕いていた牙を、一振りを大きくする事によって薙ぎ払う様に変えていき牙が降る間隔を大きくしていく。
そして一際大きく隙が開いた瞬間、ガーベラは竜剣を鞘に納刀し、柄を握ったまま腰を屈めて魔王を鋭い眼光で睥睨する。
深く長く静かに息を吐き、全神経を集中させ邪魔な思考や雑念、力みの一切を排除していく。
見据えるのは魔王の胴体、スキル《弱点看破》により見出した魔王の弱点、その中心。
クラウンからの指定では、大きなダメージを与えて欲しいという物だったが、ガーベラには毛頭そんなつもりは無い。
ただあるのは愛して止まない可愛い弟の左腕を喰いちぎった不届き者を必ず誅するという固い意志と恨みとは違う純粋な殺意。
(例え左腕が新しく、寧ろ美しく生まれ変わったからと言って関係無い……。私は貴様を絶対に許さないっ!!)
ガーベラから放たれる凄まじい覇気と殺意が魔王へ伝わったのか、まだ未完成の口から低く怖気たような唸り声を上げて必死に牙を飛ばす。
無数の牙がガーベラに迫る。
その瞬間、ガーベラの竜剣は真紅に輝きながら抜刀される。
「《秘奥・龍閃》っ!!」
解き放たれた真紅の斬撃は扇状に広がり、降り注ぐ牙を灰塵と化しながら魔王に迫る。
飛来した斬撃を魔王が避ける事は叶わず、接触した斬撃はキグナスの岩の拘束とキャピタレウスの氷獄ごと切り裂き、魔王を両断する。
更に両断された切り口は斬撃と同色の真紅の炎を纏い、猛烈な勢いと速さで焼き焦がしていく。
バチバチと焼ける音と匂いを漂わせ、魔王はそのまま左右に別れて沼地に沈む。
沼の水を巻き上げながら倒れる魔王に纏わり付く炎は水を浴びても衰える事はなく、広がりながら再び魔王を焦がしていく。
そんな魔王の姿にガーベラは深く息を吐き呼吸を整え、携えた竜剣を鞘にしまう。
そして振り返り、背後から見守っていたクラウンに向かってまるで褒めて欲しそうにVサインを突き出しながら満面の笑みを見せる。
「まったく……姉さんは本当に強くて可愛いなぁ……」
そう微笑み返すクラウンだが、その目は未だ魔王を見て離さない。一切を油断していない。
「さて……」
クラウンはポケットディメンションを開き、二つの小瓶を取り出す。
一つは青色のポーション。ポーション職人であるリリー特製の特注品で、その効能は短い間ではあるが、自身の限界魔力量を一時的に増大させる超高級品。普通に買えば金貨が飛んで行く代物である。
この日の為にクラウンがリリーに交渉し、一本だけ譲って貰った一本である。
そしてもう一本。その色は、まるで血のように赤かった。
「すみませんリリー。約束を破りました。ですが今度は大丈夫です」
クラウンは二本のポーションを一気に呷る。
「味をちゃんと考えて作りましたから」
四人を引き連れ歩き出す、前線へと。
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