終章:忌じき欲望の末-11

 


 最初に襲い来るのは、根の槍衾やりぶすま


 太さ一メートルから五メートルはあろう根が数十。圧倒的な密度でって一斉にクラウン目掛け殺到した。


「……《蒼破──」


 クラウンはそれを鷹揚に迎えると燈狼とうろうに蒼炎を纏わせ、振り抜く。


「──断絶》っ!」


 その一振りで、複数本の鋼鉄よりも頑強である筈の根は炎上しながら両断。


 綺麗な断面は真っ黒く焼け焦げ、煙を上げる。


 だが、根はその一振りで片付きはしない。


「ぶっ潰れろォォォッッ!!」


 ユーリの怒号と共に第二陣、そして第三陣が迫る。


 だがそれを、クラウンは笑って迎えた。


「連なれ蒼炎──」


 再び燈狼とうろうを構え、振るう。


「──《蒼々火途そうそうかず》っ!!」


 振り払われた燈狼とうろうの刃から、蒼炎の刃が伸びる。


 刃は炎としての自由を有し、圧倒的な密度を誇る根の壁を縦横無尽に駆け巡って切り裂いた。


 ──バキンッ!!


「──ッ!」


 一息置いて聞こえたのは、クラウンの愛剣である燈狼とうろうの美しい刀身が半ばから折れた音。


 そう。進化を果たし、今までとは比ぶべくもない程に身体能力を発揮するクラウンに、燈狼とうろう自身が付いて来れなくなってしまったのだ。


「……すまないノーマン」


 目の前で宙を舞いながら落下していく燈狼とうろうの刀身を、《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》へ回収しながら切なく製作者であるノーマンへ謝罪する。


 この分では、恐らく他の武器達も下手に力加減を間違えれば破壊ないし破損は必至だろう。


 道極どうきょく爆巓はぜいただきのようなトールキンの素材が使われたならば保つだろうが、それ以前の物となると怪しい。


 使用を控えるならば壊れる事は無いだろうが──




『武器ってのはいつか壊れるモンだ。だから遠慮なく使い倒せっ! 壊れたら倍強くして直してやるからよぉっ!!』





 いつか言われたノーマンの言葉を思い出し、クラウンは切ない表情を改めて笑みを改めて浮かべる。


「お前達も成長の時……といったところか? 少し痛いだろうが、今は我慢してくれ。私の愛武器達相棒


 そう小さく呟くと、クラウンは両手に障蜘蛛さわりぐも間断あわいだちを取り出して握る。


「──おおっと、勿体無い」


 蒼く立ち上る炎の軌跡を残す瓦礫と化して落下する根に向かい、クラウンは片手間に魔術ポケットディメンションを複数発動。


 根を残らず回収していく。


「こんな機会でも無い限りトールキンの素材なぞ手に入らんからな。逃す手はない」


 そう笑って余す事なく根を回収しながらも足を止める事無く、ぽっかりと空いた根の壁を高速で走り抜ける。


「ぐ……ならァッ!」


 眉をひそめたユーリはそんながめついクラウンに対し腕を振るうと拳を握る。


 するとクラウンの後方──地面から数箇所に突如として亀裂が入り、そこから無数の根が再び彼目掛け強襲。


 加えて今度の根は耐久性が低いながらも先程よりより鋭く、そして機動力と柔軟性に優れた細いものの密集だった。


「これで──」


「マルガレンっ! ディズレーっ!」


「はいっ!!」

「おうっ!!」


 だがその根の襲来も、唐突にクラウンを庇う形で出現したマルガレンの大盾とディズレーの砂鉄による壁によって防がれ離散し、その矛先はあらぬ方向へ向いてしまう。


「──ッ!?」


「背後、頼むぞ?」


「お任せ下さいっ!!」


「なるべく早くなっ!?」


「な……なんでだッ!? 一体いつ──いや、そもそもアタシはなんで……」


 今、ユーリは驚愕と強烈な違和感を同時に感じていた。


 ──ユーリの敵は当然、クラウンだけではない。


 ロリーナや彼の部下達を一緒に相手をしなければならず、いくらクラウンが進化を果たし最警戒の対象だったとしても無視をすれば酷い痛手を被る事は必至だ。


 ユーリもそれは勿論理解していたし、クラウンが自分を見るまでは確かにそれを意識し潰すつもりでいた。


 しかし、ユーリはこの時その当たり前を


 マルガレン達をはじめとしたロリーナや部下達からの妨害とその排除──そもそもの彼等の存在自体を、彼女は何故か認識出来ないでいたのだ。


「ふふ……腐っても森聖種ハイエルフか」


 これはクラウンが進化した事で得たスキル──エクストラスキル《嫉視しっし》による「対象の認識を書き換える」権能を、マスタースキル《仙人眼》の「視界内の対象に別スキルの権能を及ぼす」権能とマスタースキル《万里眼》の「見たいものを見る」権能を併用する事で発動。


 ユーリの「クラウンの仲間」という認識を書き換えて削除し、彼女の認識と思考からロリーナ達を完全に眩ませているのだ。


「クソ……ふざけんなッ!!」


 一応、記憶ではなくあくまでも認識から消えているだけなので思い出す事が出来れば一時的に認識は復活する。


 だがそれは長くは続かず、違和感を残したまま再び認識から薄れていきその事すら実感出来ぬままに忘れ去る……。ユーリは最早、ロリーナ達の攻撃を防ぐ事すら出来ない。


「さあ、悠長に考えている暇は無いぞ」


 決して手放してはいけない違和感。しかしそればかりにかまけている余裕は今の彼女には無い。クラウンはその間も一歩とて歩みを止めていないのだから。


「──ッ!?」


 クラウンは地面を強く蹴るとそのまま跳躍。エクストラスキルの《浮遊》と《空中歩行》を同時発動して宙を駆け、真っ直ぐにユーリが座す霊樹拝礼の間に向かう。


「チィ……ッ!!」


 そんな彼の進路を妨害且つ撃ち落とす為、ユーリはその枝葉に数多の真っ赤な実を宿らせ、それをクラウンに降り注ぐ。


 ──トールキンが実らせる果実は、何も黄金の雌果ラウレリン白銀の雄果テルペリオンのような進化の至宝だけではない。


 森聖種ハイエルフとして進化し、エクストラスキル《植物隷属》とマスタースキル《植物支配》──そして世界唯一無二のスキルであるユニークスキル《霊樹の寵愛トールキン》によって自由自在にトールキンを操作出来る能力を得たユーリは、その枝葉に様々な果実を付けさせる事を可能とする。


 クラウンが進化中にヘリアーテ達を襲った爆発する果実もそれにより生成されたものであり、有する性質はユーリの魔力操作次第で変幻自在。


 今回クラウンに降り注いだのは……超高濃度の強酸性の果汁をもつ果実。


 触れればたちまち真っ黒な煙と吹きながらあらゆるものを溶かし尽くす、劇物中の劇物である。


 そして──


「これならどうだァッ!?」


「これは、また面倒な……」


 厄介なのは、その強酸だけではない。


 ユーリはその果実の大きさを可能な限り縮小化し、代わりにおびただしい程の数を実らせたのだ。


 サイズは大体サクランボ大程度。数は数万粒に及ぶだろう。


 加えて果実一粒の生成コストは比較的低く、生成された側から新たな実が成り、矢継ぎ早にクラウンを襲う。


 その一粒一粒が骨すら容易に溶解させる強酸性を有して降り注ぐぎ、例え何らかの手段で躱し切ろうと第二陣が間断かんだんなく迫る……。必中必殺と呼んでも過言ではない凶悪な死の雨と言えよう。


 ……だが。


「ティールっ! ロセッティっ!」


「ああっ!」

「は、はいっ!」


 クラウンの左右に現れたるわ、彼の現在唯一の友人であるティールと、両親の仇討ちを果たした復讐少女のロセッティ。


 二人は迷う事無く聖芸の指先チマブーエと杖を振るうと、空を覆わんとする数万の果実の半分を《色彩魔法》による浅葱色の彩色が果実の強酸をアルカリ性で中和し、《氷雪魔法》による広範囲凍結によってまとめて凍結させた。


「は、ハァッ!?」


 ユーリは思わず驚きに声を上げる。


 だがこれは決して果実による絨毯爆撃じゅうたんばくげきを防がれたからではない。


 その防いだ元凶──ティールとロセッティが突如としてクラウン襲う左右に出現し、完璧な状況把握と判断力を発揮した故だ。


「いつ……どこからどうやってッ!?」


 クラウンは今、スキルにより空中をその足で走っている。当然一人で、だ。


 他の部下達はクラウンのように《浮遊》も《空中歩行》も有しておらず、彼の後を追従する事など勿論不可能。


 そうでなくとも今のクラウンの脚力は凄まじく、追従どころか追い付く事もままならないだろう。


 そんな真似が出来るのは、己を雷電へと化せるヘリアーテぐらいだ。ティールとロセッティなど、到底追い付けない。


 それでも、彼等はクラウンの左右に現れた……。その意味するところは、一つしかない。


「《空間魔法》のテレポーテーションッ!? いや……こんなものはもうそんな次元の魔術じゃないッ!!」


 《空間魔法》のテレポーテーションは、自身の周囲の座標と転移先の座標を魔力を媒介にして書き換え、置換するという魔術。


 魔術を成立させるには前提として、自身と転移先の座標の記憶が必要となる。


 つまりテレポーテーションを発動するには移動中では成立しないのだ。


 しかも彼は自身や周囲を別座標へ置換するのではなく、この場には居なかった友人と部下を呼び寄せる形で転移させた……。


 最早それは、既存の魔術テレポーテーションの枠には収まらない別物。


 ただでさえ習得人口の少ない《空間魔法》術者でも真似出来ない、超常の御業……。


 クラウンはこれを《万里眼》を通して「視界内ならば遠距離でも魔術を行使可能になる」《魔人眼》を使い、《演算領域拡張》と《演算神域》による異次元の演算能力を併用する事で達成した。


 同じ魔術を使用した者は記録上一名……。世界に名を刻む前人未到、並ぶ者無しの初代最高位魔導師・テニエルのみである。


 その魔術の名を──


「 「量子の架け橋プランク・テレポーテーション」。私も歴史人の仲間入りかな?」


 一際憎たらしく笑うと、クラウンは障蜘蛛さわりぐもをロセッティへ、間断あわいだちをティールに向ける。


「遠慮するな。全開で頼むぞ」


「はいよッ!」

「はいッ!」


 するとティールは聖芸の指先チマブーエ間断あわいだちに振るい、その刀身により深く、より鮮やかで眩いばかりの空色を塗り込み、その刃に絶大な空間属性を。


 ロセッティは障蜘蛛さわりぐもへ自身が知るあらゆる猛毒、激毒を演算力・操作能力の限り出力し、膨大な病毒属性を《病毒魔法》によってそれぞれに付与した。


「極技二刀──」


 そしてクラウンは最高潮に属性力が高まった二刀を十字に構え、振るう。


「《元量断空》っ! 《害辛毒閃》っ!」


 間断あわいだちがその不可視の斬撃で空間を切り裂き、障蜘蛛さわりぐもおびただしい量の結晶化した毒を刃として飛ばし、上空の強酸果実をことごとく薙ぎ払う。


 切り裂かれた空間に存在していた果実はなんの抵抗もなく真っ二つに裂け、それ以外の周辺のものも開かれた空間の狭間が戻ろうとする力にてられ全てが飲み込まれ。


 想像を絶する猛毒の塊であった結晶の刃は結晶そのものは当然、その軌跡にすら果実を即時に腐食・蒸発させるだけの毒性を発揮し、氷に閉じ込められた果実を氷ごと次々と塵と化した。


 ──バキンッ、バリンッ!!


「ご苦労。暫く休みなさい」


 属性許容量を超えた上にクラウンの手で振るわれた障蜘蛛さわりぐも間断あわいだちが同時に破砕。その様子を愛おしそうに眺めながら《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》へと仕舞い込む。


「ぐ……ぐぅ……」


「なんだ? こんなもんか?」


「な、な゛あ゛ァめるな゛ァァァァッッ!!」


 煽られたユーリは更なる力をトールキンへ流し、新たな果実を枝葉に実らす。


 しかし今度は強酸性の果汁だけではない。


 《植物支配》の力を最大限に活用する事で作る事が出来るあらゆる要素を実らせた多種多様・千差万別の果実群を実らせて改めて降り注がせたのだ。


「さァッ!? 今度は対処し切れないだろォッ!?」


 超高温に超低温、劇物病原、多属性──それらが所狭しと再び空を覆い、三人に迫る。その一粒一粒に適切な対応をするなど不可能に近い所業だが……。


「ふふふ。必要あるまい?」


「あ゛ァッ!?」


「煽り甲斐がある。想定通りだっ!」


 至極嬉しそうに叫ぶとクラウンはポケットディメンションを発動。果実を落下する側から漆黒の空間へと格納していく。


「なァッ!?」


「学ばないなぁユーリ? こんな貴重な物、むざむざ潰すわけなかろうが?」


 トールキンが生み出す果実は、言うまでもなくただの果実ではない。


 その一粒一粒が微量ではあるがトールキン由来の波長の魔力と霊力が宿っており、薬学や科学的な価値は計り知れず、物によっては武器や防具の性能にすら影響する。


 ユーリ次第で内容は変質するだろうが、今回ユーリが生み出したのは「クラウンを殺す事」を目的として実らせた破格の性質を有する。考えられる限り最大の効能の果実となっていた。


 これ以上無い、希少素材と言えよう。


 クラウンはこれを回収する為に、わざわざ強酸性の果実を蹴散らして見せ、ユーリに多様な性質の果実を作らせるよう誘導したのだ。


「ティール、ロセッティ。君達はここで頼んだぞ」


 クラウンは中空に《重力魔法》によって浮かせた《地魔法》による大地を浮かせ、それに二人を立たせる。


「おうっ!」

「はいっ!」


「良い返事だ」


 クラウンは上空に向き直ると尚も降る果実を回収しながら駆け上がり、改めてユーリの元を目指す。


「チッ! クソがッッ!!」


「そんな気を遣うなよ? 嬉しくて思わず愛を叫びそうだっ!」


「気ッッ色悪ィィんだよゴミがァァッッ!!」


 ユーリは思い通りにならぬよう果実の生成を止め、次の手段に出る。


「……ほぉう」


 クラウンの目の前には、鮮やかに咲き誇る大輪の花。


 霊樹トールキンの黄金色の葉を引き立てるような美しい程の〝純白〟。反転、黄金の光をその五枚の花弁に浴びる事で周囲にその輝きを反射し、さながら自身が主役だと高らかに宣言するように存在感を放つ……。そんな絢爛な花だ。


 それが枝葉に果実の代わりとばかりにクラウンの視界一杯に咲き乱れ始めた。


「ふふふ。こんな状況でなければ花見にでも興じたい美しさだな」


「いつまでそうしてられるか見ものだなァァッッ!?」


「む?」


 一面真っ白な花達はその身を僅かに震わす。


 それによって雄しべが揺れ動き、可視化出来る程の密度で大量の花粉が舞い上がる。


「……アレルギーであったなら卒倒してしまいそうな光景だな」


 既に常人では視界不良に陥る程の濃密な花粉の雪崩れ。浴びればたちまち花粉が体内に蔓延まんえんし、疾病しっぺい以前に呼吸困難に陥ってしまうだろう。


 だがこの花粉は、そんな生優しい殺し方をしてはくれない。


「──っ! また面倒なものを……」


 クラウンは花粉を試すように触れる。


 すると徐々にだが、自身の身体能力が僅かずつ低下していくのを感じ、一挙手一投足で消費する体力、魔力の量が増しているのも感じ取った。


 加えて体外に魔力を展開しようとすると、花粉に干渉するせいかすぐさま魔力が散ってしまい、操作どころではなくなる。魔力版のチャフのような役割をしていた。


 今はクラウンの操作能力で無理矢理浮遊と《空中歩行》を使って落下してはいないが、このままではただでさえ目減りしていく魔力を最低最悪の効率で消費し続ける事になる。


「魔力が使えなきゃァ、テメェも少しは殺しやすくなるだろッッ!?」


「……」


「さァッ!! アタシの前で無様に──」


「だから、甘いんだよお前は」


 クラウンの低い声が響いた直後、再び彼の左右に人影が現出する。


 量子の架け橋プランク・テレポーテーションによって呼び出されたのは、グラッドとヘリアーテの二人だ。


「なッ!? ま、ほう……なんでッ!? ──ッ!?」


 ユーリはその進化したまなこでクラウンを見遣る。


 すると彼の身体……そのあちこちに不気味にも〝口〟が開いていたのだ。


 そしてその口がクラウンの周囲に展開していた筈の花粉の嵐を、その影響範囲を削っていた。


 ──クラウンの身体に生じた無数の口は、進化によって新たに覚醒した《暴食》の内包スキルが一つ、エクストラスキル《多食》の権能。


 その能力は見た通り「身体の好きな所に好きなだけ口を生じさせる」というもの。


 そして同じく新たに目覚めた《大食》の権能である「周囲の特定のものを口へ吸い込む」権能と併用する事で大量の花粉を吸い込み、魔力の減衰を元より絶ってしまっているのだ。


「それ……それはなんだッ!? 何なんだテメェはァッッ!?」


「む? ……あぁ、そうか。お前はまだ知らなかったな。そう言えば」


「な、なにを……」


「教えんよ。私はそこまで残酷じゃあない」


 ユーリは未だに知らない。


 クラウンがそもそも「強欲の魔王」であり、「暴食の魔王」であり。


 更に最早「嫉妬の魔王」でもある、というこの上無い残酷な現実を体現した存在である事を……。


「知らぬままでいい。どうせお前は、私の思い通りのエルフになるだけなのだからな」


 クラウンは周囲の花粉をあらかた平らげると黒霆くろいなずま拝凛はいりんを取り出し、左右のヘリアーテとグラッドに掲げる。


「全力だ」


「分かってるわよッ!」

「オッケーボスッ!!」


 二人はそれぞれの武器──ヘリアーテは己が魔力の限界近くまで出力した《雷電魔法》による数億ボルトにのぼる電気を黒霆くろいなずまに。


 グラッドは拝凛はいりんから生じる冷気を《嵐魔法》によって収束する事で極限まで圧縮し、触れただけで瞬く間に凍り付くような凛烈りんれつの冷気へと昇華させ、拝凛はいりんへ還元した。


「完璧だっ!」


 そして強化された二振りの武器を二振りとも頭上に掲げ──


「極技二刀──」


 そのまま一気に振り下ろす。


「《極雷開閃》ッ! 《凛凌凍断》ッ!」


 眩いばかりのトールキンの黄金の光を更に強い雷光で斬り裂くように雷の斬撃が走り、暖かみがある光の温もりを一瞬で薙ぎ払うようにして身を刺すような極寒の冷気の刃が飛ぶ。


 辺りに未だ残る花粉はそのことごとくが雷光と極冷によって霧散。火花のような鮮烈な光とダイヤモンドダストのような幻想的な光の二重奏でもって周囲を鮮やかに彩り、純白の花々は散る。


 ──ペキンッ! バゴンッ!


「素晴らしい働きだ。そう長くは待たせんよ」


 刃が折れ、砕けた黒霆くろいなずま拝凛はいりんに礼を口にしながら二振りを《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》へ仕舞い、クラウンは背後の部下二人へ目を向ける。


「上々だ二人共。では残りの花は頼んだぞ。回収も忘れるな?」


「はぁっ!? ちょ、待ちなさ──」


「ハイハーイ。いってらっしゃいボスーっ!」


 浮かせた《地魔法》の地面に二人を残し、クラウンは更に上空へ駆け上がる。


「ぬゥ……あ゛、あ゛ァァァァッッ!!」


「そう情け無く叫ぶなよユーリ。今──」


 そして──


「──ッッ!?」


「会いに来てやったぞ。このお転婆めが」


 再び、二人は邂逅かいこうを果たした。

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