第一章:精霊の導きのままに-12

「あうっ!?」


 私はミルトニアに痛みを感じない程度の手刀を頭に食らわす。声を上げたのはいきなりなんの前触れもなく私がそれを見舞い面食らっての事だろう。故に私は構わず言葉を続ける。


「一から十まで説明して貰おうか?」


「で、ですがお兄様!」


「ミルトニア?」


「うぅ……」


 私がミルトニアを「ミル」ではなく「ミルトニア」と呼ぶ時は基本、私が真剣な話をしているという風に叩き込んでいる。意図的にそういう緩急を付けて私に対する態度にメリハリを付けているのだが、コレが割と効果的だったりする。


「ぼ、坊ちゃん、少しよろしいですか?」


 するとマルガレンが不安気な表情でこちらに何かを伺って来た。私としてはいち早くミルトニアから事情を聞きたいところだが、まあ、良いだろう。


「どうした?」


「どうした、というか……。あれ、大丈夫なんでしょうか?」


「あれ?」


 マルガレンが指した方向に目をやると、そこには獰猛な顔を称えたままこちらを睨み付ける複数の狼が居た。


 それにしても、狼にしては纏っている空気や雰囲気がオカシイ。狼という森に不相応な点も気になるが、どう考えても普通の狼ではない。恐らくは魔物化した別物だ。


「確かに少し心配だが、この光の中には入って来られないみたいだな。なんならここから攻撃してみるか?」


「御冗談を……。もしそれで逆上して来たら……」


「そうだな。だから取り敢えずは放っておくしかない。諦めて帰ってくれれば良いが……。まあ、状況次第だな。見張っておいてくれ」


「え!? あ、はい」


 そうしてマルガレンは後ろを振り返り、地面に腰を下ろして狼を見張り始める。


 私はそれを確認すると再びミルトニアの方へ振り向き、正座しているミルトニアに目線を合わせるように私も腰を下ろす。


「さあ、ミルトニア。話して貰おうか」


「え、えぇと……」


「先に言っておくが嘘を吐いてもマルガレンに見て貰うからな? 私はそこまで甘くはないぞ?」


「は、はい……」


 そう言うとミルトニアは自分の周りを重力を無視して浮遊している複数の発光体に視線を送る。するといくつかの発光体達はそれを認識したのか次々とミルトニアの手の平に集まって行く。そうしていくつもの発光体が重なり、一層大きな、色鮮やかな一つの発光体となった。


「…………これは?」


『はじめまして』


 !?…………。今、頭に直接知らない声が……。


 私は思わずマルガレンの方へ振り返ると、マルガレンも驚いたのか私の方を見て目を見開いている。


 その声音は流麗な澄んだ女性的な響きを持っており、聴いているだけで癒されてしまう様な心地良さすらあった。


 だからだろうか。その突然に頭に来た声に対し、不快感を感じずには済んでいる。


『ああ、申し訳ありません。驚かせてしまいました』


 再び視線をミルトニアの方、厳密にはミルトニアが抱える大きめな発光体に向ける。


 恐らくは、この発光体が喋っているのだろう。いや、〝喋って〟いるかは分からないが、兎も角この発光体が語り掛けて来ている。一体なんなんだ……。


『まずは一つ、謝罪をさせて下さい。貴方の妹、ミルトニアをこの場所に誘ったのは私達なのです。勝手をしてしまい、申し訳ありません』


「…………ほう」


 コイツがミルトニアを誘った?こんな森深くに一人を?


『理由をご説明します。ですからどうか、どうかミルトニアを叱らないで上げて下さい』


 …………ここだけ聞けば悪い奴ではなさそうだが……。


「…………聞くだけ聞こう。だがミルトニアを叱るか叱らないかは私が判断する。いいな?」


『はい……。ではまず──』


 発光体がそう言うと、そのままミルトニア頭くらいまで上昇し、その発光色を様々に変化させて行く。すると今度は未だに周りに漂っていたままだった小さな発光体達がそれぞれ三箇所に集まり、最初のよりも一回り小さな発光体が三つ出来上がった。


『改めまして……。私達はあなた方で言う所の〝精霊〟と呼ばれている存在です』


 精霊……精霊だと? こんな所に?


「精霊……というのはあの、この世界各地にコロニー単位で顕現しているという、あの精霊か?」


『大雑把に言ってしまえば、間違いではありません』


 精霊……という事はだ……。ミルトニアがこんな森深くに誘われた理由というのは……。


「まさか、ミルトニアが首に下げている「精霊の涙」が関係しているのか?」


 そう、ミルトニアの首には七年前私がミルトニアが産まれる前に母上に御守りとして渡したペンダントに加工された「精霊の涙」が下がっている。


『左様です。その首元にある「精霊の涙」が私達がミルトニアをここへ招いた理由です』


 やはりか……。元々は私がスーベルクの屋敷から精霊に関して何かヒントにならないかと持ち出したモノだが、まさかこんな事に発展するとは……。


『クラウン様!!』


「──っ! ……何故私の名前を……」


『ミルトニアから聞きました……。貴方様がこの「精霊の涙」を…………〝息子〟を助けて下さったのだと!!』


 …………息子?

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