第八章:第二次人森戦争・前編-13
「……よし」
《遠隔視覚》を使い、ムスカからの視点を定期的に覗いていた私は、グラッド達が見事ノルドールを負かし捕縛し得た事を確認した。
概ね彼等が企て、仕込んだものが万全にノルドールに作用したようで、予定通りの結果に落ち着いた事に私は安堵し、それと同時にこの上無い喜びが内から湧いて来る。
特に大きな怪我も無くグラッド達は見事に格上であるノルドールを征し、その結果新たなスキルの習得だけではなく様々な面で彼等は成長した。
グラッドが開発した新薬によってアカツキトバリの新たな可能性にも一筋の光が見出され、彼の言っていたように吽全の根絶の足掛かりになる可能性が見出されたと言って良いだろう。
その上ノルドールのスキルや武器、私の説得次第ではその魂すら手中に収める事が出来る。
これを喜ばずしてなんとするかっ!!
「く、クラウン君っ!? 余裕なのは大変頼もしい限りだがもう少しコチラに集中してくれても良いのではないかなっ!?」
……チッ。騒々しい奴だ。
「お前二番隊隊長だろう? その程度の敵くらい捌き切れんのか?」
私達は国王陛下の号令の元前線から一斉に駆け出し、敵陣地に突撃……というわけではない。
というのも私達が駐屯していた前線拠点からエルフの軍が駐屯している拠点までにはかなりの距離がある。
ティリーザラ王国本陣からアールヴとの国境となる森の境界線。その距離を移動するのにそれこそ馬を利用し全力で走らせ続けたとしても約一週間強は掛かってしまう。
歩兵を伴い移動しようものならば倍の二週間強……それほどまでに私達の戦場としている平野は広大なのだ。
と言ってもそれはあくまで国境までの話。《万象魔法》で前線侵攻部隊のエルフ達を掃討したとはいえ奴等だって手を
……だが、それはあのまま杓子定規で一般的な進軍を行った場合の話である。
傲慢な言い方にはなるが、魔法先進国ティリーザラ王国にはそう、〝私〟が居るのだ。
わざわざ数日一週間と時間を掛けて進軍し私達の体力精神力を消耗し、尚且つ国王陛下の号令演説で高まっている兵達の士気を萎えさせてしまうのは惜しいし、余りにも馬鹿馬鹿しい。
そんなものにわざわざ付き合ってやる必要などない。
そう、私が《空間魔法》を使い、敵陣の目の前に〝部隊ごとテレポーテーションで転移してしまえば良い〟のだ。
つまり私達は国王陛下の号令後、すぐさまテレポーテーションで目的地点へ転移し、一切準備の整っていないエルフ拠点へと攻め込んだワケである。
「そうはっ! 言うけどねっ! 君ぃっ!!」
ファーストワンは襲い来るエルフの兵士達を何とか捌きながら文句を垂れ続け、まだまだ来る彼等を横目にウンザリしたように眉を
「この数っ! 流石にっ! ちょっとキツいってっ!!」
「……はぁ。ったく」
本当はもうじき連絡して来るだろうヘリアーテ達を待っておきたかったんだがな。時間もそう掛けてはいられないか。
少し彼の声音に切実さが滲んで来たのを耳にし、私は仕方なく《
そして《透明化》等の隠密系スキルを全て解除すると、私の存在に漸く気が付いたエルフ兵士達が若干混乱しながらも私に向かって剣や槍、弓矢を構えた。
「タイミングを見て抜けろファーストワン。後は私が全て受け持つ」
「はぁっ!? ぜ、全部かいっ!?」
「良いから言う通りにしなさいっ。今からそんな息を切らされては肝心な時に役に立たなくなるだろ」
まあ、コイツの肝心な時なんて死なない程度に盾役になって貰うくらいだがな。
「そ、そうかい。了解したっ!」
そう虚勢混じりの威勢で返事をすると、ファーストワンは兵士の一人の剣を「
そして手ぶらになってしまい慌てる兵士の首根っこを引っ掴むと、他の兵士達に向かってその兵士を蹴り飛ばし、その隙を利用して物陰へと引っ込んで行った。
ふむ。貴族で隊長の割には冷静に自力を把握して素直に私の言葉には従うし、退く際に見せた剣技や型に嵌まらない動きも決して悪いものではない。
隊長という立場になったのに納得出来るだけの実力はあるにはあるが……。やはり性格や言動のせいだろうか。何処か頼りない──
「『ふんっ!』」
ファーストワンの背中を見ながら奴について考えていると、そんな私に兵士の一人が剣を振るい、刃が私に当たって甲高い金属音が鳴り響く。
「ほう。流石はノーマン作の
「『な、何を言って……』」
「『ああすまない。こっちの話だ。……で? 転生神に祈りは済んだか?』」
「『は──』」
無造作に横薙ぎに振るった
数秒して
「『──っ!?』」
仲間の死にエルフ兵士達の間に動揺の空気が立ち込め始める中、私は敢えて彼等に満面の笑みを浮かべて見せる。
「『さあ諸君。私の記憶に残るように、精々頑張ってみなさい』」
そこからは最早、ただの蹂躙だ。
エルフ兵士二人が同時に左右から剣を振るって来るのを
突然の事に驚愕する二人のエルフ兵士は即座に剣から手を離そうとするが既に遅く、二人の手も凍結に巻き込まれ、そこから瞬く間に全身が氷像と化す。
その様子を見ていた二人の槍兵は焦りながら、槍からは届くが
「良い反応だ。だが浅い」
私は後退した二人の槍兵へ
本来の間合いより遥かに広くなった
「『──っ!?』」
「『何やってんだっ! 早く矢を放てっ! 頭を狙うんだっ!!』」
そう物見櫓で騒ぎ弓弦を引き絞る三人の弓兵エルフを横目にし、
そして地面へと刃が食い込んだ瞬間、氷刃から物見櫓に向かって一直線に地面が凍結して行き、物見櫓まで到達すると足元から頂上に向けて凍結が急速に進行。
その光景に顔面を蒼白に染めたエルフ弓兵達は成す術なく氷結に巻き込まれて行き、新たに三つの氷像が作られる。
「『どうした。こんなものか? お前達の五十年は随分と薄っぺらいんだな?』」
私がそう挑発してみせると、今度はカイトシールドを構えながらエルフ盾兵がこちらに向かって突進。
恐らく動き続ける事で氷結される前に私に打撃を与えようという魂胆なのだろうが、私の手札は氷だけではない。
再び《
「『なっ!?』」
宙へと身体を投げ出し、突進しながら私の行動に呆気に取られるエルフ盾兵達の上空を飛び越え、宙で身体を捻りながらガラ空きのままの盾兵達の背中へ
すると私が着地したタイミングで物陰に隠れて機を伺っていたエルフ兵士が飛び出し、私の左右から剣を振り被って来る。
私はその振り下ろされる剣を
引っ張られてバランスを崩した左右のエルフ兵士を、私自身の身体を軸にして更に回転させた
「『ゔぉぉぉぉッ!!』」
「『全員で掛かれぇぇぇぇッ!!』」
そんな叫び声に顔を上げると、目の前には身体がゴツく分厚い鎧を着込んだ重戦士エルフが五人がかりで斧や大剣を振り被っていた。
普通であればそのまま振り下ろしてしまうと武器同士がぶつかり合ってしまうが、数打てば当たるとでも考えているのだろう。まったく──
「『もう少し頭を使ったらどうだ?』」
重戦士エルフが武器を振り下ろした瞬間、私は彼等の懐へと手を伸ばし魔力を手へ集中。《炎魔法》と《光魔法》の複合魔法である《爆撃魔法》を発動し、手の平にソフトボール大の球体を作り出す。
「畏れよ爆熱、炸裂の雫。「ボム・ディフュージョン」っ!」
瞬間爆熱の球体は光を放ち爆発。凄まじい爆風と爆音が炸発し、私と重戦士エルフ達をも巻き込んで黒煙が舞い上がる。
「『ぐぁぁぁぁぁっっ!!』」
「『がぁっっ……!!』」
「『ゴホッ、ガハッ!!』」
唸り声と共に鎧が擦れぶつかる音が鳴り、重戦士エルフ達が苦しみながら黒煙から逃れようと後退。
しかし、その黒煙は彼等に纏わりついて中々離れず、五人は絶えず咳き込み荒く浅い呼吸しか出来ずにいる。
そんな彼等に私は──
「『その黒煙から重力を奪っておいた。逃れるのは中々難しいぞ』」
重戦士エルフ達の背中側へとテレポーテーションで転移し、《
「『今、楽にしてやろう』」
鎧がひしゃげる嫌な音を耳にした残りの三人が黒煙をがむしゃらに払い除け、やっとの思いでまともな視界と呼吸を確保するが、既に手遅れ。
横薙いだ
「『っっ!?』」
「『っっ!?』」
自分達の頭上に迫る
「『そんなもので
超重力を纏い数十倍にまで増した
「『ひぃぃっ!?』」
噴き出す血飛沫と脳漿が変化した重力下で宙に浮遊する中、四人の仲間の形容し難い末路に思わず悲鳴を漏らした最後の重戦士エルフは後退りし、ガシャガシャと怯えて鎧を震わせる。
「『た、たた、助け……』」
「『無理な相談だな』」
「『お前がこんな状況でも震えず立ち向かって来るような剛勇だったなら、少しは考えたんだがな。残念だ』」
「『う、うわぁああっ!!』」
彼は私に慈悲は無いと悟ると
「『へっ!? へぇっ!?』」
「『《重力魔法》の魔術「レビテーション」。お前の足元から重力を奪った』」
宙に浮き、どうする事も出来ず
「『恨むなら好きにしなさい。これが私の仕事だ』」
「『あぁ……あ゛あ゛ぁぁぁぁぁッッ!!』」
慟哭が響く中、
「『……ん?』」
さて次は誰が、と少し身構えていたが誰も掛かって来ず。軽く辺りを見回してみると、集まって来ていたエルフ兵士達が構えながらコチラを遠目に警戒し、いつまでも掛かって来ないでいた。
「『……はぁ。っと、待て待て』」
《
すると空中で
「『言っておくが伝令兵だろうが誰だろうが一人とて逃す気はない。まあ投降すると言うなら別だがな』」
手元へと
「『最初で最後の勧告だ。今すぐ投降すると言うならば武器を捨てろ。それ以外の言動は一切受け付けんし交渉にも応じん』」
そう口にしながら私はエクストラスキル《掌握》を発動。既に無意識の内に敗北を受け入れているエルフ兵士は先程の降伏勧告を受け互いの顔を見返し、構えを崩していく。
が、そこに──
「『何を弱腰になっとるか貴様等ッッ!!』」
拠点の奥。
そんな彼の登場にその場に居た数十人のエルフ達に動揺が走ると、それを見た隊長らしきエルフは嘆息を漏らす。
「『貴様等にエルフ族としての誇りもプライドも無いのかッ!? 誇り高きエルフ族の勇士ならばッ!! 刺し違えてでも怨敵を討ち取らんかッ!!』」
見事なまでのパワハラ発言に部下であるエルフ兵士達は複雑な表情を露わにし、隊長らしきエルフはそんな彼等の反応を見て眉間に皺を寄せ、額に青筋を立てる。
「『ええい軟弱者共めぇっ!! 後でみっちり鍛え直してやるから覚悟しておけっ!!』」
怒号を叫び、忌々し気に私に視線を向けるとその両手に握る手斧の片方を私に突き付け、鼻を鳴らす。
「『フンッ。少し腕が立つからと調子に乗るな人族風情が。今から貴様を、この第三副軍団長ウーマンヤール・マント・レリシューズが討ち取ってやろうぞッ!!』」
……はあ。名前が長いなまったく。
それにしても……。
《解析鑑定》、発動。ウーマンヤールのスキルを
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人物名:ウーマンヤール・マント・レリシューズ
種族:エルフ族
年齢:三百十四歳
状態:健康、
役職:アールヴ森精皇国第三副軍団長
所持スキル
魔法系:《炎魔法》《地魔法》《溶岩魔法》
技術系:《剣術・初》《手斧術・初》《手斧術・熟》《手斧術・極》《弓術・初》《弓術・熟》《体術・初》《投擲術・初》《投擲術・熟》《小盾術・初》《小盾術・熟》《栽培術・初》《栽培術・熟》《手芸術・初》《手芸術・熟》《騎乗術・初》《
補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《魔力補正・I》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《防御補正・I》《防御補正・II》《集中補正・I》《集中補正・II》《命中補正・I》《命中補正・II》《器用補正・I》《器用補正・II》《器用補正・III》《環境補正・森林》《環境補正・樹上》《斬撃強化》《打撃強化》《衝撃強化》《筋力強化》《腕力強化》《握力強化》《剣速強化》《集中力強化》《持久力強化》《瞬発力強化》《視覚強化》《聴覚強化》《触覚強化》《反射神経強化》《動体視力強化》《体幹強化》《統率力強化》《想像力強化》《独創性強化》《表現力強化》《高速演算》《魔力精密操作》《気配感知》《動体感知》《危機感知》《弱点看破》《戦力看破》《趣向看破》《鼓舞》《教育》《威圧》《戦意》《気迫》《炎熱耐性・小》《炎熱耐性・中》《痛覚耐性・小》《痛覚耐性・中》《疲労耐性・小》《疲労耐性・中》《気絶耐性・小》《混乱耐性・小》《恐慌耐性・小》《品質鑑定》《物品鑑定》
概要:森精皇国アールヴで第三副軍団長を務める男エルフ。
アールヴ屈指の名家レリシューズ家の現当主。威圧的で気位が高く、自身よりも劣る地位と力量の持ち主相手には高圧的な態度で接し、特に自身の部下達にはかなり厳しく当たる事が多々ある。
しかし優しい一面もあり。尊敬に値する同僚や上司、権利者や妻子には穏やかに接し、誕生日などの祝い事には自身が趣味としている手芸による作品達をプレゼントする側面も見られる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ほほう。これはこれは……ふふふふふふ。
第三副軍団長なだけあってスキルも豊富……。特に手斧術や手芸術のスキルには大変興味が唆られる。
何としてでも徹底的に負かし、スキルと武器を丸ごと頂きたいものだなぁ。ふふふふふふ。
「『貴様……何を笑っている』」
「『ん? ああいや、美味しそうなご馳走を前にしているんだ。自然と笑みも溢れるだろう?』」
「『なに?』」
「『いやいや気にするな。……それにしても──』」
私は《
「『〝蟷螂が斧を以て隆車に向かう〟とは正にこの事……。虫は虫らしく、私のコレクションにでも収まっていなさい』」
「『……』」
ウーマンヤールは無言のまま鬼の形相を表すと蜘蛛から降り、両手の手斧をコチラに構える。
さて……。戦争一発目、最初の獲物……。ふふふふふふ。
嗚呼。楽しくて気が狂いそうだっ!!
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