第七章:事後処理-5
今私は父上の書斎の扉の前に漸く到着した。
しかしいやはや、時間が掛かってしまった。魔間欠過剰排出症の反動で体を動かし辛いのもあるが、何より道中で丁度剣術学校から帰宅した姉さんに見付かり、捕まっていた。
姉さんは私を見るや否やわなわなと肩を震わせその金色の大きな瞳に涙を湛えながら全力で私を抱きしめて来た。
魔法で骨折やらの重大な怪我は完治していた私の身体だが、無理に身体を動かした弊害である激しい筋肉痛や打撲なんかは治りきっていない。そんな状態で姉さんに抱きしめられたもんだから一瞬痛みで意識が飛び掛けたりした。
その後姉さんになんとか今の自分の身体の具合を伝え、一つ姉さんに謝られた後、メタクソに怒られた。
その年で何故そこまで無理をするのだと、無謀にも程があると、もっと自身の力量を知れと、そして最後にたまには姉さんに頼れと言われ、ぐうの音も出なかった。
確かにあの時の私は考えが甘かった。自身の体調管理も出来ないでいたのにあんな作戦に臨むなど確かに無謀だった。この世界に転生し、私は知らず内に増長していたのだろう。本当に情けない限りだ。
その後は姉さんに私が戦ったキグナスとかいう大男の事を話を聞かせると「よく退けたな……」と驚かれた。その反応を見て父上が詳しい話をしていないのを察し、とある思い付きをする。そして今後の訓練もよろしくお願いして漸く解放してくれた。
それから別の場所に一旦立ち寄り、私は父上の書斎に辿り着いた、わけなのだが。
書斎からは何故か父上が誰かと会話をする声が漏れて聞こえている。
すれ違ったメイドに今は父上は一人で書斎に居るのを聞いていたので来客を接待しているのは考え辛い。ならば侵入者に襲われているかと言われると、違うだろう。聞こえてくる内容は判然としないが、その声音は落ち着いており緊迫感は伝わって来ない。
まあ、ここで考えていても仕方ない。手元にナイフがないのが若干心許ないが、警戒だけして思い切って中に入ろう。
そうしてノックをしてから返事を待たずドアノブを捻り扉を開けると、丁度父上が手に持っていた何かを机の引き出しに仕舞うところであり、私に気付いた父上はその手を誤魔化す様に適当に泳がす。
「お、おおクラウン! 返事くらい待たぬか、驚いたぞ」
「すみませんつい……」
「それより大丈夫か?もう起きても」
「……はい、お陰様で。まだ本調子には程遠いですが……」
「何?それならばもう暫く休んでいなさい。無理をするな」
そう私を窘める父上だが、私としては余り娯楽がない今世で大人しくしているというのは少々退屈なわけで、何か暇潰しになる物があればいいのだが……。その前に──
「そうですね。ところで父上、先程姉さんに出くわしたのですが、今回の詳細を知らせていなかったのですか?」
「ん? そりゃそうだろう? ガーベラに限らず、母さんにも話してはいない。余計な心配などさせたくはないからな」
「そうですか。そうですか……」
私は今どんな表情をしているだろう?
多分なんとも言えない顔だろうな。色んな感情が入り混じった、そんな顔。その証拠に父上が私の顔を見て不思議そうに頭に疑問符を浮かべているのが見て取れる。
そうそう、私が書斎に遅れたのにはもう一つ理由があったりする。姉さんに捕まった後に一旦立ち寄った場所がそれなのだが、そこでもまあ、怒られに怒られた。何故ならば──
そんなことを考えていると、私の後ろ、書斎の扉をノックする音が耳に届く。そして父上の返事を待たずに開け放たれると、そこに立っていたのは紛れもない母上だった。
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