序章:割と賑やかな日常-9

 今度は私の方から攻勢を掛ける。ファーストワンとの距離を詰め、袈裟懸けに赤熱したブロードソードを振るう。


 それを見たファーストワンは当然とばかりに私の一撃を受け止める。しかし、私のまだギリギリ効果時間が残っている《強力化パワー》で上乗せされた筋力に若干押され気味になり、彼は困惑の表情を浮かべる。


 そして先程からの攻防により疲弊していたファーストワンにはそこから押し返すだけの余力がもう残っていないようでジリジリと腰を沈めて追い込まれる。


 すると分が悪いと察したファーストワンは再びその剣から《疾風》による風を巻き起こし、その勢いを利用して押し返そうとした。


 よし、掛かったな。


 そしてそこで風が巻き起こった瞬間、迎え打っている私のブロードソードに纏う炎がより一層燃え上がり、その熱がファーストワンへ襲い掛かる。


 思わず顔をしかめるファーストワン。そして少し及び腰になったのを見計らい、私は体重を更に乗せる。


 炎はファーストワンの剣から発生する風で更に勢いを増し、眼前にまで炎が迫る。


 最早体勢を立て直す事すら厳しいファーストワンに私は《威圧》を発動させ追い討ちをかける。


 炎越しにファーストワンの顔は苦悶に歪んで行き、涙目を浮かべ小さく呻き声を上げ始める。


 さあファーストワン。このままじゃ御自慢のイケメンが火傷だらけの傷物になるぞ?


 このままプライドを優先して顔面や身体に火傷を負いながら試合を続けるか、それとも無様に負けを宣言して火傷を阻止するか、さあ! 選べ!! 


「──わ、わかった!!」


「わかった? 何がだ? ハッキリ答えろ。」


「こ、こうさ、降参だ!! 降参する!! もう止めてくれ!!」


 情け無い声でそう叫ぶファーストワン。その声は周りに集まる観客にも届かんばかりに大きく、それを耳にした観客達は困惑しざわつき出す。


 私はそれを確認するとブロードソードに纏わせていた炎を消し、ファーストワンから剣を退ける。


 私からの重圧が無くなったファーストワンはその場で地面に座り込み、息を荒げる。そして自分に集まる視線に気付き、そんな視線を向けて来る観客を見回す。


 そして何かを察したのか顔を青く染め、その顔が見えない様にうつ伏せになる。


 ふぅ、取り敢えずは、こんなもんかな? ん?


 ふと、私は持っていた今は真っ黒に焦げ付いてしまったブロードソードへと目を移す。するとブロードソードはその根元からボッキリと折れ、その焦げ付いた刀身が地面に落ちる。


 ふむ、やはり耐えられなかったか。しかし危なかったな。もう少し粘られていたらこっちの剣が駄目になっていた。いやホント、危ない危ない。


 私は折れてしまった刀身を拾い上げて眺めてみる。うん、見事に真っ黒だ。炎としての再現度を限界まで高めた甲斐があったという物。


 実の所、何気なく使ったこの炎を纏わせる魔法には結構神経を使っている。


 前にも説明した通り、この世界の魔法というのは大雑把に言えば〝魔力を用いた現象の再現〟だ。決して自然現象を操る物ではない。


 例えば自然現象の炎の様に、点火源を用意し、それが気化や分解を経て燃焼をするといった過程が必要になる訳だが、魔法の場合は大きく違う。


 魔力を材料に炎を構成する要素を一つ一つ手ずから作り上げる必要がある。


 大きさ、熱、燃焼、酸化、色、それら炎に必要な要素を複数再現して初めて《炎魔法》に辿り着く。


 そして今回、私はちょっとした実験も兼ねてその再現度を限界まで高めて見た。その結果がこの焦げ付いた刀身である。


 実験的には成功。あの剣、あの戦闘を経たとはいえ炎で新品のブロードソードをこれだけボロボロに出来たのだ。これも《魔力精密操作》や《演算処理効率化》なんかが役に立ってくれたお陰である。


 しかしまあ──


 私はそれからファーストワンが持っていた今は無残に地面に転がされている「疾風鷹の剣ゲイルキャリバー」に目を移し、近付く。そして未だに蹲っているファーストワンを尻目にその剣を拾い上げる。


 羨ましくない、と言えば嘘になる。私が炎を纏わせていたとはいえ、たった一回剣を交えただけで新品のブロードソードを駄目にしたこの剣。私もいつかはこの剣の様な、いや、それ以上の武器を手に入れたい。だが、その前に──


 私は「疾風鷹の剣」を眺めるフリをしながら


 スキルアイテムからのスキル習得は難易度が高い。それも内包されているスキルが三つとなるとその難易度は冗談みたいに跳ね上がる。現に私が魔力を注いだ瞬間、内包されたスキルとの魔力の繋がりが途切れ、スキルが無残にも魔力として霧散し始める。


 元より最初の一回で習得など期待していない。それもこんな大量の人の目がある場所で怪しまれない様に剣を物珍しく気に見ながらなんて話にならない。


 だが、私には《強欲》がある。


 そうして早速強欲を発動。魔力を大量に追加で注ぎ込み、剣に内包された三つのスキルを奪い去る。


 七年前に比べ、今の私の保有魔力量は段違いに増えている。あの時ならば神経を集中させなければ厳しかったこの作業も《魔力精密操作》などの恩恵で最早多少余所見した程度では失敗しない。さあ、私に還元されろ、スキル共。


 すると私の中に、強い力の塊が流れ込んで来る。それは吹き荒ぶ風のように荒々しく、捉えどころのない力であったが、私の《強欲》はそんな力でさえ一片のカケラも残さず全てを捕らえ、私の力と変わって行く。


『確認しました。補助系スキル《斬撃強化》を習得しました』


『確認しました。補助系スキル《疾風》を習得しました』


『確認しました。補助系スキル《風魔法適性》を習得しました』


 嗚呼、最高の気分だ……。


 思わずニヤけそうになる顔を気合いで押し殺し、私はファーストワンに向き直り未だに蹲って何か小さく呻いているコイツの頭付近の地面に「疾風鷹の剣ゲイルキャリバー」を突き刺す。


「いつまでそうしているつもりだ?」

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