序章:割と賑やかな日常-8

 私は抜き身になった剣を軽く素振りして調子を確かめる。確かめながら横目でチラッとエイス達や姉さんの方を見てみると、エイス達はなんだか心配そうにコチラを伺い、姉さんは先程よりも真面目な眼差しを向けて来ている。


 まったく、全員心配し過ぎだ。あの年で落ち着いているマルガレンを少しは見習って欲しい。


 真剣自体は当然、使った事がある。それも主に実戦、夜中こっそり犯罪者を狩る際に度々使っていた。


 暗殺をするのであればナイフの様な小型の得物の方が使い勝手がいいが、いざ真正面からやり合う時はやはりブロードソードの様な得物の方が取り回し易い。


 今回使うこのブロードソードは、まあ、私が普段使っている物ではないが、素振りした感じ重さや長さに問題はない。だが、


 私は素振りを止め、対戦相手であるファーストワンを見る。


 そこには大袈裟な仕草を交えながら鞘から刀身を引き抜き、同じく大袈裟な動作で天へと掲げる。


 それは、明らかに普通の剣ではなかった。


 刀身は淡く水色に輝き、複雑な彫り物が彫られている。柄から柄頭に掛けても一般的なブロードソードとは一線を隔す装飾が施されており、鳥の様な意匠が凝らされている。


 それを目にした観客は驚きの声を上げ、口々にその素晴らしさを賞賛している。


 どう考えても普通の剣ではない。


 私はすかさず《解析鑑定》に《品質鑑定》を乗っけて使い、その剣の正体を探る。すると、


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 アイテム名:疾風鷹の剣ゲイルキャリバー


 種別:スキルアイテム


 希少価値:★★★★☆


 概要:スキル《疾風》、スキル《斬撃強化》、スキル《風魔法適性》が付与されたブロードソード。ドワーフの名工により魔物「ゲイルホーク」の骨を用い鍛えられ、スキルを付与された逸品。

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 …………成る程。付け上がるわけだ。


 付いているスキルが強力なのもあるが、そもそも三つものスキルが付与されたスキルアイテムというのは中々存在しない。


 三つものスキルを付与するとなると、使われている素材にはそれ相応の物を用意する必要がある。今回この「疾風鷹の剣ゲイルキャリバー」に使われている「ゲイルホーク」という魔物の骨はそれに相当する物なのだろう。


 更に付いているスキル《疾風》、コイツは──


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 スキル名:《疾風》


 系統:補助系


 種別:スキル


 概要:風属性を付与するスキル。自身の身体や武器に風属性を付与する事が出来、地属性の攻撃を軽減する。一部の技術系スキルを習得するのに必要。

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 珍しいスキルだ。一応この街と王都のスクロール屋は一通り見て回ったが殆ど見た事がない。たまに置いてあってもかなりの値段がするし、その割に直ぐ売り切れる。


 それにこのスキルを習得していないと得られない技術系スキルがあるらしい。これは……欲しいな。


 そしてそんな剣はそうそう市場に出回る様なもんじゃない。つまり──


「家宝でも持ち出したのか……」


「む、察しが良いじゃないか。だが持ち出した、とは違うな。父より僕にはこの剣が相応しいと譲って下さったのだ」


 まあ、そんな事情は知らないが、私としてはそんな剣……は厳しいが、スキルが欲しいな。特に《疾風》、コイツはなんとしても手に入れたい。


 さぁて、どうするか……。


「君? そろそろ始めても?」


「……ああ。始めよう」


 私とファーストワンは互いに睨み合い、剣を構える。


 まあ、取り敢えずはコイツの鼻っ柱をへし折る事を考えよう。スキル云々は隙を見て──とっ!!


 瞬間ファーストワンは先手必勝とばかりに私との距離を詰め、その剣で刺突を繰り出して来る。


 私はその刺突を寸での所で剣で受け流し、そのまま姿勢を低くして相手の剣を弾く。が、ファーストワンは剣の《疾風》を発動させ、刀身に風を纏わせ崩れた体勢を無理矢理風の力で持ち直す。


 そしてそのままの勢いを利用し剣を横薙ぎに払い姿勢を低くした私に斬りかかる。


 私は切られまいと《見切り》を発動させその斬撃を飛び退く形で回避し、体勢を立て直すのと同時に低い体勢のまま、半ばクラウチングスタートの様に地面を蹴り、今度はこちらから距離を詰め、圏内に入った瞬間に剣を切り上げる。


 それを見たファーストワンはまた《疾風》による風を利用した挙動で私の切り上げを受け止める。短い鍔迫り合いの後、その場で高らかに金属音を響かせながら何度か打ち合いをする。


 すると突如として私が持つブロードソードから小さい金属の嫌な音がしたのを耳にする。私はタイミングを見計らいまた後方に大きく飛び退いて体勢を整える。


「お、なんだい? 休憩かい?」


 そう余裕そうに溢すファーストワンだが、その額からは多量の汗が流れ、目には緊張が見て取れる。


 まったく、強がりよってからに。だが……ふむ、コイツの剣術自体は確かにそれなりにレベルが高い。あの剣の《疾風》有りきの戦い方が目立つが、それだけに単純な剣術じゃ対処が難しいか……。それに──


 私は自身のブロードソードを改めて軽く素振りして見る。すると内部の何処かが折れてしまったのか、僅かに軸がぶれる感覚を感じる取る。


 ふむ、やはり耐えられないか。奴があんな物を取り出した時点で少し懸念していたが、新品だからと少々無茶をし過ぎたな……。ならばいっその事……。


 私は手の平を広げ《炎魔法》による一つの火球を作り出す。


「……チッ、魔法か……。剣の試合で魔法は不粋なんじゃないかい?」


 露骨に態度が急降下したなコイツ……。まあ、コイツに限らず、この国で剣士を目指す奴の大半は魔法に余り良い思い入れが無いのは分かるが、せめてもっと隠せないものか。


「安心しろ。直接は使わない。ただ、お前の真似をしようと思ってな」


「僕の、真似?」


 私はファーストワンの疑問を置き去りに作り出した火球を剣へと近付け、纏わす。火球はまるで炎の蛇のように刀身へと絡み付き、金属の刀身を赤熱させる。


 うむ、上手くいった。付与術やスキルの真似事だが、案外しっかりと形になってくれたな。だが、余り長くは持たないだろう。向こうの剣とは違ってただの金属を使っている分耐久度は経過時間と共に減り続ける。ここからは短期決戦に持ち込まなくては。


「成る程、僕の真似ねぇ。それは僕を尊敬してくれている、と受け取って良いのかな?」


「止めろ気色悪い。こっからは本気だ、準備は良いか?」


「へぇ、本気ぃ……。いいよ、来なよ」


 さてさて、文字通りの付け焼き刃でどれだけギタギタに出来るか、頑張るか。

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