第四章:容赦無き鉄槌-4
「…………」
うん。やっぱり何も答えないか。まあ返事を期待してた訳ではないからなんだって構わないが。
さて、ではこの侵入者をどうやって攻略するかだ。子供の私が大人の仕事人相手に普通に戦闘して勝てるか?答えは単純明快。そんな訳ないである。
いくら姉さんと一緒に修行してその動きを見切れているとしても、この五歳児の身体では非力過ぎて決定打は期待出来ない。
戦闘向けのチート級スキルでも持っていたら別だが、生憎私のスキルは収集系特化という超が付くほど偏ったモノ。使える技術系スキルも当たらなければまともに戦うなど到底出来ない。
だがそれでも、私はやらなければならないのだ。決定打がなければ作ればいい。当たらなければ当たるようにすればいい。
そう、例えばこうやって。
私は躊躇せず袖に隠し持っていたナイフを一本侵入者に対して投擲する。
侵入者はそんな自分に飛来するナイフに対して最小限の動きで避けて見せる。ナイフはそのまま廊下の壁に跳ね返り侵入者の背後に転がる。
ふむ、早々当たるとは思ってもいなかったが、中々どうして綺麗に避けるものだ。
そんな事を考えながらも私は侵入者に対して一気に距離を詰める。侵入者はそんな私に対して一瞬だけ後退し、腰から刃渡り20センチはあろうナイフを取り出してそのまま私に向かって振り下ろそうとする。
このままでは私の背中にそのナイフが深々と刺さり、アッサリ私は絶命するだろう。避けようにも侵入者の懐に入り過ぎていてそれは叶わない。じゃあどうするか?
私はそのまま侵入者の股下を潜る。そしてその勢いのまま、先程投擲して避けられて床に転がるナイフを手に取り、スキルを発動する。
スキル《
侵入者は私に勢いよくナイフを振り下ろそうとしていたのもあり、背後から迫る私のナイフを避けられずにその切っ先が背中を突く。
「がぁっ!? な、何、をっ…………」
全身を麻痺が襲い、侵入者はそのまま崩折れた。
……ふう、なんとかなった。
かなり運が良かったな。ある程度予想はしていたが、やはり防御は最低限。動き易さ優先で中にはチェインメイルすら着ていなかった。纏っている黒いローブもどうやらタダの姿隠しの為のものだったらしい。
いやホント。運が良かった。これが〝プロ〟だったならこんなアッサリ行かなかっただろう。
そう、コイツ、私の予想だとプロではない。持っているスキルが暗殺者みたいな構成だったし、私の不意打ちを悉く避けたもんだから少し間違えそうになったのだが、プロにしてはお粗末過ぎる。
私の誘いにはアッサリ乗ってきたし、子供の私相手に余裕が無いように感じた。
恐らくだが、コイツは即席で作られた暗殺者なのだろう。暗殺者向きなスキルもスクロールを使ってやっつけで覚えたのだ。私の不意打ちを避けれたのもそんなスキルの賜物だろう。
さて、じゃあそんな練度の全然足りて無い即席暗殺者の素性はというと……。
《解析鑑定》発動。
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人物名:ハーボン・テンパラス
種族:人間
年齢:三十五歳
状態:麻痺
役職:スーベルク子爵従者
所持スキル:
魔法系
無し
技術系
《ナイフ術・初》《算術・初》《
補助系
《
概要:ティリーザラ王国首都セルブに住まうスーベルク・キャルン・スーペル子爵に拾われた過去を持つ男。彼に対して多大な恩義を感じている。
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ほうほう、なんだか聞いたことのある名前だなぁ?
コイツはそう、メルラのスクロール屋でスーベルクの隣に居た小太りの男だ。そいつがなんと、即席の暗殺者にアップグレードされていた訳だ。
スキル構成も見事に暗殺者向きのモノばかり。それなのにナイフの扱いだけは初級と来た。
一体どういった理由でワザワザあの小太りオヤジをこんな中途半端な暗殺者にしたのかは分からないが、今回はそのお陰でなんとか助かった訳だ。
と、そろそろ麻痺が切れてしまうな。もう一回、はい、スキル《
「が、かっ…………」
これで良し。さて、ではでは取り敢えず、コイツを私の自室に運ぼうか。子供の私では大人を運ぶのが大変だからとワザワザ自室前で迎え撃ったのが功をそうしたな。
そうして私は侵入者であるハーボンを自室に引き摺り込む。未だに麻痺で動けない大人を運ぶのはやはり中々大変だ。距離は無いが、先程の戦闘よりなんなら疲れた。
侵入者を運び終えた私は、そのまま持っていたロープで手足を縛り、口にも猿轡をする。これで麻痺が切れたとしても身動きは取れないだろう。後は持ち物も全部没収。
ナイフが三本に、毒瓶が三つ。キーピックに毒殺用の針が数本。後は……臭い的に油か? コイツ最終的に火を点けるつもりだったのか?
怒りがふつふつわと沸いてくる。不正を隠そうとしたとはいえ、火を点けようとした。私や父上に飽き足らず、母上や姉さん、使用人全員を巻き込もうとしたのか。
最初から許すつもりは無かったが、これはますます許せないな。
私は今度は侵入者……ハーボンの麻痺が解けるまでそのまま待つ事にした。本当ならもっとアッサリ〝処理〟しようかと思っていたが、それは止めだ。少しだけ嫌がらせをしよう。
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