第四章:容赦無き鉄槌-3
アレから三日が経ち、現在夜中の二時頃──
『……警告! 警告! 警戒区域内に異常を検知しました!! 警告! 警告…………』
ああ、もう分かったよ!! 分かったからそのサイレンを止めてくれ!!
けたたましいサイレンの音が脳内に響いて私は跳び起きた。なんなら頭痛がする気がするのだが、多分気の所為だろう。天声も忠告して来ないしな。
さて、そんな事よりもだ。異常を検知……つまりは侵入者という事で良いのかな?
『警戒区域内にて異常の移動を確認』
ふむ。やはり熟練度が足らないせいか若干精度が低いな。因みにその警戒区域内の範囲は?
『現在展開している最大警戒区域はクラウン様を中心に半径25メートルです』
ふむ。屋敷ギリギリといった感じか。となるともう刺客は屋敷内に侵入したと見ていいな。
さて、では迎え撃つとしようか。
そして私はベッドから抜け出し、
部屋を出て左手、廊下の角を曲がり更に右に曲がる。食堂の扉を横切った先、そこに父上の書斎がある。
侵入者はそこの前に居た。
今も周囲の様子を注意深く警戒しており、その姿は全身黒づくめのローブを頭から被り、そしてその姿は肉眼ではかなり希薄に見える。
うむ、これはかなり凝視しないと気付けないな。私は天声の警戒区域で異常を検知しながらだから見付けられたが、これが無ければ下手したらマジで分からなかった。
恐らく何かしらのスキルによってその姿を眩ませているのだろう。さて、お次は《解析鑑定》して相手を探る所なのだが、今は後回しだ。
何故ならばもう侵入者が父上の書斎に侵入を図ろうとしているからだ。このまま《解析鑑定》を使っていては見す見す侵入を許してしまう。それだけは避けねばならない。
そう考えた私は早速作戦を開始する。初手はそう、
今現在食堂の扉の前にいる私は侵入者に対して背を向けて扉のノブでワザと音を立てる。侵入者から見て若干視界の悪いその場所で音が鳴った事により、侵入者はより警戒心を強めゆっくりこちらに歩み寄って来る。
程なくして侵入者は背中を向けた私を発見。それを確認した私はすかさず背伸びをして欠伸をするフリをする。
その姿を見た侵入者はこう思うだろう。
『なんだ? この屋敷のガキか? 今はコチラに気付いていないな? ……見付かって騒がれたら面倒だ』
こういった侵入者の種別は大まかに三種類。一つは情報だけを狙っている輩。一つは暗殺を目的とした輩。一つはその両方だ。
今回の場合あの貴族の性格上、父上に対して個人的に恨んでいる節がある。余り賢い命令はしていないだろう。大方「情報を盗むのが最優先だが、殺せるなら殺せ」なんて雑な命令だ。
そんな命令を下された侵入者がその屋敷の子供に見つかるかも知れない状況に遭遇した場合、とる行動は限られる。
『いっそ騒がれるくらいなら気絶させるか殺して、一仕事した後に火を付けて証拠を隠滅してしまおう』
つまりはそう、この侵入者は未だ気付いていない私を直ぐにでも襲うだろう。状況からしたらかなりピンチだが、当然そんなの私の罠だ。
そうしている間に侵入者は私に飛び掛かる。成る程、暗殺もこなせるだけあってその動きには無駄がない。普通の子供相手では到底太刀打ち出来ないだろう。
だが、私はそこら辺の普通の子供ではない。剣術の天才である姉の修行に毎日付き合い、前世からの記憶と経験を積んでいる私が普通にやられる訳がないのだよ。
その動きだって、姉さんの子供離れした動きに比べれば、鼻で笑える。
私は背中から襲い来る侵入者に対し、気付かないふりをしつつ脇から隠し持っていたナイフを侵入者に突き立てる。
だがしかし、流石はそれで食っていっている侵入者。奴はその脇から突き立てられたナイフに即座に反応し、身体を無理矢理捻ってその切っ先を躱して見せた。
まあ、そんなに甘くはないか。これでやられてくれれば楽だったんだがなぁ……。
侵入者は先程の私の行動により警戒心を更に強め、私の行動の一挙手一投足を見逃さないよう注意深く監視している。
こうなってしまってはまともに戦うなど愚の骨頂。いくら姉さんに鍛えられているとはいえ、正面から大の大人とやり合うのは無理がある。それではどうするか?プランBへ移行だ。
私は背中を向けたまま全速力で走って逃げる。それはもう脱兎の如く、一切振り返らずにだ。
それを見た侵入者は私を追い掛ける。本来なら大人との追いかけっこなど勝ち目がないが、今は私の屋敷内。相手にどれだけ準備があるかは知らないが、住んでいる私よりは手間取る。
それに追い付かれるほど、距離を逃げたりはしない。
私は自室の前まで戻ると、その場で立ち止まる。侵入者はそんな私を見て即座には襲い掛からず、一定の距離を置いて私の動向を伺う。
ふむ。かなり警戒しているな。先程の一連の私の行動を見て子供相手だから油断出来ないと感じたらしい。それではそれ相応の行動に移すとしよう。
「こんばんは侵入者さん。今日は良い夜ですね」
そんな私の言葉に侵入者は一瞬だが反応した。
外では雨雲が空を覆い、少しずつ雨が降り始める。地面を打つ雨音は、まるで私を振るい立てるように徐々にその強さを増していく。
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