第四章:容赦無き鉄槌-2

 丑三つ時……と言ってもこの世界にそんな文化はないのだが、前世でいえばそんな時間帯、そんな夜更けに私はメルラから受け取った指輪を眺める。


 この指輪は数時間前に私と父上がメラスフェルラ──メルラのスクロール屋で手に入れた「足跡の指輪」という壊れた指輪。


 一応彼女からの誕生日プレゼントだが、彼女自身この指輪を選ぶとは思ってなかったようで、私が指輪の収まっていた箱を見つけた時かなり動揺していた。


 それだけこの指輪が貴重な物であるのだという事。と予想した私はスクロールではなくこの指輪を手に入れたわけだ。まあ、《解析鑑定》で調べた結果、破損アイテムであるという残念極まりないものなのだが……。好奇心には勝てなかった。


 そもそも全てのスキルを集めるという目的上、本来ならスクロールを選ぶべきだったのだろうが……私の勘が──強欲が欲しいと叫んだのだ。手に入れて損などあろう筈がない。


 さて、では色々と詳しく見てみようか。


 母上から借りた拡大鏡を取り出し、指輪をめつすがめつ観察してみる。


 材質は金属。鈍色に光沢し、意匠は凝った物になっていた。


「足跡の指輪」というだけあり、所々には足跡のような彫り物が丁寧に彫られており、且つそれがチープに見えないよう見事なデザインに仕上がっている。


 中央には小さなブラックオニキスに似た宝石が嵌め込まれているのだが……よくよく見てみると中央に大きめの亀裂が走ってしまっている。


 破損アイテムとなっている由来はこの亀裂だろう。硬い場所に落としてしまったか……もしくは無理矢理宝石を外そうとして失敗したか……。


 しかしこの指輪、一体何なんだ?


 普通の指輪にしてはデザイン性というよりもっと別の意味ある目的の為の意匠に感じる。……そう、まるでスクロールに刻まれた紋様にも似たものだ。


 という事はこれもスクロールに類似した品か?中にスキルが封じられている?


 ……理論上は不可能ではない、か?羊皮紙以外の物にスキルを封じる術……。気になるな。いつかしっかり調べてみるか。というか今すぐ調べ──


『──』


 ん?


『──認識しました。所持者の思考解析……成功しました。これより所持者に最適な設定を自動補正します』


 ──っ!? な、なんだ一体……っ!?


 急に頭の中でパソコンの自動設定みたいな文言が浮かび上がっているが……。


『……自動補正が完了しました。これにて全ての初期設定を完了しました。これより本スキルの本格発動を開始します』


 ……どうやらなにかしら準備が整ったらしい。


 何なんだ、急に……。


『初めましてクラウン・チェーシャル・キャッツ様。私エクストラスキル《天声の導き》のサポートアナウンスで御座います』


 うおっ、なんだか久々に聴くような事務的な声が頭に響いて──というか《天声の導き》だと?


『はい。私サポートアナウンスは所持者であるクラウン様の思考を解析し、クラウン様にもっとも適したアナウンスをご提供させて頂いております。ですがクラウン様自身による設定変更も可能です。設定を変更しますか?』


 む。いや、いやそうじゃない。何故急に、唐突に《天声の導き》が使えるようになったのだ?


『はい。本日、クラウン・チェーシャル・キャッツ様の年齢が五歳に到達。加えて肉体的負担に耐え得る段階に到達致しましたので自動発動、及び設定を行いました』


 ……成る程。懇切丁寧に説明どうもありがとう。これで理解出来たよ、私が今まで《天声の導き》が発動出来なかった理由……。


 そうか、スキルに気を遣われていたわけだ私は。


『再度確認願います。クラウン様自身による設定変更も可能です。設定を変更しますか?』


 いや、いい、このままで。ただ余りにも唐突だった上に事務的──いや機械的なアナウンスだったもので、少し動揺した。久々だったしな、こんな声音は……。


 ……さて、じゃあお前は何が出来るんだ? 一応は一回解析鑑定で解析してその権能は知っているが、お前から直接聞こう。他に何か出来たりしないのか?


『はい。基本的にエクストラスキル《天声の導き》は所持者に対して発生した〝変化〟をアナウンスし、またその変化に対する対策または情報の開示を可能にするスキルです。ただしこの対策や情報の開示にはある一定の熟練度を必要とします。その他の機能に関しても一定の熟練度が必要になり、現在は開示されていません』


 成る程。つまり使い続けていけば少しずつその機能が解放されていく訳だな。で、今は殆ど熟練度がないからその権能はかなり制限されている、と……。


『その通りです』


 じゃあ今出来ることは私の身に起きた出来事を知らせてくれるだけなのか?


『はい。現在の熟練度で使用可能な機能は「アナウンス」と「アラーム」です。因みに次に解放される機能は「対策」です』


 アラーム? アラームというと、いわゆる目覚ましの様な意味のあのアラームか?


『はい。クラウン様が設定した時間、もしくは周囲の異常を感知した際にクラウン様に報せる事が可能です』


 おお、これは地味に良い機能だ。しかも周囲の異常を報せてくれるとは、なんとも至れり尽くせりなじゃないか。これがあれば暗殺など怖くなくなるわけだ。


 まあ、最初から使える権能がそこまで融通が利くとは考え辛い。余り過信し過ぎるのは良くないか……。


 因みに最終的にはどんな機能が使えるんだ?


『はい。エクストラスキル《天声の導き》の最終機能は「スキル検索」です。クラウン様が望むスキルを広範囲に渡り検索し、発見する事が可能です』


 おお!! なんだそれは欲しい!!


 これは存外に良い貰い物をした。まあ、最終機能だから解放するには中々時間が掛かるようだが、そもそも常時発動させたままにする予定だし、熟練度もその内貯まるだろう。今から解放されて行くのが楽しみだ。


 さて、もうそろそろ時間も時間だし、寝なくてはな。では早速アラームを設定してみるか。アラームを朝九時にセットしてくれ。


『了解しました。アラームを朝9時に設定します』


 よし、では寝に就こ──と、忘れる所だった。


 《天声の導き》──って一々面倒だな……。これからは天声とだけ呼ぶ事にしよう。


『了解しました。サポートアナウンスの呼称を「天声」に設定……完了しました』


 それじゃあ天声。私の周囲を出来る限り広範囲で異常がないか警戒していてくれ。そして異常が見つかり次第、私を起こしてくれ。


『了解しました。周囲の異常に対するアラームを設定……完了しました』


 よし、これで完了だ。後は日常を過ごしつつ、あの貴族からの刺客を待とう。


 まったく……指輪の事を調べるつもりだったが、いやはやとんでもない展開になってしまった。まあ、良い事ではあったのだがな。


 さて、《天声の導き》も覚醒し、準備万端以上だ。


 明日は楽しい楽しい、私による刺客狩りの始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る