第七章:暗中飛躍-2

 


 森精皇国アールヴ南方に存在する人族を監視する為に作られた監視砦の一件を終えた私達は数日後、愛馬竣驪しゅんれいの引くキャンピング馬車に乗り移動中である。


 目指す先は王国──ではなく……。


「ねぇ? 本当に今から行くの? その盗賊のアジト……」


 ヘリアーテが御者台で手綱を握る私に対し、小窓を開けてそんな事を若干不満そうに聞いてくる。


 そう。今向かっているのは王国ではなく廃村を利用し、中々の規模の盗賊団と化しているらしい先日襲撃して来た盗賊共のアジト。


 つまりあの時の──南の監視砦攻略前の襲撃をやり返しに行くわけだが……。


「ああ行くぞ。……と言っても、アジトに乗り込むのは私だけだし、そこまで時間を費やすつもりはない。ちょっとした道草を食う程度だ。君達は馬車の中で悠々としていなさい」


「いや、盗賊のアジトをそんな気軽に寄れる村程度に言われんのもなんか複雑なんだけど──じゃなくてっ!」


 今度は何を思ったのかヘリアーテが小窓から頭をこちらに出しながら何かを伝えようとしてくる。


 いや、危ないから止めて欲しいのだが……。


「アンタあれだけ激戦やっといてまだ働く気なのかって言いたいのよっ!! デカイ盗賊のアジト潰すだなんてそんな……」


「なんだ? 私の心配をしてくれているのか?」


「べ、別にそうじゃないけ──……ううん、そう。心配してんの」


 ん? 意外だな。素直に認めるとは……。


「監視砦で私達一杯一杯だったから気付かなかったけどさ。なんだかんだアンタが一番大変だったじゃない」


「……」


 ヘリアーテが言いたいのはつまり、私が彼女達に対して色々と気を回した事についてだろうな。


 エルフ達を始末したのは彼女達自身だが、それを促し、励まし、覚悟を決めさせる為に私は動き回った。あの手この手で気を遣い、最後にはアヴァリという強者と闘い、事後処理も行った。


 その事を彼女──いや彼女達は気にしているのだろう。


 私は振り向かず《視野角拡大》を利用してヘリアーテとその奥で私達の会話を聴いてる他四人を見遣る。


 皆が皆、ヘリアーテと同じように私を心配してくれている顔だ。これも身を粉にして動き回った賜物なのだろう。それは素直に喜ばしく感じる。


 だが……。


「心配してくれてありがとう。だが大丈夫だ。問題無い」


「アンタねぇ、いくら耐性スキルあるからって──」


「勘違いしているな」


「え?」


「私は別に盗賊のアジトを潰しに行くわけではないぞ」


「……へ?」






 そんな会話から数時間後。


 目的地である盗賊団のアジトにされた廃村付近の森に馬車を止めた私は、そこで皆に今回の盗賊団の処遇について説明する。


「え……あの盗賊団を他の学院生達の訓練に使うって、そう言ってるの?」


「そうだ。奴等は私達学院生の戦争にける生存率向上の餌になってもらう」


 私が奴等を全滅させる事は簡単だ。


 例え五十人居ようとアヴァリという強者を乗り越えられた今の私ならば時間こそ掛かりはするが苦労はそこまでしない。


 数十人分のスキルは例え被っていようと良い熟練度稼ぎにはなるし、死体を纏めてスキルに昇華してしまえば中々良いスキルを獲得出来る見込みがある。それは砦でエルフ達をスキルにした際に証明された。


 だが戦争という舞台が用意されている以上、そのメリットは多少後回しにしても構わないのだ。なんせ何十人──下手をすれば百人以上を敵として屠るのだからな。材料など、幾らでも用意出来る。


 ならばこの機会は別の用途に回してしまう方が有意義に使える。その用途が、学院生達の訓練相手だ。


「正直、意外だぜ……」


 と、そんな失礼極まりない事を言い出したディズレーに視線を移すと、彼は慌てたように首を左右に振り否定を始める。


「い、いや違うんだっ!! ただアンタなら全くの他人より自分の事を優先するだろうからよう……。いくら戦争で稼げるからって優先度が変わるもんなのか、って……」


 そう言い訳しながら語尾が徐々に弱々しくなっていくディズレー。


 言わんとする事は理解出来る。有意義とはいえ他人事だからな。わざわざ私が世話してやる理由は弱い。


 まあとは言っても生徒達が戦争で役に立たないんじゃあ私も困るからな。理由が無いではない。


 だが学院生に盗賊を回すのは他にもメリットがあるのだ。


「そう考えるのも無理はないが、他にも理由があるんだ」


「理由、ですか?」


「ああ。……君等に、他生徒達の模範になって貰う為だ」


「「「「え?」」」」


 ロリーナ以外の四人が首を傾げる。恐らく予想だにしていなかったのだろうが、ロリーナは何か勘付いているようだな。


「ロリーナは、理由が分かるか?」


「……私達に生徒達からの信頼を集め、将来クラウンさんが立ち上げる予定のギルドで私達の部下にする布石……ですか?」


 ほう、やはりロリーナは感が良い。


「え、そうなのっ!?」


 声を上げるヘリアーテに、私は頷いて応える。


「その通りっ。私は君達に、学院生徒達にその実力と精神性を高らかに示し、部下を作って欲しいのだよ」


「え……」


「いや、それは……」


「む、無理じゃ、ないですか?」


 ディズレー、ヘリアーテ、ロセッティが揃って否定的な事を口走る中、私の忠実な部下となったグラッドが口を開く。


「そんな難しい事じゃないんじゃない? 今のボク達ならさ」


「い、いやでもよぉ……」


「ちょっと卑下し過ぎじゃなーい皆? ボク達は今回の一件で一皮も二皮も成長したんだよ? そんなボク達が難なく盗賊を討伐する姿を見れば、一人や二人くらい心惹かれるんじゃないー?」


 グラッドの言う通り、彼等五人は砦攻略で精神的に成長した。それも飛躍的にだ。


 平和な時代しか知らない学院の生徒達にとって他者の殺害など以前のヘリアーテ達のようにかなり高いハードルだ。


 だがそんなハードルを越えていく彼女達を見て惹かれる者達も生徒の中から現れるだろう。まあ、畏怖される対象にもなりかねないが、近々戦争がある以上それも後々畏敬に変わって行く可能性はある。


 憧憬の存在になるにはうってつけの舞台と言える。


「え、ちょっと待って。一人二人で良いの? 全員じゃなくて?」


「当たり前だろう。生徒全員からの信頼を勝ち取るなど今の私でも困難極まりない。ましてや壁を越えたばかりの君達にそこまでのハードルは要求せんよ」


「で、でもそれじゃあ余り意味無いんじゃ……」


「何を言う、意味はあるさ。今回用意する舞台はあくまでも君達の実力と精神性を生徒達に見せ付け畏怖や畏敬を彼等に植え付けるのが目的だ。確かに部下を作って貰うのが第一目標ではあるが、ロリーナが言ったようにこれは〝布石〟なんだよ」


 高望みはしない。将来的には複数人の部下を従えて貰いたいが今は焦らずとも良いのだ。今は布石を地道に置いていく時期……。これはその第一歩だ。


「お、俺達に、そんな事が出来んのかよ……」


 話を聞き、自身無さ気に俯いてしまうディズレー。それに追随するようにヘリアーテとロセッティ、そしてロリーナまでもが俯く。


 まったく……。


「私は君達に出来ない事は要求しない」


「え……」


「私はこれまでの君達を見て、それが可能だと判断した。今の君達は以前の何倍も人間として魅力的になっている。自信を持ちなさい」


「アンタ……」


「そうだよ皆っ! ボスにここまで言って貰えてるんだ、ボク達なら出来るさっ!」


 大仰な身振り手振りで四人にそう告げたグラッドに、ヘリアーテ達は表情を緩め小さく笑い出す。


「ははっ。なんかアンタ、本当にキャラ変わったわね……」


「だな。なんかちょっと調子狂うわっ」


「でも、わたしは今のグラッド君の方が良いかな。ふふっ」


「な、なんだい皆して茶化してさー」


 和気藹々とした空気になった中、ロリーナが私の側に寄り、私の顔を見上げる。


「……あの」


「ん? どうした?」


「その……。私は、部下なんて……」


「いや、だが将来的には──」


「私は、将来クラウンさんの秘書になりたいです」


「──っ!?」


 ……


 …………


 …………はぁ。


 ある種、この子は心臓に悪いな……。


 なんなんだまったく。甲斐甲斐しいにも程があるだろう……。


 まあこれも、私が地道にロリーナから好感度を稼いだ結果なのだろうが……。突発的なのは流石に動揺する……。


 と、取り敢えずだ……。


「私の秘書、にかい?」


「はい。不都合、でしょうか?」


「いやそうじゃないが……。私にはマルガレンがいるからな」


「マルガレン君は側付きですよね? 身の回りの世話以外に仕事の補佐も彼に任せるのですか?」


「それは……」


「私は自分の能力を俯瞰してみてそれを鑑みた結果、クラウンさんの秘書という立場が最も能力を発揮出来ると考えました。クラウンさんは違いますか?」


 ……そんなもの──


「違わないさ。ありがとうロリーナ。前向きに……真剣に検討するよ」


「はい。ありがとうございます」


「まあ、それはそれとして一応は彼等同様に学院生徒達に君の実力等を見せて上げなさい。秘書とはいえ、部下が居て困る事はないからな」


「わかりました」


 そう言ってロリーナは微笑みながら快く承諾してくれる。本当、つくづく彼女は最高の女性だ。


「……ん? ちょっと待って」


 と、そんな声を上げ何かに疑問を持ったヘリアーテが唐突に私に詰め寄って来る。


「盗賊のアジトを学院の生徒達にやらせるなら、なんで私達ここに居んのよ。場所さえ分かってればわざわざ来る必要ないじゃない」


 彼女の質問にグラッド、ディズレー、ロセッティもハッとしたように表情を変え、私に視線が集中する。


 これは別に難しい理由ではない。単純な話だ。


「あの盗賊のアジトは確かに広く、得た記憶が正しければ五十人近くの盗賊が跋扈ばっこしているだろう。だが、それでは足りないよな?」


 学院の総生徒数は全学年併せて二百人弱。このアジト一つだけではその全員に行き届かせる事は出来ないだろう。


「そうね。足りないわね……」


「でもそれは仕方ねぇだろ? アジトなんてそんな都合良く用意出来ねぇし……」


「出来るかもしれない、と言ったら?」


「え?」


 頭に疑問符が浮かぶ皆に、私は分かり易く一つ一つ説明を始める。


「盗賊というのは元来〝縄張り〟というものを常に尊重して行動している。勿論、同業者である盗賊の、だ」


「縄張り、ですか?」


「ああ。小さな団体ならそれも常では無いが、数十人規模という大きな団体にまで膨れ上がった奴等は必ず何処かに拠点を置く。アレが良い例だな」


「お、おう」


「で、拠点を置くにあたって奴等が気にしなければならない点は三つ。一つは目立たない立地。一つは大きさ。そして最後の一つが他盗賊団との適切な距離だ」


「他盗賊団? ……ああ成る程。縄張りが被らないようにか」


「その通りだグラッド。拠点を置く以上、そこから軽々に移動する事が出来なくなる。それなのに他の盗賊団と縄張りが被ってしまってはそこで縄張りの奪い合いが起きる。最悪は小さな戦争状態に突入だ」


「成る程ね。だから盗賊団同士は縄張りが被らないように気を遣うってワケね」


「そう。つまりは、だ──」


「そっかっ! 盗賊団同士はお互いに拠点の場所を知ってるってわけだね? 縄張りが被らないようにさー」


「あ、成る程ね!」


 グラッドとヘリアーテがお互いに辿り着いた答えに明るく声を上げると、少し間を置いてロセッティも理解し、ディズレーは未だに頭を捻っている。


「んん? つまり、なんだ?」


「つまりはだディズレー。奴等に聞きに行くんだよ、他の盗賊団の拠点の場所をな」


「──っ! お、おぉ、なるほどっ! それなら数にもよるが、もしかしたら全生徒分の盗賊を用意出来るかもしれねぇっ!!」


「そうっ! つまり私は今から──」


 人差し指を盗賊団のアジトに向けて指し、高らかに言い放つ。


「奴等のアジトにこっそり忍び込み、奴等のボスをあの手この手で脅かし他の盗賊団の居場所を吐かせるっ!」


「さっすがっ!! ボスの考える事はエゲツないねっ!!」






 と、そんなやり取りを終え、隠密系スキル全てを使用し何の苦労も無く盗賊のアジトに侵入を開始したのだが……。


「……わざわざお前まで付いて来なくとも良かったんだぞ?」


 そう、小声で本来一人で忍び込む予定だった私の後ろに付いて来るグラッドに問い掛ける。


「いやさー。ボク、ボスと誓約交わして隠密系のスキル沢山習得したじゃない? ならそれを活用出来る機会があれば使ってみたいじゃないっ」


 グラッドと交わした《魂誓約》の権能により、私は彼にいくつかの隠密系スキルを習得させた。


 初対面で試合をした時にも見せていたが、グラッドは隠密が得意なスキル構成をしており、戦闘スタイルもまた、隠密寄りのもので固まっている。


 故に私はそんな彼のポテンシャルを伸ばすべく私が与えられる限りの隠密を強化出来るスキルを選び、与えた。グラッドはそれを試したかったと、そう言っているわけだ。


「まあ、気持ちは理解出来るがな……」


「なら良いじゃないっ!」


「……そうだな。何事も経験だ。遅れるんじゃないぞ?」


「分かってるよぉー」


 と、他愛無い会話をコソコソとしながら廃村を利用した盗賊団のアジトを難なく進んでいく私とグラッド。


 盗賊達はそんな私達が真横を堂々とすり抜けて奥に進んで行くのを全く認識出来ず、なんて事は無い会話を繰り広げている。……まあ、内容は下卑ていて聞くに堪えない内容ばかりだが……。


「……なんか、思ってたよりすんなりだね」


「今の私達を見抜ける者などそれこそ猛者しか居ないだろう。《解析鑑定》でザッと全体を覗いたが、私達を見つけられるような猛者は居なかったな」


「ふーん……なんか拍子抜けだなー」


「それだけお前の能力が高くなった証拠だ。誇りなさい」


「ふふ。はーい」






 そうして辿り着いたのは廃村の中でも大きめで立派な建物。


 元は村長やそれに類似する役職の人間が住まいにしていたであろうその建物に、私が見た記憶では盗賊団のボスが居る。


 それとあの天族の少女もまた……。


「……さて。さっさと終わらせて王都に帰るぞ」


「うん」


 私達は建物の二階にある窓を見付けると、そこに向かって壁や屋根を伝い登っていき、目的の窓まで到達するとそこから内部へ侵入。


 そのまま階段を降りて行き、聞き耳を立てながら盗賊団のボスの元へと迷い無く進んで行った。


 そして元は応接間であったろう部屋の前まで来た私達は、小さくグラッドへアイコンタクトをした後に扉をゆっくり開け、忍び寄る。


 そこでは──


「ったくよぉ……。あの馬鹿共いつまで見回りに時間掛けてやがんだぁ? それとも魔物に運悪く遭遇……。ま、一人や二人居なくなった所で代わりは居る。他の部下には適当に言って──」


 図体がデカく、丸々と肥えた如何にも「盗賊のボス」然とした中年の男が無駄に高級なソファに身体を沈めながら酒瓶をあおりながらそんな事を口走る。


 数日間帰って来ない部下となると明らかに私が始末したあの盗賊達だろう。永遠に帰って来ない部下の安否を今更案じるとは……。なんとも仲間思いの無い奴だ。


 ……と、まあそれは置いておいて──


 私は盗賊のボスの背後に立ち、久々に「白磁の妖面」を被った後、障蜘蛛さわりぐもを構えてそのまま奴の口を左手で覆いながら障蜘蛛さわりぐもを首元に当てがう。


「──っ!??」


 自身に降り掛かった異常事態に盗賊のボスは咄嗟にその場で暴れ出す。


 が、私はそれを《恐慌のオーラ》と《覇気》の合わせ技で黙らせる。


「──っ!?」


「シーっ……。お前も盗賊の頭目なら分かるだろう? この状況になった以上、お前に出来る事など限りなく少ない」


 声音を《変声》で変え。


「……っ!」


「少なくとも今この場で大人しくしていれば命は取らん。だが今からする幾つかの質問に抵抗したその瞬間……分かるな?」


 そう私が問うと盗賊のボスは顔色を真っ青に染め上げた後ゆっくりと何度も頷く。


「よし。ならば今から口を解放する。騒ぎ出したら相応の目に合わせるからそのつもりでいろ。良いな?」


 再び何度も頷いた盗賊のボスの反応を確認した私は、口を塞ぐ左手をおもむろに退ける。すると──


「……ッッ!! ナメんじゃねぇぞガ──ガパッ!?」


 予想通りこちらに向かって拳を振り抜こうとして振り返った盗賊のボスに対し、私はその顔面に向かって真っ直ぐ正拳を叩き込む。


 脂肪をたっぷり蓄えたその顔面に食い込んだ拳はそのまま盗賊のボスを吹き飛ばし、ローテーブルを巻き込みながら部屋を転がる。


「約束を守れん奴は、嫌いだなぁ?」


「ひっ……」


 その後の盗賊のボスは言うまでもなく私が気が済むまで殴り続けた。


 最初は私に対して何やら罵詈雑言を試みていたが、数度殴った際に顔の皮膚が大きく裂けたのを文字通りの皮切りにし、許しを乞う懇願に変わっていった。


「ゆ……ゆる、許し……」


「ほう。ならば私の言う事が聞けるな? ん?」


「わ、分かった……。分かったからもう、殴らないで、くれ……」


「ならば良し。全てを答えなさい」






「……ふむ。よし、大体分かった」


 盗賊のボスから他の盗賊団のアジトの場所を聞き出し終え、忘れないよう大まかにメモも取り終える。


「しかしここを除いてこの平野に三つか……。中々に蔓延っているとはな」


 ここより南に一つ。更に北に二つほどこの平野に中々の規模の盗賊団が居を構えているらしい。


 王国とは距離があるから淘汰するのは手間だろうが……それにしたって少々杜撰な気がしないでもないな。


 と、そうだそうだ。もう一つ聞かなきゃならん事があるんだったな。


「おい」


「は、はひっ!!」


「このアジト──というか建物に天族の少女が居るな? どこに居る」


「──っ!? い、いや……」


「なんだ? 今度は「許して」ではなく「殺して」と懇願するような目に遭いたいのか? 私は大歓迎だがなぁ。ん?」


「わ、分かったっ!! 教えるっ!! 教えるからっ!!」






 案内されたのは隠された地下室の入り口。如何にも何かを隠す為に後付けされたその地下室への階段を降りて行くと、そこには一枚の鉄扉が設置されていた。


「こ、ここです……」


「ふむ」


 私は盗賊のボスから鍵を受け取ると施錠された鉄扉を開錠。ゆっくりと扉を開ける。


 そしてそこに居たのは……。


「あら、もう次の相手の時間なの? ってなぁにぃ? 新人さん? それにしてはなんだか身なりがキッチリしてるけど……」


 背に純白の翼を一対生やし、ショートに切り揃えられたショートヘアーを棚引かせながら優雅にキングサイズのベッドに寝そべる美女が、ネグリジェを着てこちらを舐めるように品定めを始める。すると──


「あら。あらあらあらあらあらっ!! なぁにぃ? 二人共〝童貞〟じゃないのよぉ〜唆るわぁ〜」


「──っ!?」


「し・か・も♪ そこの赤と黒の髪色の君……。相当〝性欲〟溜まってるわね〜? ほらほら早くこっち来なさいなっ! お姉さんが優しく抜いて──」


 ──ガァァァァンッッッ!!


 私は思わず、彼女に向かって淵鯉ふちてがみを投擲し、壁に穴を空けていた。

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