幕間:滑稽-2

 それは何の前触れもなく、突如として起こった。


 面談室を煌々と照らしていた燭台の炎が消え、部屋が暗黒に包まれたのだ。


 スーベルクは一瞬何が起こったのか理解出来ず固まる。自身の正当性を熱弁している最中に起こった予想だにしていなかった暗転に脳の処理が追いついていないでいた。


(な、にが?)


 少しの間を置き、異常事態であると最低限の理解に辿り着くと、全身を冷や汗が一瞬で濡らし、思わず口から声が出る。


「こ、これは一体何事だ!? 何が起きたのだ!!」


 面談室に控えていた使用人達も同様に戸惑いの声を漏らし場は混乱し始める。


「ええい貴様等!! 無様に喚いていないで状況を確認せんか!! 今は大事な面談をしておるのだぞ!!」


 その言葉にハッとなった使用人達が暗がりの中手探りで面談室の扉を開け、走り去って行く。スーベルクもまたこの混乱により客人であるディーボルツの存在を無視していた事に思い当たり、急いで体裁を繕う。


「も、申し訳ありませんモンドベルク公!! ただ今原因を究明しておりますので暫しの間ご辛抱下さい!!」


「ふむ……」


 こんな事態にも一切その姿勢を乱さないディーボルツは少し思案するかのように顎髭に手を当てる。


「面談中に起きた突発的な暗転……。もしこの部屋だけでなく屋敷全体がこの様な状態であれば……。スーベルク殿」


「は、はっ! 何でございましょうか?」


「私の推察が間違っていなければ恐らくこの暗闇、人為的な物によるものだと思われる」


「人為的……、でございますか?」


「左様。となれば必然、この暗闇を利用する輩が侵入したという事になる」


「輩の侵入…………。──っ!? まさか!?」


 スーベルクはディーボルツの事など御構い無しとばかりに一目散に面談室の扉へと手を掛ける。しかし、


「おや、スーベルク殿、どちらに行かれるのですかな?」


 咄嗟に出そうになった舌打ちを理性でなんとか堪えながら、スーベルク徐々に暗闇に慣れてきた目でディーボルツに振り返り、無理矢理作り笑いを浮かべる。


「い、いえ……。ただ賊が侵入したとなれば私自身が出向いて指揮を取らねば……」


「何を言うスーベルク殿。其方の様な御仁が自ら危険な場に出向くのは関心しませんな。それに先程この部屋に案内された際に見かけた多数の警備兵、お見受けするにこの国随一の実力者を集めた民間警備ギルド「白鳥の守人」が警備にあたっているのであれば十分ではないですかな?」


「で、ですがこの屋敷に一番詳しいのは私でして……」


「彼等とてプロ。既にこの屋敷の内部構造は把握済みと考えて良いでしょう。それにスーベルク殿。貴族とは常に堂々と構え、余裕を見せているもの。そんな貴族である貴殿が慌てていては下の者に示しが付きますまい?」


「ぐっ……、お、仰る通りで……。流石はモンドベルク公、勉強になります……」


 歯噛みしそうな感情を必死に抑え、笑顔を表情に貼り付けながらゆっくり元の位置に座り直すスーベルク。一刻も早く書斎に眠る数々の証拠の無事を確認したい気持ちを押し殺しながら、雇った警備兵達でなんとか賊を鎮圧してくれる様心の中で祈り、スーベルクは再びディーボルツとの面談に勤しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る