第四章:泥だらけの前進-8

 私は早速、私の新たな専用武器となったナイフ「障蜘蛛さわりぐも」に《解析鑑定》を使って覚醒した三つのスキルを確認する。


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 スキル名:《毒合成》

 系統:補助系

 種別:スキル

 概要:複数の毒物を合成する事が出来るスキル。自身が扱える毒物をその場で合成する事が出来、様々な新しい毒物を精製出来る。

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 スキル名:《致命の一撃》

 系統:補助系

 種別:スキル

 概要:対象に致命的な傷を負わせるスキル。毒属性武器を使い対象に傷を負わせる事が出来た場合、低確率で対象に毒による致命的な傷を負わせる。尚、このスキルで与えた毒は《猛毒耐性・小》の影響を受けない。

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 スキル名:《治癒不全》

 系統:補助系

 種別:スキル

 概要:対象の治癒能力を弱らせるスキル。所持者が何らかの毒攻撃で対象に影響を及ぼした場合、低確率で対象の治癒能力を弱らせる事が出来る。尚、このスキルにより治癒能力が消える事はない。

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 おお、おお。これはまたエグいスキルが揃い踏み。所持している私が言うのも何だが、こんなスキルが付いた武器で攻撃されるなど考えたくもないな。


 だが自分が使う武器としてはこの上ない性能。早くコイツの力を試してみたいな。


「お、おいおい、顔怖ぇぞ? なんだその凶悪な笑い顔は……」


 おっと、ちょっと気を緩め過ぎたな……。


「いえなんでも。あまりに素晴らしい出来なので嬉しかっただけですよ」


「ほぉん、なら良いけどよ……。くれぐれもそいつの扱いには気を付けろよ? なんたって毒武器なんだ、下手な使い方したら手痛いしっぺ返しが来るからな」


「分かっています。十分気を付けますよ」


 私は障蜘蛛さわりぐもを軽く手で遊ばせ簡単に使い心地を確かめる。


 大きさ、重さ、刃渡りにグリップの握り……。どれも皆しっくり来る。これならいざ暗殺が必要になった場合にも役に立ってくれそうだ。……まあ、そうそうあるもんじゃないが……。


 動きを確認し終え、障蜘蛛さわりぐもをそのまま《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》へ格納する。因みに燈狼とうろうも同じく《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》へと格納、展示している。アレらは飾るに相応しい逸品だ。いつも帯剣しているワケにはいかんしな。


「本当、重ね重ねこのような素晴らしい武器をありがとうございます。貴方のような職人に今の年齢の時点で出会えた事、私の生涯でも中々に無い幸運です」


「そ、そうか? あんま褒められっとむず痒いが……」


 そう照れ笑いする。うーん、オッサンの照れ笑いを見せられてもなぁ……。


「うーん、それにしても……」


 そう私の隣に居たマルガレンが呟き、私とノーマンがマルガレンに注目する。


「前に作って貰った剣と値段で比べちゃいますね、どうしても……」


「は? なぁに言ってんだおめぇ!あの剣は材料をニィちゃんが殆ど用意してたからあの値段で良かったんだよ!! 」


「あ、ま、まあ、そうですね……」


「ボルケニウムやらトーチキングリザードの素材を俺が一から用意したらどれだけ値段がハネ上がるか……。金貨五百……いや七百でも足りねぇよ!!」


「そ、そんなに……。本当に、かなり値下げしてくれたんですね……」


 そうだな。金貨七百枚とか今の私でも用意出来ない。パージンの鉱山内に巣食ってるトーチキングリザードを退治し回らんでもない限り厳しいだろう。


 やはり今後、武器やら防具を作って貰うならば素材は自前で用意した方が良いな……。魔物やら金属、鉱石に木材……。使えそうな物は片っ端から集めても良さそうだな。


「まあ、そうは言ってもあの値段は特別中の特別価格。今後はあの剣の値段程安くは出来ねぇからな? まあ、素材次第だが……。あんま期待すんなよ?」


 そう笑って言うノーマンに、私は素直に感謝を述べた。


 その後、私達は暫く軽い雑談に興じた。


 とりわけノーマンはジャックがあれからどうしてるのかが気になっていたらしい。


 あれだけ熱心にノーマンの鍛治仕事を見学していたからな。多少なりとも愛着が湧いていたのだろう。


 そんなジャックだが、あの後元々働いていたカーネリアの商会の会計員を転職、今は色々な勉強をしながら商会の鑑定員見習いとして働いている。


 今では嬉々として武器やら防具を眺めている。


 その話をした時のノーマンは、不思議と満更でも無さ気だった。


 因みに三人組の残り二人、エイスとクイネは相変わらずだ。


 エイスは大工の仕事を順調に熟しているらしく、今では棟梁なんかに頼られる立派な大工の一員。


 そして今私が考えている構想の一つを一緒になって計画している。


 これは私が前に一度空想した物を本腰を入れて実現してみるという物であり、実際に叶えるには未だ様々な物が不足している為道のりは遠いが、こういうのは早い段階から計画しておかねば必要な時に限って無くて困るからな。


 週に一度、食事をしながら話し込んでいたりする。


 クイネも変わらず食事処の看板娘をやっている。


 今では前にパージンで判明したドワーフの内情を知ったおかげでドワーフからの評判も良くなっており、カーネリアには最近ドワーフの姿を多く見掛ける様になった。


 まあ、ドワーフ達が怒っていた原因である料理の不味さを〝何故か〟私が手ずから指導して改善させたから解決したのだが、まあ、そのお陰で《調理術・初》を習得出来たのだから私からしても結果的に得だったわけだ。


「まあ、元気そうなら良いけどよ。所でよ、例の話、覚えてるか?」


 ん? 例の話? 三年前の話か? 


「ええと、また別の依頼をしてくれってアレですか?」


「そうそう!! それだそれ!! なんか無えのか?」


 そんな事を言われてもなぁ……。既に私の手には燈狼と障蜘蛛、剣とナイフの二本がある。これ以上の武器は流石に……。ん? そういえば……。


「そういえば、防具って作れたりしますか?」


「あったりめぇだろ!! ウチは老舗の鍛冶屋だぜ? 武器も防具も任せなってなもんよ!!」


 ほう、成る程。防具もイケるのか。


 正直、防御よりも避けたり受け流したりする事を主軸にしているせいか、いざダメージを受けた時の事をあまり重要視していなかった。


 だがよくよく思い返してみれば、私、割と普通に怪我とかしているんだよな……。十年前にキグナスにボロボロにされたし、三年前もハウンドウルフのボスに腕噛まれているし……。


 それを踏まえると、やはり防具は必要だな。だがだからといってガチガチの金属鎧なんてのは流石にな……。ならば注文としては、


「ならお願いしたいのですが、動き易く頑丈な……例えば金属や魔物の素材を編み込んだコートや鎖帷子みたいな物が良いですね。それもなるべく軽量化していたら望ましいです」


「……おめぇさん、分かってて言ってるか? そんな理想中の理想の防具、実際素材から何から俺が用意して作ったら、それこそ金貨五百枚とかになるぞ? 払えんのか?」


「まあ、無理ですね。現状」


 あくまで現状。金策なんて、今後やろうと思えば何とかなる。時間は掛かるが……。


「やっぱりかよ……。本当、おめぇさんは良くも悪くも正直モンだよ。で? 現実問題どうすんだ? 俺が全部見繕うか?」


「いえ、今回は燈狼の時同様、私が素材を集めます。金属や鉱石なんかは厳しいので頼む形になりますが……。魔物の素材に目処が立ったらまた、相談しますよ」


「なるほど。なら俺は金属のアテを探す。おめぇさんの事だ、どうせ妥協したかねぇんだろ?」


 そうだな。それが一番望ましい。望ましいが……。


「妥協、とは違いますが、流石に現実離れした値段の金属は厳しいですねぇ……。魔力鉱ミスリル不壊銀アダマンタイト神力金オリハルコンなんてのを用意されても払えませんよ」


 魔力鉱は兎も角、残り二つのどれも噂にしか聞かない、この世界ですらファンタジーじみた金属である。まあ、創作上にしか無い前世の世界よりは現実味があるが……。


「馬っ鹿おめぇ、そんなもん用意出来るわけねぇだろう!! そもそも不壊銀やら神力金使ってくれなんて言われちゃ、逆にコッチが金払いたくなるって話だ!! そんな伝説的金属!!」


「冗談ですよ。ただまあ、そうですね……。ボルケニウムくらいの価値の金属だったら考えます」


「…………そっちは本気で言ってそうだな? ……はあ……ボルケニウムくらいって簡単に言うがなぁ……。……軽くて、頑丈で、柔らかい金属……。無くはないが……うーん……」


 お、あるのか。割と無茶言ったんだが、流石はノーマン、頼り甲斐のある男である。


「じゃあ、次の依頼はそれで。魔物の素材が手に入ったらまた手紙なり直接寄るなりして相談持って来ますので」


「おう……。了解した……」


 ノーマンの返事は既に生返事になっており、これは彼が私の依頼に対して頭をそっちに回している証拠だろう。まさに職人である。


 私はそれからカウンターに置いてある依頼書に必要事項を書き込んで置いておき、ノーマンの思考を邪魔しないよう、二人で鍛冶屋を後にする。


 次は防具を仕立てて貰うわけだが、この防具が完成したとしたら、次から私はノーマンに依頼するもののレパートリーが無くなってしまう。


 別に武器や防具を間を置かずに依頼しなければならないとか、常に新しい物をわざわざ頼む必要は無いのだが、やはり自分専用の武器防具というのは魅力的であり、止めるには惜しいという考えがある。


 だがだからといってこれ以上の武器を作って貰っても現在のところ身に余るのは目に見えている。複数の武器を同時に操る事など、当然出来ないからだ。


 実はこの問題、武器にだけ言える問題ではなく、スキルにも似た様なもの事が言える。


 例えば《剣術》と《槍術》を両方習得していたとして、それを両方使い熟せるかは別の話。絶対どちらかに傾倒し、使う事になる。何故なら操れる自分は一人だけで、身体は一つなのだから。


 なら取っ替え引っ替え武器を入れ替えるのはどうか? 


 実現出来れば有効だが、現実として武器を戦闘中に交換する程のいとまは普通は無い。


 ならばどうするか? 


 簡単だ、〝複数同時に操れる様に、取っ替え引っ替え出来るようになればいい〟。


 一回の戦いで剣に槍、斧や金槌に弓や鞭、それらを全て遍く無駄無く使う。


 そうすれば武器を複数種所持していても、技術系スキルを複数種所持していても、無駄にならずに腐らずに、使えるだろう。


 だがそれには並大抵の努力では足りない。文字通り血の滲むような、魂を擦り減らすような修練が必要だし、それを実現する為のスキルも必要だ。


 私が考えているコレは、まさに夢物語だろう。


 だがちょっと──いやかなり楽しそうじゃないか。


 動機なんてそれでいい。


 楽しそう面白そう格好良さそう。なんでもいい。


 私はそうやって目標を増やしながら、楽しく人生を謳歌するのだ。


 自由も知識も金も恋愛も戦いも娯楽もスキルも、全部全部手に入れる。


 これこそ、強欲冥利に尽きるというもの。


 嗚呼、楽しいなぁ。やりたい事が沢山あって、楽しいなぁ……。


 不気味に笑う私に、隣を歩くマルガレンは少し呆れたように笑って溜め息を吐いた。

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