第四章:泥だらけの前進-17
隔離空間内の闇が、微弱に震え始める。
これは私が作り出した隔離空間が中の闇の影響を抑え続けるのが困難になって来た証であり、このまま続けていては隔離空間が耐え切れず崩壊し、闇が中から溢れ出す。
そうなれば──
「そんなに……危険な魔法なのですか?」
「た、大変じゃないか!? どうするんだいその闇!? どう消すつもりなんだい!?」
「まあ待て。解決策はある」
私はこの余裕が無い中、小さい、隔離空間が収まる程度の小さなポケットディメンションを開き、そこにゆっくり隔離した闇を収納。ポケットディメンションを解除と同時に隔離空間と闇の制御を手放す。
ああ……、疲れた……。全身汗だくだ……。気持ち悪い……。
「あ、アレで……大丈夫なのかいっ!?」
「……ポケットディメンション内は暗闇だ。吸収する光は無い。暫くしていれば魔力が霧散して闇は消える」
「ですがクラウンさん。ポケットディメンションの中にはクラウンさんの荷物が入っていたのでは? それらは大丈夫なのですか?」
「ああ。さっき開いたのはいつも使っているポケットディメンションとは違う空間だ。普段私が完全にいらなくなった物を棄てるゴミ箱として使っているモノだから問題無い」
中のゴミも、闇に吸収されて消えるから中の掃除にもなる。ただウッカリ普段使いの空間に繋げようものなら……。想像したくないな……。
「な、成る程……。なら安心だな……。しかし、それだけ強力な魔法を習得出来るのならばかなり使えるんじゃないか?」
……かなり使えるねぇ……。
「確かに見た目もその特性も強力な魔法だ。ただコイツの欠点はその制御の難しさと消費魔力の量、それに使える場面が少ないって所だ」
「それは……一体どういう?」
「まずこの《闇魔法》。習得しても尚制御が難しいらしい。師匠との定期連絡の際に聞いた話だと《魔力精密操作》が前提の魔法だと」
「《魔力精密操作》ですか……。私は一応習得していますが……。それほどに……」
お、やはり《魔力精密操作》を習得していたか。私はスクロールで習得したが、恐らくロリーナは自力で習得したのだろう。スクロールは高いしな……。アレを自力で習得するとなると相応に時間がいる。それだけの努力を、この子はして来たのだろうな……。
……おっと、思考が逸れた。
「そうだ。そしてそれに比例する様に魔力を消費し、まだ魔力量が少ない時期に使おうものなら秒で魔力欠乏症を味わう羽目になる。更に仮に使える様になったとしても、さっき見せた通り、その性質の凶暴性から使える場面も限られる」
あんな光を塗り潰す魔法をバンバン使っては周囲に被害が出て仕方がない。使い所が難しい魔法だ。
「む……。確かにそれだけ聞くと使い勝手が悪く思えてくるな」
「そうだ。そして一番厄介な性質がある。師匠曰く、それが《闇魔法》、延いては《光魔法》の怖い所なんだと」
「《光魔法》にも……。それは一体?」
「……魔法は現象を魔力を材料に再現させる技術……つまりはイメージがモノを言うが、その点に於いて闇と光はあまりにも
「成る程……。確かに」
「えっ? いっ、一体どういう……」
「分からないか? 例えば《炎魔法》や《水魔法》はその温度や大きさ、点火源や粘度等の複数の要素を理解して構成する必要があるが、《闇魔法》及び《光魔法》はそれが〝直感的〟に理解出来てしまうワケだ」
闇、と想像して真っ先に浮かぶのは底無しの黒。
光、と想像して真っ先に浮かぶのは果て無き白。太陽を見上げれば視界一杯に広がり、闇夜でさえ月の光が周囲を照らす。
炎や水、地や風や空間などより、より身近でいて圧倒的なまでに私達生物を常に包み込む。故にイメージは容易く、且つ制御が困難。
「これが中位二属性。高位魔導師を目指す者の登竜門だ」
「……君は入学したてで、もうそんな物に着手しているのかい?」
「話を聞いていなかったのか? 三年間訓練していると私は言った。着手したばかりであそこまで出来るワケが無いだろう?」
「は、ははは……。そうか成る程……。成る程……」
だがまあ、さっき試しに見せてみた時の感じだと、後もう少しな筈なんだがなぁ……。
……私が持っている《魔法習得補正lv1》が機能してこの速さなら、存在しているであろう《魔法習得補正lv2》やら《魔法習得補正lv3》があれば更に速くなる筈だ。
しかし何処のスクロール屋、どんな人物や魔物もそんなスキルがあったり、持っていたりはしなかった。
だからと言ってそれらを努力で習得する方法など見当が付かない……。学院の図書館にでも行って調べる必要があるな……。
「魔導師の登竜門……。私もいつか……」
ふと、ロリーナが小さくそう呟いたのが耳に入った。《聴覚強化》を解除している今、それが聞き取れたのは偶然だ。
運命と言えば陳腐に聞こえるが、だからこそ私はそんな彼女の言葉に、何かをしてやりたくなった。
ポケットディメンションを開き、白い石が嵌った指輪を取り出す。
そしてロリーナに歩み寄り、その指輪を差し出す。ロリーナは不思議そうに私の顔を見上げ、小首を傾げる。
「これは……」
「補助系スキル《光魔法適性》が封じられたスキルアイテム「光輪の指輪」だ。これがあればリスク無しで《光魔法》を練習出来る」
「そんな貴重な物を……私に?」
「君が習得出来るまで貸し出すだけだよ。終わったら返してくれればいい。私もいつか使いたいからね」
「ですが、私がいつ習得出来るか……。そもそも私に素質があるのか、分からないですよ?」
「君なら大丈夫だ。君には才能がある。私も手伝うし、なんなら君を参考にすれば私の習得にも役立つ。君にコレを貸す事に損はないよ」
私は彼女の手を取り、右手人差し指に指輪を嵌めてやる。指輪は彼女の細く美しい指にピッタリ嵌り、よく似合って──
「……なんだかプロポーズに見えなくもないな。君達」
「「──っ!!!?」」
男の発言が耳に入り、慌てて彼女の手を離す。
マズイ。そこら辺を何も考えていなかった。
少し出しゃばったか? 踏み込み過ぎたか? 油断していたか? 気が緩み切っていたのか?
彼女は? ロリーナの反応はどうだ? 嫌な反応をされていたら……。
横目でロリーナの顔を見る。
……一見、何の変哲も無く見えるが……。
気のせいで無ければ……。本当に若干、勘違いで無いのならば……。
顔を赤らめて──
「あーあー、すまなかった。余計な事を口にした。だからこの謎の空気をどうにかしてくれ居た堪れない」
……コイツ……。
「そもそもだな」
「うん?」
「当たり前の様に私達に混ざっているが、私達はオマエの名前すら知らないんだがな? そんな奴に横槍を入れられたくはないんだがな?」
「お、おぉ……、そうか。俺は名乗ってもいなかったな」
男は私達の前までわざわざ移動し、仁王立ちしてドヤ顔を決める。
「俺こそが! 男爵位を持つハッタード家が長男!! ティール・マドネス・ハッタードその人である!!」
「……ふーん」
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