序章:割と賑やかな日常-3
まずはエイス、クイネ、ジャックの三人。
コイツらは当然、マルガレンを引き取った時からの付き合いである。
マルガレンを引き取るあれやこれやを整える間に私と姉さんは二人でちょくちょく宿屋と教会を往復していたりした。
そのせいかエイス等三人は私と姉さんに慣れ、いつの間にか打ち解けていた。
特にエイスなんかは私に何度も再戦を挑み、負けている。一度くらい負けてやっても良いかもな、と考えもしたのだが、一々つまらない挑発をしてくるもんで、つい負かしてやりたくなる。
まあ、ワザと負けてやってもアイツは成長しないだろう。今では私を「クラウンさん」と呼ぶまでになっている。私より年上だったはずなんだがなぁ……。
クイネはあの時エイスに試合を止められたのが不完全燃焼だったのか、あの後結局姉さんと試合をした。
だがやはり普通に試合をしてしまうのはあまりにもあまりなので姉さんには更にハンデとして利き手でない左手だけで木剣を持ち、足元の円は更に小さくした状態での試合となったのだが、
結果としてクイネは姉さんに一撃も入れる事なく惨敗。クイネはクイネでこれだけのハンデを課させて惨敗した結果に寧ろ納得したのかスッキリした表情で姉さんを「お姉様」と呼ぶようになった。
まあ、あれだけ強くてカッコ良ければ女とて見惚れるだろう。
ジャックは……うむ、特筆すべき事はないな。エイスとクイネにくっ付いてばかりで余り自身から発言はしない。今思えばあの試合が一番アイツの本音を爆発させていた瞬間だったのかもしれない。
で、この三人が何故七年も経った今でも付き合いがあるのかと言うと、コイツら、わざわざカーネリアまで越して来たのだ。
なんでもあの三人、あの後結局引き取り手に恵まれず、エイスがあの教会の卒業年齢に達してしまった。それでエイスが独り立ちする為に働き先を探している際にここカーネリアに訪れ、領主である私達の元へ働き先を紹介して欲しいと頭を下げに来たのだ。
知らぬ仲ではないし、何より働き先が見付からずに犯罪に走られては目覚めも悪い。そう考えた私は父上に交渉し、彼にピッタリの職場を紹介してやった。
それを手紙で知ったクイネとジャックはなんとカーネリア行きの馬車にこっそり乗り込み、エイスを追いかけて来てしまったのだ。
そしてエイスと合流するや否や一緒に働くと言い出し、どこで覚えたのか土下座までして頭を下げて来たのである。
エイスもエイスで二人を見捨てる事が出来ず同じく頭を下げて来た。
父上はそんな彼等を寧ろ面白く思ったようで笑って残り二人にも仕事を紹介した。
そんな諸々があり、未だに彼等は私達と交流を持っている。まあ、私も別段彼等を疎ましく思っていたわけではないので何も構わないのだが、たまに調子に乗ったり領主の知り合いである事を吹聴するのでその度に戒めている。なるべく厳しく。
だが彼等はまだ良いんだ。まだ私も理解出来るんだ。
問題なのはもう一人、アーリシアである。
ぶっちゃけた話、当事者である私ですら何故七年もの付き合いになっているのか判然としない。経緯を説明すると──
「お疲れ様ですクラウン様!」
私が回想に耽っていると、そこに当人であるアーリシアがキラキラとした笑顔で私を労いに来た。
「ああ、うん、ありがとう。だがいい加減「様」付は止めてくれないか? 君にそんな呼ばれ方をする謂れも、立場でもない。」
「フフフ、相変わらず手厳しいですね。ですけど止めません! 私にとってクラウン様はそう呼ぶに相応しい方であると思っておりますので!! これ、「救恤の勇者」のお墨付きですよ?」
そう言うアーリシアに、私は苦笑いで返す。ホント、扱い辛い。外見は徹頭徹尾美少女なのに肝心なところで頑なだったり、変な所で適当だったり、私はこの子の考えが理解出来ないでいる。
そんな彼女に手を焼いていると、横で傍観していたマルガレンが水筒からアイスティーを私に差し出してくれる。
一言「ありがとう」とお礼を言い、アイスティーに口を付ける。美味い。
猛暑の中、激しい運動をした後に飲むアイスティーは身体の内側から熱を冷まし、スッキリした気持ちになれる。
味は正直、メイド達が淹れてくれる物には一歩遅れを取るものの、あのベテラン達にこの歳で追い付かんばかりなのだから驚かされる。
ホント、コイツを側付きにして正解だったな。
「む!? マルガレンさんにばかり構って私を蔑ろにするのはどうかと思います!!」
「別にそんなつもりはない。それはそうと、君、今日もウチに来ているけど、布教とか洗礼とかは大丈夫なのか?」
「私を心配してくれるのですね!? ああ、ありがとうございます!!」
「一々大袈裟だなまったく……。話が進まないんだが?」
「ああ、すみません、つい……。そうですねぇ……、一応は大丈夫、じゃないですかね? お父様にもそれっぽい事を言って来ていますし……」
「一応って……。頼むからしっかりしてくれ。君の父親は教皇なんだろ?そういう曖昧な行動一つ一つに肝を冷やすのはこっちなんだからな?」
私がそう言うと、アーリシアは目を丸くした後、露骨にシュンと落ち込む様子を見せる。
ああ、もう、こういう叱られた子犬みたいな反応を計算無しでやるから厄介なんだこの子は……。正論言ってるのは私なのに罪悪感が湧いて仕方がない。
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