序章:割と賑やかな日常-4
「……少し強い言い方をした、すまない。だが、ちゃんとして欲しいのは本当だ。君がそれをやるかやらないかで変わってくる。出来るか?」
私がそう言うと、アーリシアは少しだけ真剣な表情に変えて無言で頷いてくれる。ホント、手間の掛かる子だ。
そうそう、何故私がアーリシアと交流を持っているかだが、
あの時、私がエイス達と初めて試合をした後、私は教会でアーリシアとばったり出くわしてしまった。
それからというもの、彼女は事あるごとに私を構うようになってしまった。
当初その日に王都から教会本部へ帰らねばならなかったアーリシアは父親である教皇に精一杯のワガママを敢行。それに陥落した教皇は私達がマルガレンを引き取る為に王都に滞在する数日だけアーリシア達は滞在期間を延ばしたのである。
その話をアーリシア本人から聞いた時、私と姉さんはそれはもう肝を冷やした。
人類史上最大の宗教体系を築いた幸神教教皇にワガママを強いたという事実は、私に本当に頭を抱えさせた。
それからマルガレンを引き取る手続きが完了する数日の間、私達が教会を訪れる度にアーリシアは見計らった様に混ざりに来た。
マルガレンを引き取った後も、その幸神教教皇の娘としての権限をフル活用し、何かあれば理由を付けてわざわざ私に会いに来ていた。
何故私にそこまで構うのか?
その理由を本人は話さないが……まあ、なんとなくは分かる。
残念な事に、私は実年齢通りの精神年齢ではなく、純真無垢でも、察しの悪い人間でもない。
まあ、悪い気はしない。彼女は実際かなり美少女だし、色々と雑な面が散見するが、私に精一杯、献身的に尽くそうとしてくれている。それは良い、良いのだが……。
…………彼女が自身で発言した「救恤の勇者」というワード。
救恤とはすなわち「施し」を与えるという美徳の一つ。そしてそれは私が保有する《強欲》と対を成す。
彼女が私にどういった感情を抱いているにせよ、その割合は恐らく彼女の持つ《救恤》による影響が多く出ている可能性があるだろう。
だとすれば彼女が今抱いている私に対する想いも…………。
そして何より、彼女は自分を「勇者」であると言った。
彼女が「救恤の勇者」であるのであれば、その対である《強欲》を持つ私は、では一体なんなのか?
彼女から「勇者」である事を聞き、その疑問に至った私はすぐさま「勇者」について調べ、芋づる式にその実情を知った。
この世界には明確に「勇者」と「魔王」が存在する。
それもそれぞれ一人ずつなどと言ったことはなく──
人間、獣人、エルフ、ドワーフ、鬼族、天族、魔族。それと大昔に絶滅したとされる他の二種族。
その各種族に一人ずつ、それぞれ「勇者」と「魔王」が選別されるという。
その「勇者」と「魔王」に選ばれた〝証〟。それこそが七つの美徳と七つの大罪を冠したユニークスキル。
つまり私は人間の魔王。「強欲の魔王」というわけだ。
……………………。
私とアーリシアには、互いに互いを漠然と感じる謎の感覚がある。それは決して気持ちの良い物ではないが、何度か繰り返し対面していたせいか、はたまた感覚が麻痺したのか、今では弱い静電気が走る程度まで落ち着いてしまった。
今思えば、それは私とアーリシアが「勇者」と「魔王」の関係故だったと得心がいく。
私とアーリシアが出逢ったのは、恐らく運命だったのだろう。
そんな不確かなものを信じていた私ではないが、このファンタジーな世界で前世の常識を当てはめてはいけないと、私も学んだ。
そしてそれは、きっと私とアーリシアを今以上に掻き回すのだろう。
…………ごちゃごちゃと御託を並べたが、つまりは私とアーリシアは不倶戴天の敵同士。
世界が定めた交わらざる者同士。そんな私達が仲睦まじく今後やっていけるのか?
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