第五章:魔法の輝き-4
待つ事数十分。スクロール屋の扉を二回ノックする音が聞こえ私とメルラはそちらに振り返る。
「はいはぁーい、開いてるわよぉーー」
メルラがそう声を掛けると扉がゆっくりと開けられる。姿を現したのは腰の折れた老婆だった。
その姿はまさしく魔女。三角帽子こそかぶっていないものの、その全身を黒いローブで覆い、木で出来た杖をついている。
びっくりするくらい古典的でありふれた魔女である。
「アンタねぇ、年寄りに長距離歩かせるもんじゃないよ全く……。普通そっちから来るもんじゃないのかい?」
「うぅーん、それだと少ーし都合が悪いのよぉー」
「少しはこっちの都合も考えな! アンタいい歳してわたしに甘え過ぎだよ!!」
「えぇーーっ酷ーいっ」
うん、仲は良さそうだな。若干この中に入り辛い感じがあるが、まあ、放っておけばその内混ぜてくれるだろう。
そう思って二人を見守り十数分。
流石に長いわっ!!
私もしかして忘れられていないよな? メルラも趣旨忘れてないよな? いかん、そろそろ声を掛けねば日が暮れる。
「あ、あのぉ……、よろしいでしょうか?」
「え、あ、ああぁーーーっ!! ごめんなさぁーーいっ!! もぉー、リリーったら話が長いんだからぁー」
「何を言うか小娘が! 全く……、スマンのぉ、此奴に付き合うのは大変じゃろう?」
「あ、いえ、それを承知で訪ねてますんで……。それより……」
「ええ、ええ。わたしは〝リリーフォ・リーリウム〟。まあ、ここいらでポーションや薬草の栽培なんかを生業にしてるケチなババアだよ」
ほう、ポーション……そんなもんまであるのか。まったくこの世界は興味が尽きないな。というかリリーって……。いや、何も言うまい。
「初めまして、私クラウン・チェーシャル・キャッツといいます。本日は魔法を教えて下さるそうで……」
「まあ、この小娘に有無を言わせずって感じだがねぇ。だがアンタ……」
そう言ってリリーは私ににじり寄り、私の目を覗き込むように顔を近づけて来る。距離がグッと近づいたせいか、薬草と思しき薬の匂いが香って来る。
「良い眼をしてるねぇ……。とても五歳児とは思えない程の理知的で理性的な眼だ。こりゃ教え甲斐がありそうだ……」
リリーはそう言うとそのシワだらけの顔で満面の笑みを作り、懐から何かを取り出した。これは……ペンダント?
それはなんの変哲も無い菱形で形作られた木のペンダントだった。しかしそのペンダントの中央にはドコか見覚えのある模様が描かれており、少しだけ異様な雰囲気を醸し出している。
これは……。取り敢えず《解析鑑定》をしてみよう。
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アイテム名:火守りの首飾り
種別:スキルアイテム
概要:補助系スキル《炎魔法適性》を封印した首飾り。所持者に一時的にスキル《炎魔法適性》を付与出来る。一定期間所持していると封印されているスキルを習得出来る事がある。
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ほうほう! スキルアイテム? 見た目に反して中々凄い物なんじゃないか?
「これ凄いですね! 持っているだけで《炎魔法適性》が付くなんて……」
「ほう! 一発でこれを見抜いたか! コヤツに話は聞いていたが、どうやら本当にエクストラスキル《解析鑑定》を所持しておるようじゃのぉ。大したもんじゃ」
「いえそんな……。それよりこれを使う、ということで良いんですか?」
「おおそうじゃ。オヌシも知っておろうが、一日で魔法を習得しようなんてのは本来かなり無茶な話なんじゃ。それこそ飛び切りの才能と偶然と環境が揃わなくてはのぉ」
才能と偶然と環境……。改めて聞くとやっぱりかなり無謀なのか……。まあ、こればかりはなんとかするしかないのだが……。
「まあ、才能と偶然はどうしようもないとして、環境を揃えるだけならばなんとかなる。その内の一つがこの「火守りの首飾り」じゃ。《炎魔法適性》を持っていないオヌシでもこれさえあればリスク無しで魔法の訓練が可能になる」
確かにリスクを避けられるのはデカイ。単純に効率が上がるし、何より多少無理が出来る。まあ、時にはリスクを負わねば手に入らないものも存在したりするが、今はそんな悠長な事をしている場合ではない。使える手は全て使わねば。というか……。
「今更ですが、今日私が覚える魔法って……」
「そう、魔法系スキル《炎魔法》じゃ。魔法における基礎五属性の一つにして五属性の中で一番直接的な攻撃力を有する。そして何より、空間魔法、風魔法に次いで三番目に操作が難しい。これからの訓練は、厳しいぞぉ?」
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