第二章:嬉々として連戦-32
《究明の導き》に出たように、この
仮にこの
数センチの欠片でさえ金貨が七十枚〜百枚は軽く飛んでいく。それがこの
しかも《究明の導き》によればこの
つまりただでさえ貴重な
それが今、先述したように私の手元に十キロ以上分、こうして確かな重みを主張して存在している……。手に持っているだけでなんだか手が震えてしまいそうだ。
「なあ、クラウンっ! どうかしたのかっ!!」
唐突に、そんなティールの呼び声が若干放心していた私を現実へと引き戻した。
「……いや、なんでもない」
私は
「何はともあれ、これで五体の魔物、五箇所の魔力溜まりは全て解決した。何か意見はあるか? 大精霊」
『意見などあろう筈がありません。わたくしは皆様の側で、確かにそれらが解決するのを確認しています。きっと今頃コロニーでも全ての枷が外れ、久々に万全な状態での使命執行が可能となっている事でしょう。本当に、皆様にはなんとお礼を申し上げればよいやら……』
「礼なら明日の朝、約束していた件を叶えてくれれば十分だ。実際はそれ以上の収穫ではあったが、約束は約束だからな。キッチリ貰いに行く」
今回の一件で先程の
明日、本来の目的を達成し、漸く本当の意味でこの一件が片付く。
『はい。では明日の朝、コロニーでお待ちしております。その際は、わたくし達が出来得る最大のおもてなしをさせて頂きます』
大精霊はそれだけ言うと、その体を黄色に輝かせながら森の中へと消えて行った。
大精霊がこの場から居なくなった事で辺りは深夜の暗闇を取り戻し、一切の光が無くなる。
私は《暗視》があるから昼間のように明るく見えるが、三人は違うだろう。
そう思い私が《炎魔法》で明かりを点けようとする直前、ロリーナの指先に小さな光が灯り、大精霊と同等の光量で私達を照らし出した。
「《光魔法》……。有り難いがさっき散々使っただろう?たかが明かりの為に君が魔力を消費する必要は……、」
私がそこまで言うと、ロリーナは小さく首を左右に振った。
「実はさっきクラウンさんを治した時に《光魔法》を完全に習得出来たみたいなんです。今までと違って、なんだかまるで出来て当たり前みたいに使い熟せます。ですので安心して下さい」
「そうか。なら今は君に頼ろう。と言っても、直ぐ野営地にテレポーテーションで転移してしまうがな」
「顔が見えていると安心出来ますから」
「ああそうだな。おいっ!! シセラっ!! 帰るぞっ!!」
私がそう呼ぶと、茂みの中から元の猫の状態に戻ったシセラが何やら落ち込んだようにトボトボ歩いて来る。
「逃げられてしまいました……」
「いや。アンネローゼが消滅したから同時に消えたんだろう。お前の不手際じゃないさ」
「ですが……」
「寧ろお前は三人を守ってくれたじゃないか。感謝こそすれ叱責はせんよ」
「はい。ありがとうございます」
「ああ。それじゃあ帰るからお前も私の中に戻れ」
「はい」
シセラはそれだけ返事をすると赤黒い光球に変化し、いつものように私の胸中へ吸い込まれていく。
「じゃあ三人共、私に掴まれ。帰るぞ……と、危ない危ない。忘れる所だった」
三人が私の言葉に「まだ何かあるのか」と言いたげな表情を浮かべる。疲れているのは理解出来るが、そんな露骨に
「すまんな、直ぐ済む」
私はそれだけ言って既に塵と消えたアンネローゼの死体があった場所まで行き、剣を手に取る。
この剣はアンネローゼが私の《白灼一閃》をくらうまで離さなかった「白亜の硬剣」。
遺跡から発掘されたというこの剣は、最後の最後まで
しかも刀身内部にワイヤーの様な仕掛が内蔵されているらしく、刀身がバラけて鞭状になる
そんな剣をこのままここに置いて行くのは流石に勿体ない。
「素材が無い代わりだ。貰っていくぞ」
聞こえるはずも無い返事を待たず、私は白亜の硬剣を《
「待たせたな。じゃあ、改めて帰るか」
野営地に戻り、皆が寝静まった頃。
私は焚き火に当たりながら、先程手に入れた
……コイツの存在は、色々な意味で波乱を呼ぶ。
特殊な
だがそれにも増して多数の問題点がいくつか思い浮かぶ。
一つはコイツが〝私の手で〟創り出せてしまった事。
五箇所の高濃度の魔力溜まりという特徴な環境下で漸く一つ完成したコイツだが、それでも創ろうと思えば創れてしまう。
それがどういう事かと言えば、利用されかねない、という事だ。
勿論、私とてそう簡単に我が身を利用されるなどという失態を犯すつもりはないが、世の中には想像もつかないような強者がまだまだ居る。
身近な存在だと姉さんや師匠がそれだし、アンネローゼの記憶に出てきたアインハードという英雄にも勝てるかかなり怪しい。
そういった実力者が何らかのスキル、魔法によって私を洗脳、もしくは催眠なんて掛けて来たら対処が難しい。相応の耐性や抵抗力を身に付けなければならない。
だが現状、私はそれらに対抗し得る術を持たない。純粋なステータスや精神力勝負になってしまうだろう。
大した事の無い者が相手ならばなんとかなるかもしれないが、さっきも言ったように洗脳、催眠を得意とした強者相手にはそれでは不安だ。
だから現状、それらに対策が出来るまではこの
……とはいえ折角手に入った特別製の
やはり鉱石といえば武器だろう。今私の手元にある数ある武器にこの
それに加え今回討伐した魔物四体分の素材……。想像するだけでニヤけてしまうな。ふふっ。
まあ、とは言ってもそれら武器を作るのは全てノーマンだ。
今はただでさえ私の防具と新しい短剣作りを任せているのに、そこに更に大剣やら細剣やら大斧やら槍やらを持っていって「また作ってくれ」と言っても流石に無理があるだろう。
というか絶対呆れながらしこたま文句を言われる。職人だからやらないとは言わないだろうがな……。
本当ならノーマン以外の鍛冶屋に任せるのが一番効率的なんだが、探す気になれないんだよな……。あのレベルの職人はそうそう見付かるもんじゃないし。
それにあそこには「勤勉の勇者」であるモーガンも居る。最高の武器作りを依頼するのにあの店以上は無いだろう。
となると、やはり頼むしか無いか……。
手土産に高い酒いくつか持っていけば、なんとかなるか?念の為モーガンの機嫌も取っておかねばな。
ノーマンにこの
そうやって簡単に
いや、振動というよりは、波動……。それが断続的に私に響いてくる。
一体何事だと訝しんでいると、今度は私の《
理解が追い付かない中、取り敢えずと《
そこまで来て私は一つ可能性を閃く。
そしてこの
同じグレーテル……いや、元「暴食の魔王」を由来とした物だ。何かしら反応があっても不思議ではない。
……物は試し、か。
私は
すると
そんな
『アイテム種別「大槌」個体名「
『これによりアイテム種別「大槌」個体名「
『また、アイテム種別「
『確認しました。アイテム種別「大槌」個体名「
天声からのアナウンスの後、少しして鈍い光が収まると、そこにはいつもとは違う雰囲気を醸し出した
元々の体色であった暗黄色をベースに
……思っていた以上の変化に、正直どう反応して良いか分からない。
ただ余程相性が良かったのだろう。心なしか砕骨が嬉しそうな気がする。
……まあ、あくまでそう主観での話だが。
とはいえ強化された事に間違いはない。早速どうなったのか確認してみなくてはな。
そう思い、私は
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アイテム名:
種別:大槌
分類:リビングアイテム
スキル:《形状変化》《粉骨》《崩落》《激震》《飢餓》《魔力増幅》《魔力操作補助》《食魔の加護》
希少価値:★★★★★★
概要:
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ふむ。元々凶悪だったが、物騒さに磨きが掛かった感じだな。
特にこの《飢餓》というスキル。果たしてどんな権能なのか……。
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スキル名:《飢餓》
系統:補助系
種別:スキル
概要:ユニークスキル《暴食》の一端。相手を飢えさせるスキル。このスキルを発動、または付与された武器を使用し対象に攻撃を加えた場合対象を空腹状態にする事が出来る。空腹状態の対象に更に攻撃を加えた場合、空腹の度合いに応じて追加でダメージを与える事が出来る。
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成る程。《暴食》らしいスキルだな。その内私にも目覚めそうではあるが、まあ、無いよりは遥かに良いだろう。
それにしても「暴食の魔王」の性質が濃くなった、か……。現「暴食の魔王」である私に相応しいというか、これ私が
その内化け物化したグレーテルの様に一人でに動き出して敵やらを食い荒らしたり……。と、武器にそんな妄想しても詮無いな。
まあ兎に角、
今の内に何を強化するか考えておかねばな。量的に全部は無理だとして、ならば使用頻度の高い順に……。
ああ、それとアンネローゼから回収した「白亜の硬剣」。アレもノーマンに見て貰って、可能であれば内部機構を修理して蛇腹剣としての本来の機能の復活も……。
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「ぶぁぁっく゛しゅんんッッ!! チクショウめぇ……」
ノーマンの悪態を吐きながらのくしゃみに、モーガンは彼の方を振り返り小首を傾げる。
「どうしたんです師匠? 風邪ですか?」
「いんや、俺ぁ健康そのものよ。たださっき変な寒気っつうか、悪寒っつうか……」
「なんですかそれ。かなり不吉じゃないですか」
「なぁにが不吉だ。そんなもん俺の金槌で鍛え直して吉兆に変えてやらぁ」
「出来れば良いんですけどね……」
「ウッセェッ!! それよりおめぇ、手が止まってんぞっ! あのニイちゃんの事だ、そろそろ一回くらい顔出しに来るぞ? そん時にスゲェもん出来たっつって驚かしてやらにゃならんからなっ!!」
「いや今何時だと……、まあいいや。というか前来た時驚かされたからって驚かし合いわざわざしなくとも……」
「ウッセェウッセェ! とにかく手ぇ動かせ手ぇっ!!」
「……驚かし合い、勝てる気しないなぁ……」
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