第二章:嬉々として連戦-17
シュトロームシュッペカルプェンの鱗の下にある表皮に、クラウンの細剣が弾かれる。
それはシュトロームシュッペカルプェンが攻撃を捨て自身が持つあらゆる防御に特化したスキルを総動員した結果であり、鱗は勿論その下にある表皮に至るまで、最早金属をも凌ぐ頑強さを備えていた。
クラウンはそんなシュトロームシュッペカルプェンに苦い顔をすると弾かれた細剣をすぐさま手元に戻し、テレポーテーションでロリーナとユウナが居る場まで転移する。
「チッ……。アイツ、防御を固めだしたか」
「さっきまで鱗の下は柔らかかったのに……。どうするんですかっ!?」
「はぁ……。贅沢は言ってられないか」
そう言うとクラウンは細剣をポケットディメンションにしまい、《
「
「防御を固めたのなら斬撃より打撃の方が有効だ。体外にダメージが入らないから衝撃で体内を攻める」
「わ、私達は……?」
「魔力を節約しながら奴に嫌がらせをしてくれ。ダメージを与えられなくとも奴の攻撃を邪魔さえしてくれればいいし、数撃てば奴とて少なからず隙を作る。君等にはそれを頼む」
と言っても、三人でこうして軽い打ち合わせをしている間にもシュトロームシュッペカルプェンは攻勢には転じず、ただ愚直に防御に神経を集中させている。
「数は多い方が良いか……。シセラっ」
クラウンがその名を呼ぶと、クラウンの胸中から赤黒い光が飛び出し、猫の形を取る。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。最初は炎と爪が主体のお前じゃ相性が悪いからと待機させていたが、少し事情が変わった。奴の防御をなんとしてでも崩す」
「了解しました」
シセラは返事をした直後、その身体を何倍にも膨れさせ、筋肉を武装した大型肉食獣へと変貌する。
「よし。それじゃあ二回戦、始めるとしようか」
瞬間、クラウンは再びテレポーテーションで転移し、シュトロームシュッペカルプェンの頭上に姿を現す。
そしてそのまま重力と己の体重、そして遠心力を利用した
シュトロームシュッペカルプェンの鱗と
しかしシュトロームシュッペカルプェンの防御力は予想していたより遥かに硬く、クラウンの砕骨の一撃も余り効いてはいない。
「チッ……。ならば何度でもっ……。──っ!!」
そう呟いて改めて上空に転移しようとした瞬間、《危機感知》により自身に攻撃が来る事を察したクラウンは再び二人の居る場所に転移する。
するとシュトロームシュッペカルプェンが纏う《水魔法》の水槽からまるで先端が鋭利な水の鞭が幾本も伸び、先程までクラウンが居た場所に凄まじい勢いで群がる。
「クラウンさんっ!?」
「クラウンさん。貴方なら魔法を《魔力障壁》で分解出来るのでは?」
そんなロリーナからの指摘により、クラウンは思わず苦笑いを浮かべる。
「いや。アレはいわば切られた髭の代わりだ。あの水の鞭に電気を流しているから、《魔力障壁》で《水魔法》は分解出来ても魔法じゃない電撃は無理だ」
《魔力障壁》は自身の魔力を消費する代わりに接触した魔法を消費した魔力分だけ魔力に分解出来るスキル。しかしそこに流れている電撃までは、その範疇ではない。
流石に今のクラウンでは、電撃は防ぐ事は出来ない。
「……ユウナ、私が奴に突っ込む。奴が向けて来る水の鞭を《地魔法》で守ってくれ」
「えっ!? そ、そんな繊細な事を私がっ!?」
縦横無尽に攻めて来る無数の鞭をピンポイントで防ぎ切る。それはクラウンに向けられる鞭の動きを把握し、的確なタイミングで《地魔法》を発動出来なければ電撃の鞭がクラウンを襲うという事である。
「ああやるんだ」
「む、無理ですよっ!! あんな何本もある水の鞭を捌き切るなんて……」
「安心しろ。ロリーナには《風魔法》でその水の鞭を潰してもらう。数さえ減っていけばお前の負担もマシになるだろう」
「で、ですが……」
「大丈夫です」
ロリーナはそう口にしユウナに振り向く。ユウナも戸惑いながらそれに応える様にロリーナに振り向くと、ロリーナはユウナの両手を握り、真摯にユウナの双緑の瞳を見詰める。
「クラウンさんは出来ない事は言いません。ユウナになら出来ると、そう確信しているから託してくれているんです」
「そ、それでも……」
「自信がないのなら、クラウンさんを……そして私を信じて下さい。私達なら、なんとかしますから」
「……」
ユウナはそんな真剣なロリーナの
「すまないな」
「いえ」
「よし。それじゃあ……行くぞっ!!」
クラウンは宣言通りそのままシュトロームシュッペカルプェンに砕骨を担いで真っ直ぐ突っ込む。
するとシュトロームシュッペカルプェンは予想通り複数の水の鞭を操りクラウン目掛け群がる。
そんな水の鞭に目もくれず走るクラウンに電撃が放たれる直前、そこに一枚の石の壁が出現し水の鞭からクラウンを守る。
それを確認し不敵に笑ったクラウンは更にその足に力を入れ、まるで跳ねる様に疾駆しシュトロームシュッペカルプェンに迫る。
迫るクラウンに焦る様に水の鞭を仕掛けるシュトロームシュッペカルプェンだが、それを尽くユウナの石の壁が防ぎ、クラウンに不発した水の鞭が次々とロリーナの《風魔法》によって蹴散らされる。
そうして水の鞭が減り続け、クラウンがシュトロームシュッペカルプェンに肉薄する距離にまで到達した瞬間、シュトロームシュッペカルプェンはその身に纏う《水魔法》に電撃を放つ。が、その瞬間──
「来いシセラっ!!」
クラウンはスキル《召喚》を発動。シュトロームシュッペカルプェンの眼前にシセラが召喚される。召喚されたシセラはその柔軟性を活かして心身を翻すとシュトロームシュッペカルプェンの目線にまで迫り、片目に対して《
シュトロームシュッペカルプェンの切り裂かれた目は煙を上げながら血を吹き上げ、身体を苦しそうに捻る。
その瞬間シュトロームシュッペカルプェンの《水魔法》や様々に展開していた防御系スキルの制御が一瞬乱れ、今までで最も大きな隙が生まれる。
「行くぞ
その隙をクラウンは狙い澄まし、
泥が辺りに派手に散乱し、纏っていた《水魔法》はまるで霧として霧散するように魔力となって大気に融け出す。
それを
「……えっ? お、おわぁっとっと……」
「よくやった。完璧だったぞ」
「あ、は、はい……」
「褒美に後で好きな物を買ってやる。取り敢えずそれを飲んで休みなさい」
「は、はいっ」
複雑な表情を浮かべるユウナはそのまま渡された魔力回復ポーションを飲む。するとシュトロームシュッペカルプェンに視線を移したクラウンの隣にロリーナが並び立ち、同じようにシュトロームシュッペカルプェンに目をやる。
「わざわざこちらに戻って来た、という事は……」
「ああ……。あの鯉、私の予想を越えるタフさだ。まったく疲れる……」
泥中に沈んだシュトロームシュッペカルプェンは、弱々しくはあるもののまだ息絶えてはおらず、まるで何かの執念すら感じる程にもがき続けている。
「クラウンさん」
「ああ。今から復帰されても敵わん。さっさとトドメを……ん?」
クラウンが改めて
その影はかなり大きな物で、辺り約二十メートル程を暗く覆い尽くした。
クラウン達が頭上を見上げてみると、そこにあったのは目を疑わんばかりの巨岩が、ゆっくりゆっくり宙を泳ぐ姿が目に映る。
「……はっ?」
クラウンが思わず気の抜けた声を漏らすと、巨岩はシュトロームシュッペカルプェンの直上にまで浮遊していき、その場で静止する。
「……まさか」
次の瞬間、黒い影を独り占めしたシュトロームシュッペカルプェンの直上にあった巨岩は突如重力を取り戻し、自重と重力に任せてそのまま落下。シュトロームシュッペカルプェンを更なる泥中に沈めながら盛大に泥の波を生み出して轟音を上げる。
「あの馬鹿野郎……」
泥の波は少し離れたクラウン達の元にまで迫る勢いで噴き上がり、それを避ける為クラウンは皆を伴いテレポーテーションでティールの元に転移する。すると、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ、はぁ……はぁ……」
そこには今にも死にそうだと言わんばかりに息を乱し仰向けに寝転がるティールの姿があった。
「お前……」
「え? ……お、おお、おかえり……」
「はあ……。確かに頭上に岩でも落とせとは言ったがな……」
クラウンがそこまで言うとティールは疲労困憊の顔でニヤケる。
「どうよ……。お、俺だってやりゃ、あれくらい出来んだぞ、チクショウ……」
「まあ、良いトドメにはなったろうが……」
改めてクラウンは巨岩が沈む湖底に目をやれば、当然そこには下敷きになっているであろうシュトロームシュッペカルプェンは見えず、最早生きているのかさえ分からない。
「ったく。死んでたらスキル
「んえ? なんだって……?」
「……はあ……」
クラウンは無造作に魔力回復ポーションをティールに投げ渡すと、そそくさとテレポーテーションで巨岩の元に転移した。
ティールが生み出し落下させた巨岩を《収縮結晶化》でその場にある魔力溜まりと一緒に魔力として回収しながら、クラウンは泥中に沈むシュトロームシュッペカルプェンを掘り出しに掛かる。
《精霊魔法》で十数分程掘り返していると漸くシュトロームシュッペカルプェン特有の鮮やかな朱色と黒の斑の鱗が見え始める。
そこから更に十数分掛けてシュトロームシュッペカルプェンを完全に掘り出すと、微かにだがまだシュトロームシュッペカルプェンに息がある事を確認し、クラウンはホッと胸を撫で下ろす。
「泥のお陰か、直前でまた防御系スキルを発動したのか……。まあ分からんが、取り敢えずこれならスキルが奪れる」
クラウンはシュトロームシュッペカルプェンの眼前に歩み寄ると、わざわざ
「お前が見た目より賢いのは戦って分かっている。言葉を解さないままで理解しろ」
そのまま《威圧》、《覇気》、《恐慌のオーラ》を全て発動し、シュトロームシュッペカルプェンにいつもの脅しを掛ける。
「私に無理矢理痛め付けられながらスキルを奪られるか、それとも全てのスキルを明け渡して楽に死ぬか……。さあ選べ」
クラウンはそこまで言ってシュトロームシュッペカルプェンの額に手を置くと、クラウンは自身に魔力が繋がるのを感じる。
そして繋がった魔力から、力の奔流が流れ込み、クラウンの魂へと定着していく。
『確認しました。技術系スキル《釣術・熟》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《水泳術・初》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《水泳術・熟》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《緊縛術・初》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。技術系スキル《根倉隠し》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《釣餌理解》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《入れ食い》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《水流理解》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《水陰の泳法》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《激流の泳法》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。補助系スキル《防御補正・III》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《命中補正・III》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《持久力強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《瞬発力強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《柔軟性強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《遠近感強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《環境順応力強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《側線強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《鱗強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《瞬膜強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《鰭強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《浮き袋強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《発電器官強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《遠聴》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《水流抵抗軽減》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《物理障壁》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《堅鱗》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《鋭鱗》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《鋭鰭》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《雷撃》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《感電》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《寒冷耐性・小》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《電撃耐性・小》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《斬撃耐性・中》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《刺突耐性・中》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《貫通耐性・中》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《魚類特効》を獲得しました』
全てのスキルが魂へ定着した時、クラウンはその場で高笑いを上げた。
「ふはははははははははッ!!」
「……ああ、また笑ってるよ、アイツ」
「はい。とても嬉しそうです」
「にしたって笑い方があるだろ……。なんだよあの悪の親玉みてぇな高笑い。怖ぇわ」
「それがクラウンさんの心からの笑いなのでしょう。私は寧ろあの笑い声を聞くと、少し安心します」
「えっ!? なんでっ!?」
「隙の殆ど無いクラウンさんがあれだけ笑えるのは確実に勝利を手にした時ですから」
「ん、んん……成る程……」
「それに……」
「ん?」
「クラウンさんから感じられる、人間っぽさ、でもありますから」
「ああぁ……。ははっ、そうだな。スキルのせいでアイツ、最早人間辞めてるからなぁ……。笑わなくなったら、いよいよだな」
「……あのぉ……」
「──? なんだよユウナ」
「私ちょくちょく話に全く付いて行けないんですけど……。あれ倒したから笑ってるんですよね?」
「う、うーん……。まあ、間違っては、いないかな」
「なんですかその中途半端な反応っ!?」
「いやまあ、俺からもロリーナからも詳しくは言えないからな……。条件整えばアイツから話すんじゃないか?」
「なんですかそれ……」
「まあとにかくっ。今は気にすんなって」
「うぅ……モヤモヤだけさせて意味が分からない……」
「…………」
ロリーナは未だ高らかに笑うクラウンに視線を移し、ほんの少しだけ微笑み、小さく呟く。
「いつまでも、笑っていて下さいね」
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