第三章:傑作の一振り-8

 翌朝。私達は全員でパージンの商店街を歩いていた。


 すれ違うのは勿論私達を含めた人族が大半だが、その次に多いのがドワーフ。たまに獣人もいるといった具合だ。


 ドワーフは今日初めて見るのだが……。想像よりも身長が高い。見た目的には想像していた通りのたっぷり髭を蓄えたガタイの良い職人顔なのだが、背の高さは人族の成人と大して変わらない。


 それにドワーフの女性も、普通に褐色肌で溌剌はつらつとした綺麗目の見た目だ。声音は……聞く限りは割とハスキーに聞こえる。


 どちらとも前世からの引き摺っていたイメージとは違う様相。特に女性に関しては人族でも人気が出そうな感じである。


 まあ、それはさて置いて……。


 剣を作ってくれるというドワーフが店を構えている場所はこの商店街の先の先、奥の方でこじんまりとやっているらしい。


 それならばと私達は商店街を一通り見て回りながら最後にそのドワーフの店に行こうと考えた。別にあちらからの時間指定はされていないし、非常識な時間帯でさえ無ければ問題ないだろう。


 しっかしまあ、


 そうして商店街を見回すが、はっきり言って若干私は呆れている。何にそんなに呆れているのかと言えば……。


「商店街の筈なのにバリエーションが無い……。というか鍛冶屋と石材製の家具屋ばっかりじゃないか……」


 いや、分かるには分かる、理解は出来る。そりゃ、豊富な種類の石材や鉱石が産出するこの街にとってはそれこそ重要な名産品だ。


 だがだからと言って商店街に入って既に視界内に鍛冶屋が三つに石材家具屋が二つは過剰だろう。余りにもバランスが悪い……。こんなんで成り立つのか?


「そうですねぇ……。私が聞いた話だと、鍛冶屋にしろ石材家具屋にしろ、店によって特色が大きく異なるみたいなんです。例えばあの石材家具屋。あの家具屋は希少な「豹紋大理石」を主軸にした店。あの鍛冶屋は斧系統であればこの店に任せれば間違いなし。専門分野の細分化……、という解釈で宜しいかと」


 そう私に教えてくれるカーラット。昨夜は私達が部屋で各々寛いでいた中でこの街の情報を片っ端から調べ上げに行ったと同室だったマルガレンから聞いた。そうやって私達に万が一にも身の危険に遭わないよう気を配ってくれている辺り、優秀な人材なのだと再認識する。


 そんな商店街を歩く事数十分。隣を歩くアーリシアがとある店を見つけ、その店へ歩を向けようとする。


「おいアーリシア。余り勝手に動き回るな」


「あ! はい、すみません……。でもあのお店が気になって……」


 アーリシアが指を指した店は、この商店街では初めて見る店。なんとなく他の店より古めかしく、また奇妙に薄暗い。そんな怪しい店の小さな吊るし看板を見てみると、そこには「雑貨屋・引摺る磁石」という、奇天烈なネーミングセンスの店名が刻まれていた。なんだ引摺る磁石って……。


 私としては余りああいった怪しさ満載な店は遠慮願いたいのだが、アーリシアは無言で私を見詰めて来る。何がそこまでさせるんだ。


「そんなに寄りたいのか?」


「はい。私、雑貨屋大好きなんです!」


 だからってあんな店にまで寄らんでも……。


 本当なら一人で行かせて私達は別行動すれば済む話なのだが、馴染みのない街で単独行動をするのは余り宜しくない。ましてやアーリシアは教皇の娘……。単独行動など以ての外だ。


 ……仕方ない。


「分かった寄ろう。ただし何か一つでも異変を感じたら直ぐ出て行くからな?」


「はい! ありがとうございます!!」


 まったく……私も甘い……。ただまあ、ああいった店には意外な掘り出し物があったりする場合がある。確率は低いが、まあ、何も期待しないよりはマシだろう。


 そうして私達はその怪しい雑貨屋へと立ち寄る。


 ドアを開けると小さくベルの音が店内に響き、外の明かりが薄暗い店内を照らす。


 中は……。なんというか、狭くはないが、本当に雑多に物がひしめいている。


 種類毎に分かれていたり、特定の年代を意識した棚作りを行うなどは一切無く、本当に適当に、最低限物が重ならないように配慮しただけの陳列である。


 最早客に物を買わせる気があるのかと疑問に思う程の有り様だが、アーリシアはそんな事を御構い無しに店内の物色を始める。すると、


「んお? あぁ……いらっしゃい……。ってなんだぁ? 見ない顔ぶれだな」


 そう言葉を発し店の奥から現れたのは初老の人族の男。白髪の混じった頭髪に苦労皺が走った彫りの深い顔の厳つい店主である男はそのまま欠伸あくびをしながら接客を始める。


「あぁー、悪いな。ここはあんま観光客向けのモンあんま置いてねぇんだ。どちらかと言やぁ玄人向けのモンが置いてある。所謂いわゆる〝分かる奴には分かる〟品だけだ」


 接客にしてはぶっきらぼうで適当ではあるが、無理矢理適当な物を買わせに来ない辺り常識的な人間ではあるのだろう。


 ただそんな店主の助言も何処吹く風か、アーリシアは様々な品を手に取っては掲げて見たり揺すって見たりをして楽しんでいる様子。


 まったく……。


「おいアーリシア。この店は観光客向けじゃ無いんだと。何か買わないなら帰るぞ」


 そんな私の声にアーリシアは慌てて念入りに品物を物色し始める。


 そうして数分、いい加減店主からの視線が痛くなりだした頃。


「あっ! これ!! これ良いかも知れません!!」


 そう言って興奮した様に掲げたのは……。


「……なんだそれ? 仮面?」

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