第五章:正義の味方と四天王-13

 

「ロセッティ……アンタ……」


 過重力下の中、ヘリアーテは自身の身を守ってくれた少女──ロセッティに戸惑いの視線を向ける。


 たった数十分前に知り合ったばかりで、決して第一印象は良くなかったと自己判断し、半ば無理矢理来たくもないこの場に連れて来た自分に対し、何故彼女は身を挺してまで自分を守ってくれているのか……。


 何故彼女は、自分の様な厄介者を〝友達〟と呼んでくれているのか……。


 数多の疑問符が脳内を埋め尽くしただただロセッティを見つめるしか出来ないでいるヘリアーテは、自身に降り掛かっていた過重力が突如として消失した感覚によってハッと我に帰る。


「そら。さっさと向こうに行きなさい。次は彼女の番だ」


「わ、たしは……まだ……」


「嘘は良くない。幾ら君に怪力が備わっているからといって持久力まで備わってはいないだろう? あの重力下で地に伏す事なく膝を折るだけで耐えていたんだ。君の体力はとうに限界を迎えている」


「くっ……」


「それに強がってはいるが、内心じゃそれ所じゃないだろう? まあ、私は二人同時でも構わないぞ? ただこの場合、君は彼女の足を引っ張るしか出来ないだろうがね」


「……」


 ヘリアーテは全身の筋肉疲労に耐えながら立ち上がろうとすると、周囲に展開していた激流の槍も解除され、自由に身動きが取れるようになる。


 そしてそのまま重たい身体を強引に動かしながら三人が待つ場所まで向かおうとし、ロセッティとすれ違うタイミングで足を止めた。


「お礼は……後にするわ。一つ、借りが出来ちゃったわね」


「そんなの良いから、早く休んで。辛いでしょ?」


「この程度へっちゃらよっ! ……ただ」


「ただ?」


「私の渾身の魔術をまともに受けといて平然な顔されて、オマケにそれ利用されて不覚を取ったって事実で、今酷い無力感だわ……」


「ヘリアーテちゃん……」


「……仇……は、難しいかもしれないけど、頑張ってね」


 ヘリアーテは無理矢理笑って見せると、そのままロセッティを通り過ぎ、クラウンの横を差し掛かる。


 その時ヘリアーテは思わずクラウンから目を逸らすと、彼は溜め息を吐いて──


「〝テニエル〟の名が泣くぞ。格好だけでもシャキッとしなさい」


 その呟きに思わず振り返ってクラウンを見るが、彼はもう振り向きもせずにただロセッティを鋭く見据えている。


 ヘリアーテはその言葉を受け、自身の無様な姿と心が折れてしまった事への悔しさで血が滲みそうな程に唇を噛み、痛む背筋を無理矢理伸ばしてその場を後にした。


 そんなヘリアーテのたまれない後ろ姿に心配と憂いを覚え、彼女をあんな目に合わせたクラウンを睨み付けると、彼はその目を堂々と受け止める。


「少しくらいなら質問タイムを設けてやる」


「……なんで、こんな事を……」


「最初にも言った筈だ。君等の心を折りに来た」


「だからなんでっ!? 貴方の肩書を確かなものにする為っ!? それとも自己顕示欲っ!?」


「否定はせん。だが本質ではないな」


「何よ……それ」


「ヘリアーテにも言ったが、全員を相手にしたら話してやる。質問は終いか?」


「……」


 どこか不服そうに口を真一文字に結んだロセッティは何かを諦めた様に目をつぶると腰にいていた短い杖を取り出して構える。


「名を聞こうか」


「……ロセッティ・ゲイブリエル・ドロマウス。わたし、今少し怒ってるよ……」


「ほう……。これは骨が折れそうだな」






「大丈夫かい?」


 好青年がどこかぎこちない歩みで戻って来たヘリアーテに優しく声を掛ける。


「……うん。大丈夫」


 しかしそんな好青年の言葉も、今のヘリアーテにはただ虚しく響くだけで慰めにはならなかった。


 好青年もすぐにそれを理解したのか、少し寂しそうにしながらも笑顔で「なら良かった」とだけ小さく口にする。


「悔しい負け方したねぇ〜。ボクだったら君みたいに毅然と出来たかどうか……」


 彼女を迎えながらそうニタニタと言うグラッドに対し、ヘリアーテは彼をキッと睨み付ける。


「それはどういう意味かしら?」


「ごめんごめんっ! 煽ってるんじゃないんだ。ただ本当に、ボクには出来ないなっ、てさ」


「……ふーん」


 今までの軽薄な態度とは違う諦観した様なグラッドの様子に、ヘリアーテはそれ以上何も言わずその場に座り込んで正面を見据える。


 その先には何やら話し込んでいるロセッティとクラウンの姿があり、ヘリアーテは鬼気迫る雰囲気を見せるロセッティを見ながら考える。


 何故彼女が自分の為にああも直向きに感情を露わにしてくれるのか?


 今日会ったばかりの自分に、なんで?


 ヘリアーテの頭の中は、クラウンに惨敗した事実と同じくらい、その疑問に支配されていた。


 だがそんな風に自分の為に怒ってくれている彼女に、ヘリアーテは何処か居心地の良さも感じていて、それが彼女の折れた心を僅かばかりだが支えてくれていた。


 その思いからか、ヘリアーテは思わずロセッティに対して小さく呟く。


「……頑張りなさいよ。ロセッティ」


 その言葉を皮切りに、ロセッティの周囲に魔力が渦巻いた。






「風氷逆巻て雲を成し、仇為す敵の眼界遮らん……フロストカーテンっ」


 そう唱えたロセッティとクラウンの周囲に冷たい風が流れると、辺りを濃い霧が立ち込み始め、近かった二人の間ですら互いを視認出来なくなった。


「な、なんだぁ? あの霧は……」


 突如として発生し、二人を包み込んでしまった霧に驚愕したディズレーに、好青年は感心したように頷く。


「《地魔法》と《水魔法》の複合魔法氷雪魔法による濃霧の魔術だね。これであの人は彼女をまず探し出す所から始めなければならなくなった」


「だ、だがよぉ。アイツは魔法を消しちまえるんだぜ?」


「うんうん。それにアレじゃあ彼女もアイツを見つけられないじゃないか」


「……いや、そこは恐らく問題にはならないよ」


 そんな二人の率直な疑問に対し、好青年は自論を述べる。


「断定は出来ないけど、あの魔法を消してしまうスキルには範囲があるんじゃないかな?彼がそれを発動したタイミングはいずれも彼の周囲に魔術が展開された時だった」


「つまりはアイツの周りだけ、魔法とか魔術が消せるってか?」


「うん。仮に使えるのが自分の周囲数メートルが限界だったとしたら、あの濃霧は尚も効果を発揮出来る。消した所であの広がる濃霧全ては消せないからね」


「じゃあ彼女がアイツを見付けられないってのは?」


「簡単な話だよ。あれは彼女自身が発動させた魔術だろう? そんな魔術の中で発動者本人も相手を見失う、なんて間抜けな事あるかい?」


「た、確かに……」


「手段は考察するしかないけれど、きっと彼女はあの中で彼を的確に捉えられる手段を持っている筈だ」


 好青年の説明は正しく、ロセッティはこの濃霧の中でもクラウンの居場所をハッキリと捉える事が出来ていた。


 それは周囲に展開されている濃霧を形成している極小の氷の粒一つ一つが彼女に魔力の糸として通じており、視界にではなく感覚でクラウンの姿を濃霧の中で感じる事が出来ている。


(確かに消されたら感知も難しくなるけど、それならそれで消えてる所にあの人が居るって言っているようなもの。何も変わらないわ)


 濃霧の中、ロセッティは全神経を濃霧に集中させると、未だ動きを見せないクラウンに狙いを定め、無数の氷柱を彼の上空に作り出す。


躊躇ためらいは捨てなきゃ……。わたしなんかが躊躇って勝てる相手じゃない。常に最善を──常に容赦無くっ!)


 覚悟を決めたロセッティは、そのまま上空の氷柱をクラウン目掛けて落とす。


 それも自由落下に頼るのではなく、彼女自身の魔力操作で十二分に加速を付けてから真っ直ぐに。


 クラウンはそんな氷柱に対し《炎魔法》で傘を作り対抗しようとするが、彼の炎が氷柱を溶け切らす前に氷柱が傘を貫通し、クラウンに次々と降り注ぐ。


 一つが彼の太腿に、一つが彼の肩に、一つが彼の背中に刺さっていくのをハッキリと感じ取り、その現実に気圧いそうになるも、彼女は手を止めようとせず、防ぎきれずに次々と氷柱の的になっていくクラウンを捉え続けた。


(容赦しちゃダメっ! 容赦しちゃ……)


 そう自分に言い聞かせながら一心不乱に氷柱を降らせ続けて数十秒。十数本という氷柱が刺さったクラウンがその場に倒れ、僅かにしか動けなくなった姿を捉える。


 しかし、ロセッティはそこで氷柱を止める事はしなかった。


(ダメ……。さっきみたいに死んだフリかもしれないっ……! やるなら……やるなら、ちゃんと……)


 うつ伏せに倒れたクラウンの背中に更に氷柱が刺さっていき、這う様に動いていたクラウンの動きが完全に止まる。


 そこまでして漸く氷柱を降らす事を止めたロセッティは、だがそれでもクラウンの動かなくなった姿を警戒した。


(死んだフリ……。それとも偽物? どっちっ!?)


 勘繰るロセッティとは裏腹に、クラウンはそこから微動だにせず、また濃霧の中を幾ら探そうと他の気配など一切探れない。


(……勝……った? こんな、アッサリ?)


 有り得ない、とロセッティは更に勘繰る。


 今まで見てきた彼の戦い方、能力を鑑みてもこの程度で終わるなど考えられない。


 また先程から感じている彼の存在も、余りに露骨に感じられてしまい嫌な予感がこびり付いて離れない。


 自身でも理解しているのだ、この戦法は幾らでも対処のしようがあると。


 氷柱が当たらない様駆け回ったり濃霧の範囲外に出るなる範囲的な魔術を使うなり、幾らでもある。


 ならそれをせずただ棒立ちのまま氷柱に身構え、防ぎ切れずに倒れるなど余りに御粗末。戦い方を知らない一般人でももっとマシな抵抗をする筈。


 ただ、それを彼はしなかった。


(違う……。考えるのよ……。こんな違和感ばかりの状況が、しっくり来るような状況になるには何が……)


 ロセッティは改めて濃霧の中の気配を探る。しかし幾ら探しても他の気配など発見出来ず、ただ倒れて氷柱の山と化しているクラウンの姿だけが知れた。


(この濃霧の中、わたしに感知されずに動き回るのは不可能に近い……。例え気配が消えようと、倒れて姿が消えようと、濃霧の中を移動する限り必ず…………濃霧の中、なら……)


 濃霧の中ならば、彼女の言う通り例え気配や体温、存在感を消そうと必ず感知出来る。


 しかし、濃霧の中なら話は別だ。


「まさかっ!?」


 思わず口を吐いてそう言った瞬間、彼女の背後の地面が急激に隆起を始めると、地を割って手が伸び、それを支えにして地面から身体を這い上がらせるクラウンが姿を現す。


 咄嗟に振り返るロセッティだったが既に遅く、乱暴に首を掴まれるとそのまま持ち上げられてしまう。


「ぐっ……」


「素晴らしいな、良く気が付いた。もう少し早ければ私を迎え打てたものを……。惜しかったな」


「どう……やって……」


「君があんまりのんびりと詠唱を始めたものだからね。どんな魔術か先読みしてコピーゴーレムに身代わりになって貰ってから地面に潜ったんだ」


「なっ!?」


「いやはや、苦労したよ。なんせ地面など潜った事が無かったからね。だが君の濃霧を掻い潜るにはああする他無かった。まあ、苦労した甲斐はあったかな」


「そ、んな……」


「さて、ここからどうする? アッサリ降参してしまうかい?」


「……だ……が……」


「ん?」


「誰が……降参なんてぇっ!!」


 瞬間、ロセッティは首を掴むクラウンの手を掴み返すと魔力を集中させ、彼の手を急激に凍結させていく。


 そして完全に凍結し切ると、首を掴んでいた手は持ち上げられているロセッティの体重に耐え切れなくなりひび割れ始め、遂には手首から完全に折れてしまい、彼女は首を掴まれたまま地面に落下する。


「くっ……!」


 凍結され、手首から先を失ったクラウンが思わず後退ると、ロセッティは咳き込みながら杖をクラウンに構え、大きく息を吸う。


「大河凍てつき栄は廃れ、震える命にトドメ刺すっ! 其は極寒の猛威の刃也っ!!」


「チッ!!」


 クラウンはロセッティの詠唱を耳にすると自身の周囲に《炎魔法》による壁と《地魔法》による壁の二重壁を展開させ防御を固める。


凛冽の刃撃クリンゲフォンケルトっ!!」


 ロセッティの杖から放たれたのは純白の刃。


 周囲に展開されていた濃霧を切り裂きながら真っ直ぐクラウンに突かれた刃は、硬い岩盤の様な壁も、燃え盛る豪炎の壁も難なく貫き、その先に居るクラウンの腹部に突き刺さり、貫通する。


 そして刃はそのまま傷口からクラウンの身体を凍結させ始めると瞬く間に全身を凍り付かせ、まるで、氷像の様に微動だにしなくなる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 息を乱し、その場に座り込むロセッティ。


 先程放った凛冽の刃撃クリンゲフォンケルトは、彼女が使える最大の魔術であり、最も魔力を持っていかれる魔術である。


 既に周囲に濃霧を展開し、数十もの氷柱を降らせた彼女の残り魔力量はこの最後の魔術によって風前の灯火となり、その反動により濃霧が徐々に晴れて行く。


「や、やった……」


 彼女は目の前で氷像と化したクラウンを見やり、緊張から解放されたように晴れた天を仰ぐ。


「やった……!! 勝っ──」


「と、言うには少し早い」


 言葉が脳に突き刺さる。


 そんな感覚を覚えたロセッティが振り返ると、そこには何事も無かったかのような出で立ちで笑うクラウンが立っていた。


 何が起きているのか分からないと言いた気なロセッティに対し、クラウンは先程氷像の方を指差す。


 それに従うように恐る恐る改めて氷像の方を見てみれば、そこあるのはクラウンの姿ではなく、ある程度形が整えられた土人形が虚しく氷漬けにされている姿であった。


「な……んで……」


「地面に潜った……と言ったね?」


「え……?」


「あれは〝嘘〟だ」


 満面の笑みで言うクラウンに、ロセッティは背筋を凍らせる。


「あの短時間で地面に潜るのはいくら私でも難しいよ。流石にね」


「で、でも……」


「地面から出て来たように見えたろう? アレは地面から出て来たのではなく、〝あそこから作り出した〟に過ぎないんだよ」


「じゃあ……アナタもわたしの位置を……?」


「当然だろう? 確かに君の魔力が充満するあの濃霧の中を探るのは骨が折れたが、不可能じゃあない」


 全てがロセッティの魔術である濃霧は彼女の魔力そのものであると同義であり、そんな中を《魔力感知》で見つけ出すのは困難であり、また《熱源感知》では周囲が寒すぎて機能せず、《空間感知》や《動体感知》、《気配感知》も、彼女の支配する濃霧の中では効果が薄かった。


 だが二つだけ、彼女を捉えた感知系スキルがあった。


 それが《精神感知》と《生命感知》である。


 《生命感知》は言わずもがな、周囲に居る生命体であるロセッティを捉える事が出来た。


 しかしこちらも機能はしたものの、やはり彼女の濃霧に阻まれてか効果は薄く、漠然とした位置を確認出来るのみ。


 決め手となったのは何よりも《精神感知》であった。


「君が私に怒りの感情を向けてくれていたお陰ではっきりと君の居場所が分かったよ。ふふふ。感情的になるのも、考えものだね」


「な、ならアレはっ!? 氷柱に刺さって……倒れ、て……。まさか……」


「そう。あっちが今ここにこうして立っている私だ。二回連続で死んだフリをするのも芸が無いとは思ったんだが、あの濃霧じゃあ下手に動けなかったからね」


「な、なんでっ!? 確かに身体中に何本も刺さって……」


「……《氷雪魔法》を使えるのは、君だけではない」


 そう言うとクラウンは手の平に魔力を集中させ始め、一つの氷の礫を作り出して見せる。


「──っ!?」


「この間習得したばかりでな。まだまだ練度が低いが、君の氷柱に紛れ混ませて私に降らせ、刺さったフリをするくらいは容易い」


 あの時、ロセッティが降らせた無数の氷柱の中には、クラウン自身で作り出した氷柱が混じっていた。


 そして降って来る氷柱達の中で、ロセッティ製の氷柱が自分に当たりそうな場合は炎の傘で溶かし切り、クラウン製の氷柱は炎の傘を貫通し、身体に刺さったように見せ掛けていたに過ぎなかった。


 それがあの氷柱での攻防による顛末である。


「君はあの時視界ではなく濃霧から伝わる魔力の繋がりで私を感知していた。故に細かな違和感までは分からなかったんだろう? それにあの時の君は私に攻撃するのに夢中だった……。本当なら紛れ込ませていた氷柱にも気付けた筈なのにな」


「そんな……」


「まあ、そんな手間を掛けなくとも、素直に突き刺さってあげた方が確実ではあったんだがな。あの程度じゃあ、私は死なないし」


「なら……なんで……」


「君の魔術の未熟さを伝える為……と言えば格好が付くんだろうが──」


 クラウンはそこで区切ると、その場で一回転して見せ、埃を払うように着用している制服を叩く。


「この制服もタダではない。穴を空けたら直さなければならないし、何より穴だらけの制服など格好悪いだろう?」


 クラウンだけに着用を許された蝶のエンブレムの漆黒の制服は特注品であり、他の制服と比べ頑丈に作られている反面、傷が付いたり穴が空いたりすれば相応の金額が飛んで行く。


 この前もユーリに腹を刺された際に空いた穴を塞ぐのに銀貨が飛んでいった事を、クラウンは少しだけ気にしていたのだ。


「無駄に傷を増やして金が飛んで行くなど無駄金だからな。それにロリーナにも叱られてしまう」


「は……はは……」


「で、だ。見たところ残り魔力量は微々たるもの。私は降参を勧めるが?」


「……」


「それともアレかい? 意外にも君は体術や武器術に優れていて、今度はそっちでやり合うかい? 私はそれでも構わ──」


「なら僕が受けよう」


 ゆっくりとした足取りでクラウンとロセッティに歩み寄り、クラウンの言葉を遮ったのは好青年。


 クラウンはそんな好青年に視線を移すと、わざとらしく笑って見せる。


「それは、つまりどういう意味だ?」


「武器術での戦いでも構わないんだろ? それを僕が受けようと言ったんだ」


 そう言うと好青年は何も無い空間に手を伸ばし、そこに黒い穴を空けるとそこから直剣を取り出して見せる。


「《空間魔法》を使えるのは、君だけじゃないよ」


「ほう。名を聞こうか」


「ヴァイス・ラトウィッジ・キャザレル。君に、一矢報いよう」


 まるで哀れむようにクラウンを見据えると、ヴァイスは直剣を真っ直ぐに構えた。

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