第二章:歩み出す転生児-5



 ユニークスキル《強欲》。


 こんなスキル、私は記憶にない。


 なら転生神からのサプライズプレゼントか何かか?……いや、それは有り得ないだろう。


 短い間ではあったが、転生神の性格──というか気質を考え得るにサプライズなんて絶対しないだろう。例え私に何かの理由でスキルを与えようとした場合、あの神ならこんな遠回しに、強引に押し付けるではなくハッキリと宣言した上での形を取ると思われる。


 それに転生神は私の肉体と魂は《万物蒐集家フルコレクター》と《天声の導き》の二つで容量が限界だと言っていた筈。他のスキルが入り込む余地などない。


 ならこのスキルはなんなのか?


 考えられる可能性は……。私が最初から持っていた?


 ……そう考えると、不思議だが何故かとてもしっくり来る。


 何せスキル名が《強欲》だ。世間で否定はしていたが、自覚している位に欲深い私にはピッタリなスキルだとすら感じる。


 ではそんな《強欲》は、一体どんな権能を内包しているのか……。私はネームプレートに触れ、その説明書きを読む。すると、そこにはとんでもない内容が記されていた。


 ……何故強欲の中に《万物蒐集家フルコレクター》とその権能であったスキル達が内包されてあるんだ?


 そこでふと、私はとある事に気付き急いで《万物蒐集家フルコレクター》の元へ引き返し説明書きを確認する。


 すると驚く事に、既に《万物蒐集家フルコレクター》にはスキルが内包されておらず、単体であるエクストラスキルとなっていたのである。


 これは一体どういう……。何がどうしてこうなったんだ?


 私は戸惑ったが、一つだけ、漠然とであるが、思い当たる節があった。


 それは私が転生神から《万物博物館フルコレクター》を受け取った時に見た、あの〝幻覚〟。スキルの情報とその力が私の魂に流れ込んで来た時、私はその余りの奔流に呑まれそうになり、意識を飛ばし掛けた。


 しかし、そこで私の奥底で常に私を支え続け、そして導き続けていた〝強欲〟が、その膨大な情報と力を〝餌〟として全てを飲み込んだのである。


 まあ、私はこの時に見たモノを幻覚と決め付けて一切重要視していなかったのだが、まさかその時私が見たイメージは、幻覚などではなかったのか?


 正直馬鹿馬鹿しい話である事は重々承知している。だが他に思い当たる節などないのだ。


 そう思い、私は再び《強欲》の元へ戻り、改めてその説明書きを表示させる。


 恐らく、その時に見たイメージが今のこの《強欲》の中に《万物蒐集家フルコレクター》が内包されているという現状を表しているのだろう。


 一体何が、どうやってそうなったのかは全く判らないし、《天声の導き》が無傷なのも理解出来ないが、別にスキルが消失した訳でもない。困らないと言えば困らないのだ。


 寧ろここで気にすべきなのは、ユニークスキル《強欲》に〝最初から〟内包されていたであろうスキルである。


 転生神から貰い受けた《万物蒐集家フルコレクター》の内包スキルは確認しているから知っていたが、《強欲》の内包スキルに関しては全くの未知。知らないわけにはいかない。


 私は説明書きをそのまま下へスクロールし、一番下に表示されている見知らぬスキルを見付け、その権能を確認する。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《魂魄昇華》

 種別:スキル

 概要:魂を一つのスキルとして昇華させるスキル。使用者が殺傷した生物から魂を抽出し、一つのスキルとして昇華させる事が出来る。抽出した魂が一つの場合、その魂の〝質〟がある一定基準を上回っていれば一つのスキルを獲得することが出来る。抽出した魂が複数の場合、その魂達を一つのスキルに複合させる事が出来る。そうした場合、複合させた魂の〝質〟と〝数〟に応じてより上位のスキルへと昇華させる事が可能。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《魂魄進化》

 種別:スキル

 概要:所持しているスキルを魂を代償に上位のスキルに進化させるスキル。使用者が殺傷した生物から魂を抽出し、所持しているスキルに〝経験値〟として魂を捧げる事でスキルを上位の物に進化させる事が出来る。その際スキルの進化に必要な〝経験値〟が足らなかった場合、そのまま残留させて置く事が可能。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 以上がユニークスキル《強欲》が元々持っていたであろうスキルである。なんというか、自分で言うのもなんだが、少し強力過ぎないか?


 この二つスキルのお陰で私と敵対した生物は皆例外無く私のスキル化の餌食になるという訳だ。


 まあ、基本どのスキルもあくまで相手を〝倒す〟事が前提であり、それはつまりどんな強力なスキルを持った相手が居たとして、そいつが強くて私が勝てなければ意味が無いわけである。


 他に《継承》なんかの別枠のスキルもあるが、これだけでは流石に使い勝手が悪い。という訳で、私がこれ等スキル収集系スキルを使いこなすには強くならなくてはならない。ならなくては宝の持ち腐れである。


 ……ふう。一応これで一通りは見たか。


 色々とトラブルはあったものの、当初の目的であった所持スキルの確認は無事済んだ。それを踏まえての大雑把な目標も定めた。


 まずは戦闘能力の獲得。これに尽きる。


 剣術や体術を学び、魔法を勉強し、知識を蓄える。基本的だがこれが生命線になるだろう。


 将来的にどんな風になるかは一先ず置いておいて、取り敢えずはそれらを全力全開で推し進めよう。でなければ、私の野望など、到底叶わない。


 かなり今更になるが、私にはこの世界に来て人生を賭してでもやり遂げたい目標、野望がある。


 キッカケは転生神が私に贖罪の意を込めてスキルを与えようと展開させた、この世界に存在する全スキルが記されたスクリーン。それを見た瞬間、私の中の強欲は血気盛んに燃え上がった。


 この数えるのも嫌になる程の膨大なスキル群。コレら全てのスキルを、集めたい、蒐集したい。


 集めて、眺めて、愉悦したい。


 集めて何をするとか、集めたから何になるとか、そういう事じゃない。そんな事はどうでもいい。


 アレ等がこの博物館に整然と並び、極彩色に彩られた結晶達が燦然と輝く姿をこの目で眺め、体感したい。


 私にとって、〝全スキルコレクション〟が最大の目標であり、終わる事のない永劫目標である。


 それを成すためならば、新たに得たこの人生すら賭して実行する。


 故に収集系スキルの最高峰であった《万物蒐集家フルコレクター》を選んだのだ。


 更に偶然か必然か、ここに来てユニークスキル《強欲》の存在。


 迷っていたつもりなど毛頭なかったが、またもや私を〝強欲〟が後押ししてくれた。


 もう進むしかない。もう挑むしかない。


 ここまでお膳立てされて、引き下がる私ではない。


 さあ、ここから改めて始めよう。私の野望成就、その覇道を歩む、一歩を踏み出そうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る