第二部:強欲少年は魔法を渇望する
序章:割と賑やかな日常-1
七年後──。
ここはティリーザラ王国・貿易都市カーネリア。領主ジェイド・チェーシャル・キャッツの屋敷、訓練場。
私は今猛暑の中、宙を舞う木剣を眺めている。それが地面に落ちる軽い音が私の耳に届き、自身の体に入った力を抜いて深呼吸をする。
目の前には悔し気に顔を歪める私よりも年上の男。派手目な装飾が散りばめられた訓練服を着用している男の身形は貴族である。
そう、私は今、木剣を使った試合にて貴族を打ち負かしていたのだ。
そしてそれはこの男一人ではない。
既に今日だけで三人目。その全員が貴族であり、幸いなことに私はそれら全てに勝利を収めている。
だが、まだまだだ。
こちらから見えるだけであと二人、相手にせにゃならない。
ハッキリ言って体力的には割とキツイ。今すぐにでも止めてしまいたいが、これがそういう訳にもいかない。
理由は二つ。
一つは私を応援してくれる者が見守っている事。姉さんを始め、マルガレンに両親、そしてメイド。極め付けはあの教会で出会ったエイスにクイネにジャック、そしてアーリシア。
何がどうなってそんなメンツが私を応援しているのかの説明は後にするとして、私がこの連続試合を止められないもう一つの理由、それはそもそもこんな状況になっている理由にも直結する。
事の発端は二日前。突然私達の屋敷に一人の男が訪ねて来た。その男は身形が整っており、従者を一人伴っていた。明らかに貴族であるその男はメイドが対応しようと扉を開けたその時、いきなり大声を発した。
余りの声の大きさにメイドだけではなく屋敷に居た私や両親、剣術学校を卒業し、正式に王国剣術団に入団したガーベラ姉さんや他のメイド、使用人までもが顔を出した。
一体何事かと聞いてみれば私と剣で試合をしろと言って来た。
勿論私は知り合いじゃない。面識もない相手にそんな喧嘩を売られる覚えなんてないんだがなぁ、と首を傾げていると、私の隣で真顔で冷や汗を大量に流している姉さんが居た。
これは何かあると問い詰めた結果、実に呆れる話だった。
話は逸れるが姉さんは美人だ。それも飛び切りの美人。家族の贔屓目なしでだ。それに加えて剣術の腕前は天才的。最近じゃその美しさと流麗な剣捌きを「紅蓮の剣姫」とかいう通り名まで生まれる始末。
姉さんが入団した剣術団内でもその名声は留まる事を知らず男女問わずに若手の剣術家から絶大な人気を誇っている。
その結果起こったのが「ガーベラを誰が射止めるか」というなんとも不遜極まりない事態である。
そして何人もの男(一部女性も)が姉さんに対して猛烈なアプローチを仕掛けた。時には花を、時には宝石を、時には剣術での勝利をと形式様々。しかしそれを当の姉さんは悉く断り、蹴った。だがそれでも途絶える事のないアプローチの数に、
『私を射止めたければ、我が弟を倒せる位でないと話にならん!!』
そう、口走ったらしい。
実に呆れる、傍迷惑な話である。
その結果生じたのが私に剣術試合を挑み、勝利を収め、姉さんの関心を引こうという今の状況である。
最初こそ下らないと突っぱねるつもりで居たのだが、最初に訪れた貴族のたかが三男坊のあの姉さんを見るイヤラシイ目と私を見た時のナメくさった態度を見た瞬間、私の中で火が付いた。
その後そいつを完膚無きまでにボッコボコに負かし、執拗に煽り散らして帰ってもらったのだが、どうやらそいつが私の実力に尾ひれを付けて触れ回ったらしく、更に話がデカくなり、今に至る。
ホント、いい加減にして欲しい。
ぶっちゃけ最初は私の稽古にもなると割り切っていたのだが、今日の面子を見て頭を抱えた。
私が今木剣を弾き飛ばした相手は姉さんが所属する剣術団の中でも割と腕の立つ奴だったらしく、これでも結構骨が折れた。
なのにあと二人。しかもコイツより明らかに強いであろう奴がである。
あ゛ぁ……シンドイ。これは何か対策を講じねば……。差し当たって最初に……。
「ちょっと、休憩!!」
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