第一章:精霊の導きのままに-6

 マルガレンには私の事情のほぼ全てを話している。


 転生云々を簡潔に伝え、その後の私の行動や私の人生の目標、私が「強欲の魔王」であるという事実。その全てを教えた。


 〝収集〟というのもその内の一つだ。私が夜な夜な犯罪者からスキルを巻き上げている事もマルガレンには話し、アリバイ作りなんかを協力して貰っている。


 理由として第一に協力者が必要だったという事。私が今後スキルを集めるにあたり、邪魔になる存在や避けなくてはならない事態に遭遇するだろう。


 そんな時、私一人の力だけではいつしか限界が来るのは目に見えている。


 自己評価が高めなのを自覚している私だが、だからと言って私が一度のミスも無く事を成せると考える程には自惚れてはいない。


 私とて当然失敗する。極力可能性は潰すが、それでも些細な綻びが後々に大きな亀裂として襲って来る時が来る。


 中でも一番マズイのは私が「強欲の魔王」であると世間に知られる事。


 当然な話だが、〝魔王〟という存在は世間一般には歓迎されない。それどころか存在が確認され次第即効対処、処理される宿命だ。


 〝勇者〟と違い〝魔王〟の証である大罪スキルはその所有者の〝負〟の欲望を強く刺激する。


 それによって引き起こされる惨事など、容易に想像が付くというもの。オマケにスキルの権能が強力だからタチが悪い。


 私の場合強欲をある程度制御出来てはいるが、世間一般からすればそんな事は知った事ではないし信用も出来ない。ましてや異種族の魔王など災厄の対象でしかない。


 仮に私が魔王であると世間に広まってしまえば私はたちまち指名手配。自由に行動出来なくなる上に逃亡生活を余儀なくされる。


 いっそ魔王として好き勝手に暴れるのも悪くはないのではとも考えた。


 魔王として振る舞えば、それを退治するべく獲物が向こうからやってくるだろう。私はそれを返り討ちにし、相手からスキルを奪うだけでいい。


 効率の面では悪くないし、私は堂々とスキルを収集出来る。下手に偽装工作や回りくどいやり方をしなくて済むのは良い。


 だが、それでは駄目なのだ。


 待っているだけで良い? そんなの退屈じゃないか。苦労して苦労して苦労を重ねて手に入れてこそ価値があるのだ。


 勿論効率を求めない訳ではないし、あえて遠回りする程酔狂じゃない。


 それに〝魔王〟と知れ渡ってしまった場合、望む望まざるに関わらず下手に信奉されかねない。弱者が強者に従う様に、〝魔王〟という強大な力にあやかろうとする輩が私から恩寵を賜ろうと近付いてくる。


 はっきり言えば面倒だ。前世で色々指示する立場にあった身としては、もう懲り懲りなのである。故に私は魔王である事を隠し通し、スキルを収集して行く。


 その為にはマルガレンの様な私の事情を知っている人物が必要不可欠。彼には今後私のフォローをして貰うつもりだ。


 そして第二に、マルガレンからの信用を揺るぎないモノにする為だ。


 マルガレンには今後数十年間単位で私に仕えて貰うつもりでいる。そんな彼に隠し事をしたままでは後々に軋轢が生まれかねない。


 逆に私の他の誰にも話すつもりが無い事情をマルガレンにのみ話す事で彼からの忠誠心はより強い物になるだろう。


 忠実で優秀な従者。これ程頼もしく、手に入れるのが難しいモノは余り無いだろう。


 そもそもの話、マルガレンには嘘が吐けない。


 今の所マルガレン以外に所有している者を見た事がない希少スキル《真実の晴眼》。


 この貿易都市であるカーネリアと王都セルブのスクロール屋、そして私が知る限り最大の品揃えを誇るメルラのスクロール屋にすら置いていなかったこのスキル。


 その権能はわゆる嘘発見器。嘘を吐けば視覚的に真実か嘘かが分かるというスキル。故に私はマルガレンには嘘を吐く事が出来ない。まあ、それが無くとも話すつもりではいたのだが……。


 初めて事情を話した時、マルガレンは半信半疑といった具合だったが、直ぐさま私にスキル《真実の晴眼》を使いそれがちゃんと真実であると信じてくれた。


 その甲斐あってか、話す前と後で若干だがマルガレンの私に対する接し方に敬意を感じ取れた。内心で思い描いた通りに事が運び、私としては満足だ。


 以上の二つの点において、私はマルガレンを全面的な協力者として尽くして貰うつもりだ。


「頭を冷やす……ですか」


「ああ。夜の〝収集〟は暫くは見送るつもりだ。犯罪者の所持スキルは偏りがあって運が良くなければ最早旨味がない。それと情けない話だが、私はどうやらぬるま湯に浸かり過ぎていたみたいでな……。アイツ等との日常が居心地良くなっていた……」


「それは……そんなにいけない事なのですか?」


 いけない、か……。そうだな……。


「ああ、いけない。それじゃあ駄目なんだよマルガレン。少なくとも私の気持ち、心は一歩二歩引いた位置に居ないといけない。客観的に、俯瞰で、冷淡でいなければならないんだ」


「…………そこまでして、一体何を為さるんです?」


 マルガレンは真剣な眼差しで私を伺う。私の真意を見極めんとするその眼は、まるで私の選択の成否が問われている様で少し居心地が悪い。


 だがこれが私が課したマルガレンの役割の一つ。コイツの前で自身を偽らない、という私なりのケジメだ。


「私は今後、仲間を増やしていこうと考えている」


「仲間、ですか?」


 先程の私の発言とまるで反対の方針に思わずといった具合に首を傾げるマルガレン。まあ、それだけならそんな反応をするだろう。だが本題はここからだ。


「育てるんだよ、私が。沢山のスキルを仲間に習得させ、強くする。そしてタイミングを見計らい、私が貰い受ける。それが今後の大まかな方針だ」

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