第一章:精霊の導きのままに-7
「育てる……? 何故そんな回りくどい事を? 今までの犯罪者同様、問答無用で奪ってしまえば良いのでは?」
コイツ、私に毒されたか? 中々どうして年齢不相応にエグい事を言うな。だがまあ、疑問としては当然か。
「いや、寧ろこっちの方が効率的には良い。考えても見ろ? 普通にスキルを習得する場合、一つずつ習得するのが限界だ。特に魔法系、技術系スキルの習得には奪う以外の方法だと自己鍛錬が基本、時間が掛かる」
魔法系にしろ技術系にしろ、スキルを一つ習得するのには時間が必要だ。確かにスキルを奪うのは簡単だが、四六時中そればかりしている訳にはいかない。だがだからと言ってスキルを一つ習得するのに時間を掛けるのは効率が悪い。そこでだ、
「だから複数人にスキル習得を促す。なるべく私と被らない様に配慮し、尚且つ希少なスキルを可能な限り習得させる。そして育ちきったところで貰い受ける」
「成る程……。ではエイスやクイネ、ジャックもその対象なのですか?」
「アイツ等は……まあ、見定めてる最中だな。あの年なら私が促せばそれなりに多くのスキルを習得してくれるだろう。それに、仲間は多いに越した事はない」
私は飲み干した紅茶のカップを机に置き、マルガレンにお代わりを促す。それを確認したマルガレンは一糸乱れぬ手付きで追加の紅茶をカップに注いでくれる。
「それを踏まえて今後、私はスキルを探す為に各地に冒険に出れる職に就くつもりでいる」
「冒険……冒険者ギルドに所属するのですか?」
この世界に存在する
「まあ、それも悪くはないのだがな。冒険者というのはあくまで〝探索〟がメインなんだ。魔物退治の専門家には「魔物討伐ギルド」という別の部門が担当している。あぁ、因みに両者共に戦役免除が適当され、戦時には参加出来ん」
「それのどこに問題があるんですか? 魔物退治も戦争も危険なモノではないですか。それを回避出来るのは良い事ではないですか」
「私はなマルガレン、「免罪符」が欲しいんだよ」
「めん、ざいふ?」
「簡単に言えば「理由」だ。魔物を殺し尽くしていい理由、人を犠牲にしていい理由。私はそれが欲しい。だから魔物を公的に退治出来、人の命が軽くなる戦争に駆り出される職に就きたいんだ」
目を丸くするマルガレン。だが直ぐさま頭を切り替えたのか、一旦目線を逸らし小さく息を吐いて再び視線をこちらに移す。
「坊ちゃん、魔物退治ならとにかく、戦争をそんな風に言うのは不謹慎ですよ」
「公共の場じゃないんだ、構うことはない。それに、私からしたら戦争なんて宝の山でしかない」
「…………まあ、坊ちゃんが良いのでしたら僕は何も言いませんが……。というか戦争はわかるのですが魔物退治はなんの意味が?」
「何を言っているマルガレン。スキルを持っているのは何も人間だけではないぞ? 当然、魔物だって持っている」
「申し訳ありません。勉強不足で……」
「そうか、まあいい。魔物は私達人族や異種族以外で唯一スキルを所持している生命体。当然私の狩り対象だ」
魔物は野生の動植物が多量の魔力に適応し、凶暴化した生物としての一種の形態。だがその数自体は余り多くは無い。時折はぐれた魔物が顔を見せる程度でなんなら旅先の危険は山賊や野盗の方が多く目立つ。
だが
「成る程。それで魔物退治と戦争が出来る職に……。しかしそんな職がそんな都合良くあるのですか?」
「そうだな……。目星は付けている。難易度は高いだろうがな……」
私は追加で注いで貰った紅茶を飲み干し、そのままベッドへ足を運んで寝っ転がる。今日は本当に疲れた。
「…………そろそろお休みになられますか?」
「ああ、寝る。お前も今日は御苦労だったな。お前も今日はもう寝てしまえ」
「ありがとうございます。では僕も失礼します。おやすみなさい」
「おやすみ」
マルガレンに退室ついでに灯を消してもらい、マルガレンが部屋を出て行く。
部屋は暗闇に包まれ、窓から微かに月明かりのみが差し込む程度だ。
さて、明日は明日で大事な日だ。いや、正確にはそうなるであろう日だな。
曖昧なのはぶっちゃけ私の明日の努力次第というわけなのだが、まあ、十中八九成し遂げられるだろう。
いよいよだ。この七年、そればかりを目指していた。教本やリリーから聞いていた年月よりは早く出来る予定だが、まさかこれだけ時間を費やす事になるとはな…………。
私が七年掛けてアレだけしかスキルを習得出来なかった要因にもなっている。…………まあ、私が甘い考えでいたのが一番大きいわけだが……。だがきっと、それだけの価値はある。あるはずだ。
ああ、楽しみだ。
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