第三章:傑作の一振り-25
私は剣を手に取り眺める。
炎の様な意匠を凝らしている鞘は、その見た目だけで熱を感じさせる。
鍔はシンプルな形状をしているが、その中央にはトーチキングリザードから採取した魔石の一部が燃え盛る様に煌めき、威圧感を放っている。
鞘から刃を抜いてみれば、そこにはまるで血の結晶の中を業火が渦巻いている様に波紋が広がり、熱を発している。
……はぁぁぁ……。
「どうでぇ!! 良ぃ〜刀身だろ!!」
「はい……素晴らしいです……。刀身というより、寧ろ宝石、水晶の様ですね……」
「へっへっへっ……。その刀身はよ、トーチキングリザードの魔石をボルケニウムで包み込んであるんだ!! ボルケニウムもおめぇさんが持ち込んだ素材を練り込んであるから強度や硬度、おめぇさんとの親和性も高水準だろう」
「……確かに。こうして手にしているだけで、まるで剣が身体の一部の様にしっくり来ます。今まで使って来たブロードソードとは比べ物にならない……」
持った瞬間に感じた。
この剣は私の、私の為だけの剣だ。
「本当に素晴らしいです。ありがとうございます」
「なぁに、こっちも良い仕事させて貰ったよ。それで代金の方だが──」
と、代金の話をされそうになり、私は咄嗟に手でそれを制止する。
「な、なんだよ」
「あ、いえ。もう一つ頼んでいた方の進捗も聞きたくてですね」
どうせなら一緒に払ってしまおう。値段がいくらになるか分からないが、まあ、余った素材を売れば足りる。……筈。
「ん? あぁ、あれか。ちょっと待ってろ、説明してやるから」
……説明? 何か問題でもあるのか?
そう疑問を感じながらも、ノーマンが棚から何かを取り出すのを見守り、マルガレンも私に勿体ぶられたのもあって気になるのか、少し前のめりになる。
「こいつをちょっと見てみろ」
言いながらノーマンが取り出したのはトーチキングリザードの毒腺と毒袋、毒液がそれぞれ保存された瓶。それと私が渡しておいた──
「え、これって……。坊ちゃんのナイフ……ですか?」
そう。ノーマンが手にしているのは、私が五歳の頃から
「そうだ。使い込んでいて愛着があるんだが、最近、流石に素人の手入れじゃ限界が来てな。今じゃペーパーナイフ程の切れ味しか無いし、芯にもガタが来ている」
荒々しい使い方を何度かして来たからな。五歳の頃に買った安物のナイフにしちゃ、持った方だが……。だからといって捨てるのも……。
「おう。一応一通りの点検は済んでる。確かにボロボロだが、おめぇさん丹精に手入してたんだろう? 聞いた年数にしちゃ綺麗なもんだぜ」
そうやって褒められるのは若干照れる物があるな……。
「あ、もしかして坊ちゃん。このナイフにトーチキングリザードの毒を組み合わせるつもりなんですか?」
お、流石マルガレン。
「その通りだ。この剣に毒が使えないのなら、別の物を毒武器にしてしまおう、ってな。そこで私が愛用していた限界の近いこのナイフをメインに、なんとか作ってくれないかと、ノーマンに頼んでおいたんだ」
それにナイフなら毒とも相性が良い。暗殺に向いたナイフが毒武器であれば、致命傷を逃したとしても相手を殺す事が出来るだろう。
《
と、それよりだ。
「それで、説明、というのは?」
「おおう、そうだそうだ」
そそくさとノーマンがポケットから取り出したのは、直径一センチ大の長方形の金属片。それを三つ、掌に乗せている。
「この金属片はおめぇさんのナイフに使われてる合金よりも一回りくれぇスペックが良い合金だ。いいか?よぉく見てろ?」
ノーマンはそう言いながら三つの金属片をそれぞれの毒物が入った瓶に一つずつ投入して行く。
すると途端に金属片は尋常では無い量の泡と刺激臭を放ち始め、数秒程で跡形も無く溶けて無くなってしまう。
「これは……」
「見ての通りよ。トーチキングリザードの毒液は引火し易いのも特徴だが、その腐食性もかなりのモンなんだよ。この合金でこの有様じゃぁおめぇさんのナイフなんてイチコロだ」
成る程。確かにこれでは話にならないな。
最初にこの毒液の腐食性を目の当たりにした時に何か可能性を感じたが……。残念だな。
「お? なぁにシケた面してんだよ! 話はまだ終わりじゃねぇ!!」
ノーマンはそのゴツい人相を歪め、まるで勝ち誇る様に笑って見せる。
「と、言いますと?」
「実はよ、あるんだよ!! この腐食性、いや!! これより強力なのにも耐えちまう金属が!!」
ほう。そんな金属が……。前世では金や銀、白金なんかが耐食性が高いが……。武器に使えるかどうか……。
「ホラっ!! コイツだよ!!」
そう言いながらテーブルに勢いよく乗せたのは、何処かで見た事がある一本の剣。刀身が曲がる細身の片刃剣、シャムシール。
「このシャムシール……。あの時の」
「ガッハッハッハッ!! 良いお土産置いてくれたもんだぜあの男!!」
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