第七章:事後処理-13
マルガレンの目から、涙が溢れた。
それは止まる事なく次々に流れ続け、次第に嗚咽も混じり始める。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、隣で静観していたドロシーがハンカチを取り出して優しく拭いてやっている。
「良かったですねマルガレン……。貴方にはきっと、これから幸せが山ほど訪れるでしょう。だから胸を張って、彼等の元へ行きなさい」
そんなドロシーの表情は慈愛に満ちており、側から見ただけでも心の底からマルガレンの幸せを願い、送り出せる事に喜びを感じているのが分かる。
それはそうと、姉さんである。
横で気が気じゃない思いをしながら聞いていたが、どうやら姉さんに任せて正解だったようだ。
そう思い隣に座る姉さんの様子を伺うと、なんとも言えない表情をしている。
口元はなんだかニヤけそうなのか口角が上がろうとするのを必死に堪えている。目はなんだから泳ぎ気味で落ち着きがなく、額には汗が噴き出していた。
なんだ? 姉さんは今どんな感情でそんな表情になっているんだ? 前世で磨いた他人の表情の機微を察する能力には自信があったのだが……。
「…………どうしたんですか姉さん」
「え!? あぁ、いや……。カッコいい事を言ったつもりでいたのだが、泣かれてしまって今どうしたらいいか分からん……。なあクラウン!! どうしたらいい!? 謝った方が良いか!?」
……あー、慣れないことしたからこの結果に頭が追い付いていないのか……。でもまあ、
「大丈夫ですよ。アレは嬉し泣きです」
「そ、そうなのか!?」
「はい。流石は尊敬する私の姉さんです」
「あ、ああ。そうか? …………ふへへっ」
まぁた照れてる。今日は出血大サービスだな。まあ、それはさて置いて。
「マルガレン。姉さんに先に色々言われてしまったが、勿論私も同じ気持ちだ。名が無い事に一々私は拘らない。だがどうしてもと言うなら私が付けてやったっていい。そこはお前に任せる。だから私の側付きとして、使用人になってくれないか?」
マルガレンはなんとか嗚咽を抑えながら、未だに流れる涙を拭い、真っ直ぐ私の目を見る。その目は力強く、マルガレンの強い意志が宿っているのが感じられる。
「僕に、アナタの側付きをやらせて下さい!! よろしくお願いします!!」
面会を終え、私達はドロシーとマルガレンに教会の入り口で見送られている。
今回は面会のみ。肝心の引き取りはマルガレンの爵位関連のゴタゴタが落ち着き、父上が正式にマルガレンを引き取る手続きを終えて始めて出来る。
寂しそうにするマルガレンだが、そんなゴタゴタも数日で落ち着く。その間は私達もこの王都で過ごし、ちょくちょくこの教会に訪れてマルガレンと過ごす予定である。
「マルガレン、そんなに寂しがるな」
私がそう言うとマルガレンは頷いてくれる。私ももう少しマルガレンと話をしたかったのだが、ここに来る前に姉さんと買い物をする約束をしている。故に今からマルガレンと話をしてしまうとその時間もなくなってしまうのだ。
マルガレンには悪いが話す時間なら後々にたっぷりある。今は我慢してもらおう。
「では、私達はそろそろ行きます。今日はありがとうございました」
「いいえこちらこそ、マルガレンを引き取って頂きありがとうございます。どうかマルガレンをよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるドロシーに、私達もお辞儀をしてから振り返り、教会の扉に手を掛ける。すると、
「おい! お前! まだ帰るな!!」
何やらけたたましい声が私の耳に届いた。
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