第五章:正義の味方と四天王-16
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「さて。これで全員相手をし終わったわけだが……」
ロセッティ達四人といつの間にか居る師匠が待つ場に戻って来た私は開口一番にそう口にした。
しかし皆の顔はどれも悲痛や疲労で沈み切っており、反応はイマイチ悪い。
まあそれも当然だ。何せ当の私が心を折った直後なのだからな。寧ろこうなっていて貰わねば私が困る。
彼等を序盤から圧倒し、もっと短い時間で決着を着ける事も出来はしたが、それでは心が折れる前に諦めてしまって意味が無い。
故に周りくどくとも彼等の実力を発揮させた後、一度は優位に立たせてからそれを覆すという手法でもって丁寧に折ったのだ。
そう。彼等に私の実力を知らしめ、そして生じた心の隙間に、私という存在を挟み込む為に……。
「これで理解したろう。今代蝶のエンブレム所有者である私の実力と、君達との差が。君達は確かに実力者ではあるが、決して強者ではない」
「「「「……」」」」
「……グラッド」
「──っ!?」
私の唐突な呼び掛けに驚愕し顔を上げたグラッドの細く吊り上がった目を私は見据える。
「姿を消す技術、そして様々なブラフを織り混ぜながら相手を翻弄する戦い方とその胆力は称賛する」
「は……え?」
「だがここぞという時にお前は殺気を隠せていないし、折角の《嵐魔法》があの用途だけでは宝の持ち腐れだ。お前ならもっと上手いやり方を導き出せる筈だ」
「あ……あぁ、はい……」
「次にディズレー」
ディズレーもまた「俺かっ!?」とでも言いた気な顔をしながら私の顔を覗く。
「お前の《磁気魔法》による戦闘方法や《地魔法》を利用した妨害工作は見事だが、予想外の事態に直面すると判断が鈍る傾向にある。あらゆる可能性を想定して行動しなければ負けは必定だぞ」
「お、おう……」
「次にヘリアーテ」
ヘリアーテは顔を上げるも、私に言われた事を余程気にしているのか、戦闘中に見せていた活発さに影が差し、私を睨み付けるので精一杯の様子だった。
「《雷電魔法》を使った身体強化による超速戦闘は素晴らしいものがある。アレを極めれば私ですら対応出来ない程にまで仕上がるだろう」
「……そう」
「だがあの時にも言ったが君にはまだ覚悟が足りない。こればかりは経験していくしかないが、あるのと無いのとじゃあ雲泥の差がある。精進しなさい」
「……」
「次、ロセッティ」
「は、はい……」
ロセッティに関しては最早目に光が宿っておらず、返事はするものの顔を上げずにそのまま虚空を見詰めている。
「君の《氷雪魔法》による場の支配力や汎用性は素晴らしい。然しもの私も対応するのに一苦労した程だ。胸を張って良い」
「はは……そう、ですか……」
「だがその割に攻撃は単調であの戦法を万全に活かし切れていない。それに君は意外にも熱くなる傾向にあるみたいだ。もっと物事を冷静に見なさい」
「……善処します」
「後はヴァイスだが……」
私は振り返って後ろを確認してみるが、ヴァイスは未だにあの場に膝を突き虚な目で地面を見詰めて動かないでいる。
「……まあ、アイツは後で良いか。取り敢えずは──」
私は空を見上げる。
太陽は真上辺りから陽光を差しており、今が正午近いであろう事が解る。
本来ならこの時間に集合し、五人と勝負しようと考えていたのだがかなり早まってしまったな。
だが丁度良い。
「よし。昼飯にしようか」
「……はい?」
「昼、飯……?」
これが私の独り言であったなら何の反応もしなかったであろうロセッティ達が困惑したような顔を私に向ける。
驚くのも無理はない。私は彼等に向けてそう言ったのだから。
「そうだ。頭やら体やら使って疲れたろう。なんなら私の部屋の風呂を交代で使いなさい。さっぱりするぞ」
「あ、あの……」
「なんのつもり?」
〝彼等の好感度を稼ぐ〟。それだけの事だ。
「今昼時だぞ? 腹は空いてないのか?」
「それは──」
と、ヘリアーテが言い掛けた瞬間、ディズレーの腹の虫が盛大に鳴きだし、他四人からは呆れたような顔が向けられる。
「アンタねぇ……」
「しょうがねぇだろーがっ!! 昼時にあんだけ体力やら魔力やら使やぁ腹ぐらい空くってのっ!!」
「まあ、分かるけどねー。でもボク等ボコボコにした相手から施し受けるのはねー……」
グラッドが皆の言いたい事を代表して口にすると全員が無言のまま頷いてから再び私の方を見る。
「悪いんだけど、やっぱり遠慮──」
「クラウン様ーーーーっ!!」
ヘリアーテが最後まで言い終わる前に、それを遮る形で聞き覚えのある可愛らしい声が耳に届く。
声のした方へ視線を向けて見れば、そこには大きめのバスケットをそれぞれに持ったアーリシアとロリーナ、そして布に包まれた縦長の箱を手下げたティールの姿があった。
「え、誰?」
「クラウン……様?」
疑問が飛び交う四人を無視し、元気良く駆け寄って来たアーリシアを簡単に出迎える。
「こんにちはクラウン様っ! 今日もお元気そうで何よりですっ!」
「ああ、私は
大事そうに抱えているバスケットからは焼き菓子の香ばしい匂いと甘酸っぱい匂いが漂ってくる。
これだけで大体の察しはつくが……。アーリシアの言いたくて仕方が無いとばかりの表情を見て取り敢えず
するとアーリシアはいつものドヤ顔を見せ大袈裟に「パンパカパーンっ!!」などと口で盛り上げながらバスケットの蓋を開けた。
中には焼き立ての香ばしい匂いと色が際立つプラムケーキがバスケットの大きさギリギリに詰まっていた。
「プラムケーキ……焼き立てだな」
「はいっ! 今朝用意していた物を先程焼いて来ましたっ!」
「またなんでこんな時間にこんな手間の掛かる物を? 今朝から仕込んでまで……」
「クラウンさんの為ですよ」
そのタイミングで同じ大きさのバスケットを抱えたロリーナとティールが合流し、アーリシアがプラムケーキを焼いた理由を教えてくれる。
というか、私の為?
「今日は特別な日だったか?」
「いえ。ただ第一次入学式の際はクラウンさん大立ち回りしてかなりお疲れでしたから。今回も似たような事があるんじゃないか……と」
「疲れた時には甘い物ですっ! だから大きな物をご用意したんですっ!」
「大きい、ねぇ」
改めてバスケットの中のプラムケーキを覗く。
大きさとしては大体三十センチ……Lサイズのピザ程で、厚みも中々にある。どう見ても一人前の量ではないが、私なら問題無い。
それと──
「ロリーナのバスケットもデカいな。中身は?」
「お昼ご飯です。今日は天気が良いですし、何処か木陰で……とも思っていたのですが……」
ロリーナは私の背後に居る精神的に満身創痍な四人と師匠を見遣り、何かを察したようにバスケットの蓋を開け中身を覗く。
「全員分は流石にありませんね……」
「外で食べる事に拘らないのなら私の部屋に行こう。あそこなら料理も追加で作れるしな」
「はい、そうしましょう。食材は足りますか?」
「十分にある筈だ」
「なら問題ありませんね。行きましょう」
「先に行っていてくれ。私はもう少し彼等と話してから行く」
「分かりました」
頷いたロリーナはアーリシアに小さく「行きましょう」と声を掛け、アーリシアは「また後でっ!」と元気良く私に手を振ってから歩き出した。
「じゃあ、ワシも行くかの」
四人から離れ、ロリーナ達に付いて行こうとする師匠。そんな師匠に──
「あれ、師匠も昼ご一緒なさるんですか?」
「嫌な言い方するのぉ……。ワシは仲間外れか?」
「冗談ですよ。お詫びに好きな品を一品お作りします」
「ならアレを用意してくれ。なんと言ったかのぉ……」
「めふん、ですか? 鮭の内臓の塩辛の」
「そうそれじゃっ!」
「こんな時間からお酒ですか? 寿命縮みますよ」
「たわけ。純粋に味が好きなんじゃよ。じゃあ、宜しく頼むぞ」
そう言って適当に手を振ってからロリーナ達の後を追う師匠。
……さて。
「で? お前は行かないのかティール」
てっきりロリーナ達と一緒に私の部屋へ行くのだと思っていたら、ティールはその場を動かず何故か私の背後を──厳密に言えば背後の四人を気にしながらこの場に留まっていた。
「ん? ああ、取り敢えずコイツをお前に見せようと思ってな」
四人から視線を外し、抱えていた布に包まれた縦長の箱を差し出し、布を取り去ってから箱を開ける。
すると中から現れたのは大木を模した木彫りの像。地面から幾本もの根が飛び出してうねっており、その威容も通常の大木の有り様とは違う。
これはもしや……。
「エロズィオンエールバウムの木彫りかっ!」
「あっ、分かった? 良かったぁ〜……。正直あんまり自信なかったんだよなぁ」
「いや、素晴らしいぞティール、実に素晴らしいっ! 下手をすれば何の変哲もないただの大木の木彫りに見えてしまうものをよくぞここまで躍動的且つ威風堂々と仕上げたものだっ!」
「いやいや、褒めすぎだろぉ……。俺としちゃ恐怖感すら溢れ出て来る仕上がりにしたかったんだが、流石に技量がなぁ……」
「しかしお前、よく記憶だけでここまで再現出来るな……。私もそこそこ記憶力には自信があるが、ここまで精密には覚えていないぞ?」
「お前と違ってあの時の恐怖心がしっかり心にあの時の情景を刻み込んでんだよっ! ……まあ、お陰でここまでの物を仕上げられたわけだから良かったんだか悪かったんだか……」
「ん? 良かったに決まっているだろう?」
「お前はなぁっ!?」
ふむ……。いやしかし、本当によく出来ている。これは私の《
エロズィオンエールバウムの木彫りを
気になり視線を向けて見れば、先程まで座り込み身動き一つしなかったヴァイスが立ち上がり、ロリーナと何か話している様子だった。
私には《地獄耳》があるから会話内容をここから聞き取る事も容易だが、そんな必要は無い。
私のロリーナに対しあんな親しみの篭った表情をしながら会話をするなど許さん。
今すぐ邪魔をしに行かなければ。
「悪いがティール。後ろの四人をこの後私の部屋でする昼食会に誘っておいてくれないか?」
「え!? 俺が!? またなんで俺?」
「ちょっとした野暮用が出来たんでな。それにさっきからチラチラとあの四人が気になってただろ?」
「あ、ああいや、まあ……そうだけど……」
「では頼んだ」
「あ、ちょっ……」
私はティールの制止を無視し、ロリーナに絡むヴァイスの元へ向かった。
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「ホントに行きやがったよアイツ……。はあ、しょうがねぇな……」
ティールは諦めたように頭を掻きながらこの状況に付いて来れずただ黙って静観していたロセッティ達四人に歩み寄り、その姿を見て一つ溜め息を漏らした。
「さっきから気になってたけど、もしかしてアイツにコテンパンにやられた? 君達」
「だ、だったら何よ……」
少し語気を強めにティールの質問に答えたのはヘリアーテ。
ヘリアーテはクラウンと親しそうに会話していたティールに対し睨み付けながら警戒心を露わにするが、当のティール自身はそれを受けて何やら誤解があるな、と察する。
「最初に言っとくけど、俺はアイツの友達ってだけで俺自身はアイツみたいに強くもないどころか今の君達にすら足元にも及ばない最弱な男だよ? 別に虐めたりしないって」
「そっかそっか。でもその割にはあの人に認められてたみたいだけどぉ?」
「俺が唯一他人よりかは自慢出来るモンをアイツが認めてくれてるってだけだよ。強さとか賢さじゃないの」
「で、でも、あの人の仲間……でしょ?」
「アイツの仲間だからってみんながみんな君達を虐めるわけじゃないっての。というかアイツそこまで思われてんの? どんな事したんだアイツ……」
心底呆れたようにもう一度溜め息を吐くと、ティールはヘリアーテとロセッティに近付き懐から二枚のハンカチを差し出す。
「まったくアイツは……。男女平等に痛め付けるのに
「ほ、施しなんて……」
「良いから使えって。受け取らないってんなら力づくでその可愛い顔を元の綺麗にしてやってもいいんだぞ?」
そんな言葉を受け、渋々といった様子でハンカチを受け取るヘリアーテとロセッティ。
「あ、ありがとう……」
「ございます……」
「うん、よろしい。……で、だ。さっき君達をこの後の昼食会に誘えって言われたんだけど……」
ティールは言われた事を実行する為に彼等にそう説明すると、四人共に微妙な顔をしていた。
数分前までならこの時点で先程出ていた答えでキッパリと断っていたのだが、今はそれが喉に詰まる。
何故ならばアーリシアが自慢気に披露したプラムケーキのこんがりと焼き上がった姿と香ばしくも甘酸っぱい香りに直面し、自分の中の食欲に拍車が掛かってしまったのだ。
あんな美味しそうなプラムケーキが食べられるのか?
そんな可能性に、四人の気持ちが傾いていた。
今の疲れ切った体と頭に、あのケーキの糖分は染みるだろう。
彼等の中でも、少しずつ自分に対する言い訳を始めていたのである。
ティールは全てでは無いがそんな雰囲気をなんとなく感じ取り、「あ、もう一押しすればイケるな」と脳内で確信した。
「アイツ──クラウンの料理は絶品だぞ?」
「えっ?」
「数日前に鹿の魔物と魚の魔物を討伐してな。その肉がまだ余ってた筈だ。きっと今日の昼食会にも出るだろうなぁ……」
「ま、魔物の肉……」
「知ってるだろう? 魔物の肉はそんじょそこらの牛やら豚やらとはワケが違う。上級貴族が大枚叩いて食べるような最高級品だ。それを、アイツは、贅沢に使う」
「……ゴクッ」
「しかもアイツとさっきまでいたロリーナは料理も上手くてな。あの二人が並んで料理して出来上がるものに感激しなかった日は無い」
「へ、へぇ……」
「俺も何度かご馳走されたが……。いやぁ、現金な話、俺はこれだけでもアイツと友人になって良かったなぁってしみじみ感じるよ。なんせ下手な上街に並ぶ高級店より確実に美味いんだからなぁ。それを逃すってのはぁ、流石になぁ?」
「で、でも……負けたわたし達が行くのは……」
「アイツは別に気にしないし俺達だって気にしない。問題は君達のプライドと意地だけだ。それさえ手懐けられれば……」
「お、俺達も美味い飯が食える……ってか?」
「そうその通りっ! それに今の内にアイツと交流しとけば今日だけじゃなく今後もそんな美味い飯に招待される可能性だって十分にあるっ! わかる?」
「まあ……分かる、ね」
「じゃあ後は君達次第だ。アイツの言葉を借りるなら──」
ティールはそこで一つ咳払いをしながら、ちょっとわざとらしくクラウンっぽい雰囲気を醸し出し、口を開く。
「さあ選べっ! プライドに任せて激ウマ料理を諦めるか、はたまた招待に応じるかっ! 君達次第だ」
「……そんなの」
「決まってんじゃないのよ……」
今から数分前。ロリーナ達が現れて間もなくの頃。
座り込んだままだったヴァイスは、なんとかまともに頭が動くまでに気力が回復していた。
(……このままここに居てもしょうがない。帰ろう)
色々と考える事は多いものの、取り敢えずはこの場から動こうと思い立ち、立ち上がろうと顔を上げた。
すると──
「大丈夫ですか?」
ヴァイスの耳に、一人の女性の声が響く。
その声音は柔らかく、若干平坦ではありながらも優しい冷たさが心地の良い美しく可愛らしいものであり、ヴァイスはその声に思わず勢いよく顔を向けた。
そこに居たのは見目麗しい美少女。
そんな突如として目の前に現れた美人に、ヴァイスは目が離せなくなる。
「あ、ああ、いや、うん……。もう大丈夫だよ。ありがとう」
「そうですか? なら良いのですが……」
そう言うと彼女は余り変化の無い表情で少しだけ首を傾げる。
「……あの人にやられたんですか?」
彼女は視線を少し離れたクラウンに向けながらそう言うと、ヴァイスは自嘲気味に笑って答える。
「ああ……。完膚なきまでに、ね……」
「それは……大変でしたね」
「彼は常人じゃなかったよ。僕が自惚れていたのもあったけど、それ以上に彼は強く……そして恐ろしかった」
「恐ろしい……ですか?」
「ああそうだとも。……彼はきっと、一度や二度……いやそれ以上の人を殺した事があるんだろう。でなければあんな〝目〟は出来ない」
ヴァイスはクラウンが見せた〝本気で〟人を殺める覚悟が宿った瞳を思い出し、身震いする。
「君も気を付けた方がいい。あんな人殺しに近付いちゃダメだ」
ゆっくりと未だよろめく身体をなんとか起こし、立て膝になってから立ち上がったヴァイスは彼女に近付き、真っ直ぐその目を見る。
「彼がこの学院の頂点である以上、この学院は平和とは言えない。僕が、皆を守らなくてはならない」
「貴方が、ですか?」
「ああ。僕の正義は未だ揺るがない。彼の蛮行を止め、そして皆を……君を守ると誓うよ」
そう言って彼女の肩に手を置こうとした、その瞬間──
「気安くロリーナに触れるな、軟弱者が」
その手を振り払い、割り込んで来たのは先程までロセッティ達の元に居たクラウン。
彼が静かに怒りを露わにしながらロリーナを背後へ隠すようにヴァイスの前に立つ。
「な、なんで君が……」
「ふん……。大丈夫だったかロリーナ。何かされなかったか?」
クラウンはヴァイスを無視しロリーナに優しく語り掛ける。
「はい。特にこれといって」
「それは良かった。しかし君にしては珍しいな。他人を心配して声を掛けるなんて」
「全員を昼食にお誘いするのですよね? 彼は違ったんですか?」
「いや、一応そのつもりだったが……。気が変わったよ」
ヴァイスはこの二人のやり取りで色々と察する。
ロリーナと呼ばれた彼女はそもそもクラウンの仲間の一人であり、自分に声を掛けてくれたのは慈悲や優しさではなく、クラウンの事を考えた結果の行動なのだと。
最初にロリーナがクラウンを「あの人」と呼んだのは他人だったからではなく、寧ろ親しい間柄であったから出て来た気さくな呼び方だったのだと。
この二人の間に最早自分の入る隙間など無く、彼女の興味は自分には一切向けられていないのだと言う事を……。
「あのまま大人しく反省していれば昼食に誘ってやるつもりだったが。まさか未だに正義だなんだ守るだなんだとほざいた挙句ロリーナに手を出そうとするとはな……」
「い、いや僕は──」
「黙れ。貴様の言葉など私の機嫌が悪くなるだけだ。恥を知れ」
「くっ……」
「行こうロリーナ。そろそろティールが四人を誘い終える頃だ」
「またティールさんに無茶振りをしたんですか?」
「無茶振りではないよ。私は出来る奴に出来る事しかさせないからね。ああ見えてアイツは──」
クラウンはそうロリーナに笑い掛けながら彼女を伴って振り返り、二人一緒にティール達の元へ歩き出す。
ヴァイスは後ろを向いたロリーナに心の中で何かの気の迷いで多少なりとも自分を気に掛けて振り返ってくれないか、と僅かに期待した。
しかしロリーナはクラウンの顔を見上げるばかりで一切ヴァイスを気にする事なく、そのまま歩いて行ってしまう。
冷たい風が全身を撫で、心身に吹き荒ぶのを感じたヴァイスは、無言のまま学院の寮へと足を向けた。
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