第一章:満たされる予感-6
私の怒りは、既になりを潜めていた。
今私を突き動かしているのは可能性に対する期待。そしてその結果によってもたらされるであろう私の未来だ。
幸い転生神は世界創生以来初めての〝失敗〟を経験し、たかだか元人間である私に対して中々の負い目を感じている。
多少期待ハズレな結果となっても、何とか捻じ込んで私の望みを叶えて貰う。私は妥協はしないのだ。
そう無い胸の内に決意を固めながらも、私は目の前に広がる膨大なスキルの文字列を眺める。
不思議な事に先程判別出来ないと感じた文字が今は何故か読めている。これも神の為せる業なのだろう。まあ、私に選ばせる為に用意したのだからそもそも私が読めなくては意味が無いのだが……。
しかし、本当に膨大だな……。かなり便利そうなスキルもあれば、一体何の役に立つのか分からないスキルまで多岐に渡る。
例えばこのエクストラスキル《解析鑑定》。
スキル名の下にある説明によれば、このスキルは選択した全ての物体をその名のとおり解析し、詳細な情報を開示してくれるというモノ。熟練度の低い状態では大した情報は取得出来ないが、鍛えさえすればかなり詳細な情報を得る事が出来るらしい。
元人間の情報屋を営んでいた私にとって、情報を得るというのがどれ程重要かなど言うに及ばない。情報の数はそれに比例してかなりの強みになる。情報をより多く得る。それだけでこのスキルの重要性はかなり跳ね上がる。
それとなんの役に立つのか分からないと言えばこのスキル《
いや、全く使えないかと言われれば首を縦には振れないが、だからと言ってわざわざ望む力かと言われればそうではない。
それに私は元々猫好きだ。生前も会社兼自宅内で複数匹の猫を飼育し、戯れるのが日課だった程だ。そんな私にとって、このスキルの有用性は決して高くはない。スキル全てに効果のON/OFFの切り替えが可能らしいが、一体どんな状況になればこんなスキルが役に立つのか……。
と、そんな事を考えてながら私は無数のスキル群の斜め読みを進めて行く。
私が期待を込めて探しているスキルはたった一つ。私の望みを叶え、私の異世界生活に潤いと興奮をもたらしてくれる可能性を秘めたスキル。
そんな漠然とした目標を立て、目ぼしいスキルを次々と確認していく。ああでもないこうでもないと唸りながら探す事体感で数時間。私はとうとう、お眼鏡に叶うスキルを見付けた。
そのスキルの名はユニークスキル《
膨大なスキル群の数ある〝収集〟に特化していたスキルの中で上位に位置する複合型スキルである。
そしてその権能は以下の通りだ。
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スキル名:《強奪》
種別:スキル
概要:対象の魔法、技術、補助スキルを強制的に奪うスキル。しかし発動条件として相手を屈服させるか対象の意識が無い状態でなければならない。死体等に対する効果は無し。奪える数は対象一体に対して一種類だけである。
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スキル名:《継承》
種別:スキル
概要:対象の魔法、技術、補助スキルを相互任意の元、受け継ぐスキル。発動条件としてお互いに〝継承する〟という認識が必要であり、どちらかの認識が欠けていても発動しない。対象から受け継げる数は対象者が望む数に比例する。
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スキル名:《結晶習得》
種別:スキル
概要:対象を強制的に結晶化させ、スキルに還元するスキル。発動条件として魂の無い無機物、有機物であれば無し。しかしスキル習得率は限りなく低い。魂が宿っている場合、その対象を魂ごと一定時間〝結晶化方陣〟に留まらせなくてはならない。魂が宿っている対象を結晶化に成功した場合、ランダムで一つから三つまでスキルを習得する事が出来る。
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スキル名:《魔法習得補正lv1》
種別:スキル
概要:魔法系スキルを習得する際に補正が掛かる。レベルに応じて補正値が上昇する。
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スキル名:《技術習得補正lv1》
種別:スキル
概要:技術系スキルを習得する際に補正が掛かる。レベルに応じて補正値が上昇する。
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スキル名:《補助習得補正lv1》
種別:スキル
概要:補助系スキルを習得する際に補正が掛かる。レベルに応じて補正値が上昇する。
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スキル名:《
種別:スキル
概要:心象世界に顕現する巨大な博物館。今まで収集した魔法、技術、補助系スキルを〝結晶〟として保管、展示する事が出来、いつでも鑑賞、管理する事が出来る。尚、スキル《結晶習得》により獲得したスキルは結晶の形で展示される。その際、任意で結晶化した対象を無機物であれば現物のままに、生物であれば〝剥製〟の状態で館内に展示することも出来る。
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以上がユニークスキル《
魔法、技術、補助のスキルを〝収集〟する事に対する絶対能力。正直な話やり過ぎ感が否めないが、私は遠慮しない。チート級だろうがなんだろうが、知った事ではない。私の人生が掛かっているのだ。
特に気に入っているのが《
『……決まったのか?』
その時、転生神から声が掛かる。私がスキルを選んでいる間、催促するでもなくずっと待っていたのだ。待たせていた私が言うのも難だが、殊勝な事だ。
『ああ、私はこのユニークスキル《
『ほう、また珍しいスキルを選んだものだな。そのスキルは我等神々が一柱〝欲神〟が創造せしスキルなのだが、如何せん習得条件が厳し過ぎてな……。今現在迄誰一人として習得した者が居らなんだ。
転生神はそう言うなり私が選んだスキルの書かれたスクリーンに手を伸ばす。するとスキルの書かれた文字が青白く光り、転生神の伸ばした手に吸い込まれる。転生神はそのままその光を優しく握り、私に向かって振掛ける様な動作を行う。
途端、私の中の何か──恐らく魂に膨大な量の力と情報の奔流が流れ込んで来るのを感じた。怒涛の様に魂に押し寄せるそれらに、私は一瞬だが気を失いかけた。
だがしかし、暗転し掛けた意識を押し留めたのは、私の根幹に根付く強い強い欲求だった。
私のその欲求──強欲が、その力と情報を〝餌〟と見なし、全てを飲み込む。意識を失いかけた瞬間、そんなイメージが微かに浮かんだ。
今のは一体……。朦朧とする意識の中で見た幻覚?だったのだろうか……。判然としないが、兎も角今はかなり落ち着いていた。どうやらスキルが私に定着した様だ。
『無事、習得出来た様だな。さて、取り敢えずはスキルを一つ、貴様に与えたが……。一つで良いのか?』
何やら転生神が再確認してくる。どうやら本人としても贖罪が物足りないと感じているのだろう。正直こんな大層なスキルだけで結果としては万々歳と言っていいのだが、神だろうがなんだろうが、私は妥協も遠慮もしない。
『ふふふ。そんなワケないだろう? この私がこの機会を簡単に手放すと思うか?』
折角あの神様が一介の魂如きに下手に出ているのだ。これを利用せずしてなんとするか。
『そうか。では他に貴様は他に何を望む?』
『まずはこの《天声の導き》というエクストラスキルを貰うか』
《天声の導き》。自身に起こった事象を脳内でアナウンスしてくれるスキルだ。
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スキル名:《天声の導き》
種別:エクストラスキル
概要:所持者の思考を解析し、もっとも適したアナウンスを提供するスキル。所持者自身による設定変更も可能。所持者に対して発生した〝変化〟をアナウンスし、またその変化に対する対策または情報の開示を可能にする。ただしこの対策や情報の開示にはある一定の熟練度を必要とし、その他の機能に関しても一定の熟練度が必要になる。
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この文言から分かるのは、異世界にはスキルを獲得しても実感を持てない可能性──__獲得時の確認方法が無い可能性があるという事だ。
でなければわざわざこんなピンポイントな用途のスキルが存在する意味が薄くなるからな。
いざ異世界に行き、いつスキルを獲得したのか分からないんじゃあ色々と不便だ。あって越した事はない。
『うむ。また珍しいものを選んだな』
『珍しさで選んだワケではないんだがな。それで次なんだが──』
『待て』
転生神がそう制止を掛けると、ほんの少し間を置いてから再び話し始める。
『……今し方色々調べたのだが、此れ以上のスキル獲得は現実的ではない』
『どういう意味だ?』
『良いか? 貴様は転生する際に当然だが赤子の姿で生を受ける。それ即ち身体が未熟だという事だ。分かるか?』
……つまりはアレか。
『これ以上スキルを宿せば赤子の身体が保たない、と?』
『そうだ。貴様はただでさえユニークスキルとエクストラスキルを選んでいる。これ以上を宿せば生を受けた途端、肉体に異常を来たすだろう』
それは……流石に看過出来ないな。だが──
『転生神、お前が私の魂を弄るのだろう? ならそのスキルの容量もなんとかならんのか?』
妥協はしたくないのでな。リスクを避けつつリターンを可能な限り得る方法があるならば試すまでだ。
『き、貴様ッ!!転生神様に向かってなんたる態度を──』
『よせ』
分神の一柱が激昂するも、転生神はそれを一言で止めさせる。
私が言うのは何だが、随分と寛容な事だ。
『言っておくがな新道集一。我が手を加えるからこそ、ユニークスキルとエクストラスキルを宿せる魂と肉体になるのだ。特別な魂と肉体ですらユニークスキルを宿すだけに留まる所を、だぞ。理解したか?』
成る程……。やれるだけやってそれが限界という事か……。ならば次に選ぼうとしていた《解析鑑定》は
『……納得したようだな』
ここが要求出来る限界だろう。
『ああ。スキルに関してはその二つで構わん。だがその代わり一つ私の望みを叶えて貰おう』
『望み? 何だ? 申してみよ』
『なら遠慮なく……。私が晴れてこの世界に転生した暁には、私の〝今現在〟の記憶と自我をそのままの状態で転生させてもらおうか』
そう、
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